印刷(PDF/177KB)はこちらから 2009年05月21日 研究開発

統合失調症治療剤「ルラシドン」の第III相試験結果について

大日本住友製薬株式会社(本社:大阪市、社長:多田 正世)は、グローバルで自社開発中の統合失調症治療剤「ルラシドン」の最初の第Ⅲ相試験において、良好な結果を得ましたので、お知らせします。
急性期の統合失調症患者を対象とした6週間投与のプラセボ対照二重盲検比較試験である本試験において、ルラシドン80mg/日投与群は、有意な差を持ってプラセボ投与群より高い有効性を示しました。また、ルラシドン投与群はプラセボ投与群より低い脱落率であり、高い忍容性を示しました。
この試験結果は、米国サンフランシスコで開催中の第162回アメリカ精神医学会年次総会(5月16日―21日)で発表されました。

当社は、全世界規模で2,000人以上の患者さんに参加いただき、統合失調症治療におけるルラシドンの有効性と安全性を評価するPEARL (Program to Evaluate the Antipsychotic Response to Lurasidone) と名づけられた第Ⅲ相試験プログラムを実施中であり、今回の試験はPEARL の最初の試験(PEARL1試験)です。ルラシドン80mg/日投与群は、試験終了時点においてプラセボ投与群に比較して有意に高い有効性を示しました。
さらに、投与2週後から6週後の間の全ての評価時点で、主要評価項目のPANSS (Positive and Negative Syndrome Scale) の総合点および副次評価項目のCGI-S (Clinical Global Impressions Severity scale) の両方において、プラセボ投与群よりも高い改善を示しました。他の2つの用量(40mg/日、120mg/日)においては、これらの評価項目ではプラセボ投与群に対して有意な差は示しませんでした。

PEARL1試験の有効性の結果について、米国シンシナティ大学医学部の精神神経学、神経科学教授、統合失調症研究部長であるHenry Nasrallah(ヘンリー・ナスラーラ)医師は、次のように評価しています。「統合失調症の患者さんは、症状を安定化させ、効果的に治療するために、有効性、安全性および忍容性を併せ持った新しい薬剤を必要としています。ルラシドンは、統合失調症の患者さんにとって重要な新規薬剤となる可能性を持っています。」

ルラシドン投与群の体重への影響はプラセボ投与群と同程度(ルラシドン投与群はプラセボ投与群と比較して中央値で0.3kgの体重増加量)であるだけでなく、脂質や血糖値の変化への影響もプラセボ投与群と同程度でした。また、ルラシドン投与群の脱落率(31%)は、プラセボ投与群(43%)よりも低く、忍容性は良好でした。なお、有害事象による被験者の脱落率は、ルラシドン群で6%、プラセボ群で2%でした。

PEARL 1 試験における有害事象は概して軽微なものでした。ルラシドン投与群(L)での出現率が5%以上で、プラセボ投与群(P)に比べ2 倍以上多く認められたものは、アカシジア(L:17.6% vs P:3.1%)、傾眠傾向(11.7% vs 5.5%)、パーキンソン様症状(6.8% vs 0%)と体重増加(5.1% vs 2.4%)のみでした。

PEARL 1 試験の結果について、多田代表取締役社長は次のように述べています。「当社はルラシドンの開発に注力しており、一連の第Ⅲ相試験の完了とそれに続く米国FDA への新薬承認申請(NDA)を楽しみにしています。ルラシドンが、統合失調症の治療における現在のアンメットニーズに対する新しい治療薬として、患者さんや医療関係者に貢献できると信じています。」

当社の米国子会社である大日本住友製薬アメリカ(Dainippon Sumitomo Pharma, America Inc.)のAntony Loebel(アントニー・ローベル)臨床開発担当副社長は次のように述べています。「ルラシドンの臨床開発では、統合失調症の中核症状に対する有効性と安全性を確立し、更には同疾患における認知機能障害や、現在の治療法では十分に対処できない症状に対する有効性を探求中です。大規模なグローバル試験であるPEARL 1 試験は、既に実施済みの臨床試験のデータベースに、更に重要な新しいデータを加えることになります。」

以上

(ご参考)

【PEARL 1 試験のデザインについて】
PEARL 1 試験は、急性期の統合失調症患者を対象としたプラセボ対照無作為化二重盲検比較の多国間試験で、ルラシドン40mg、80mg、120mg またはプラセボを1 日1 回、6 週間投与して有効性と安全性を検討しました。DSM-IV 基準に基づいて診断された統合失調症患者のうち、PANSS 総合点数が80 またはそれ以上の精神症状の急性増悪を示す患者を対象としました。合計500 名の統合失調症患者を等しく4 群に無作為に割り付けました。
主要評価項目は、6週間投与におけるルラシドン群とプラセボ群各々のPANSS 合計点のベースラインからの変化量であり、重要な副次評価項目は、同じく6週間投与におけるCGI-Sのベースラインからの変化量です。有効性の項目は反復測定混合モデルを用いて解析しました。また、安全性の評価には、バイタルサイン、体重、心電図、運動障害評価(SAS, BAS,AIMS)および臨床検査値測定を実施しました。
この試験は世界の51 施設で実施しました。そのうち22 施設は米国の施設であり割り付けられた患者数は278 例、21 施設は欧州の施設で148例、8施設はアジアの施設で48例でした。患者の大半は男性であり、その平均年齢は39 歳でした。また、患者の統合失調症の罹病歴は平均14 年であり、この試験に参加するまでに平均して4 回以上の入院歴でした。

【米国プラセボ対照試験結果ついて】
PEARL 1 試験に先立ち実施した合計3つのプラセボ対照の6 週間投与の二重盲検比較試験に、650 人以上の統合失調症患者が参加し、そのうち392 人にルラシドンが投与されました。3 試験のうち2 試験で、ルラシドン投与群はプラセボ投与群に比べて投与量40mg/日から120mg/日の範囲で効果が有意に上回ることが示されました。残る一つの試験では、20mg, 40mg, 80mg/日の3用量群でプラセボ群に対して有意差を認めませんでしたが、試験の検出感度の測定の目的で入れていたハロペリドール投与群(10mg/日)においてもプラセボ投与群と有意差を示さなかったことより、結論付けられない「failed」の試験として位置づけています。

これらの試験の結果、ルラシドンは錐体外路症状、QTc 間隔の変化、体重、脂質および血糖値に関する副作用が軽微であり、忍容性に優れていることが確認されました。これら3試験の有害事象は概して軽度でした。これら3試験を併せたルラシドン投与群において、出現率が5%以上、かつ、プラセボ投与群に比べ2 倍以上多く認められた有害事象は、アカシジア(L:11.6% vs P:4.7%)、傾眠傾向(14.3% vs 7.1%)、悪心(14.8% vs 6.1%)でした。

【ルラシドンついて】
ルラシドンは、当社が創製し開発している新規化合物で、ドパミン-2、セロトニン-2A、セロトニン-7、セロトニン-1A およびノルアドレナリン-α2c レセプターに高い親和性を示すという特徴的な受容体結合プロフィールを有しています。また、ルラシドンは、ヒスタミン-1 とアセチルコリン-M1 レセプターに対しては低い親和性を示します。

【統合失調症ついて】
統合失調症は、慢性的に日常生活に支障をきたす深刻な疾病であり、米国だけで2 百万から3 百万人、世界中では2 千4 百万人以上が罹患しています。統合失調症は、男女の区別なく同様に発症し、世界的にその率に人種差はありません。統合失調症は治療可能な病状であり、環境要因と遺伝的要因の組み合わせにより発症すると考えられています。症状は、幻覚、妄想、思考障害、意欲低下、感情低下などの陽性、陰性症状だけでなく、記憶力、注意力または計画、体系付けあるいは決断する能力の障害、などの認知機能障害があります。米国における統合失調症治療にかかる総費用は2002 年で$62.7billion であり、そのうちの直接の医療費は$22.7billion といわれています。

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