印刷(PDF/271KB)はこちらから 2014年06月06日 研究開発

抗がん剤BBI608およびBBI503の試験結果を米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表

大日本住友製薬株式会社(本社:大阪市、社長:多田 正世)は、抗がん剤として開発中の「BBI608」および「BBI503」に関する試験結果が、米国臨床腫瘍学会(ASCO:American Society of Clinical Oncology)の2014年年次総会(開催時期:5月30日~6月3日、開催場所:米国シカゴ)において、ポスター発表されましたので、お知らせします。なお、今回の発表演題および発表要旨につきましては、2014年5月15日に開示しています。

1.BBI608:固形がん(単剤)の第Ⅰ/Ⅱ相試験(BBI608-101試験)の継続試験における新製剤の検討試験の結果

【抄録番号・演題】

  • 抄録番号 : #2546
  • 演題 : A phase I extension study of BBI608, a first-in-class cancer stem cell (CSC) inhibitor, in patients with advanced solid tumors.

【本試験の位置づけ】

進行性固形がん患者を対象とした第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験(BBI608-101試験)の用量漸増試験において、BBI608の安全性、忍容性、推奨用量、薬物動態および予備的な抗腫瘍活性の検討がなされました。その結果は2013年ASCO年次総会で発表され、2013 年6 月4 日プレスリリースにてその内容をお知らせしています。
今回発表したBBI608-101試験の継続試験における新製剤の検討試験は、服薬コンプライアンスの改善および副作用の低減を目的としたBBI608の第Ⅲ相臨床試験用新製剤の安全性、薬物動態および予備的な抗腫瘍活性を検討するために実施されました。

【発表概要】

結腸直腸がん、卵巣がん、肛門扁平上皮がんなどを含む、24例の進行性固形がん患者に対し、1日目にBBI608の旧製剤500mgを1回投与、4日目および8日目にBBI608の新製剤500mgを絶食時または食後に1回投与、その後は新製剤500mgを1日2回投与し、病勢の進行または忍容できない毒性症状が発現するまで毎日投与しました。その結果、両製剤間で、血中濃度に有意な差は認められず、また、食事による影響も観察されませんでした。
さらに、新製剤に関して投与間隔(4時間間隔で1日2回服用と12時間間隔で1日2回服用)の検討も実施しました。その結果、主な副作用として下痢、腹痛、吐き気、嘔吐、食欲不振、倦怠感などが認められましたが、12時間投与間隔での服用群では消化器系副作用が軽減されることが明らかとなり、第Ⅲ相臨床試験における推奨用量はおよそ500mgを1日2回、12時間投与間隔の服用と決定されました。
12時間投与間隔で服用した15例の患者のうち、結腸直腸がんは8例、結腸直腸がん以外は7例でした。結腸直腸がん以外の7例のうち2例に長期のSD(安定)が観測されました(卵巣がん患者で16週間、肛門扁平上皮がん患者で32週間)。なお、新製剤を服用した結腸直腸がん患者のうち評価可能な患者は6例であり、そのDCR(病勢コントロール率)は67%(4例)、PFS(無増悪生存期間)の中央値は17週間、OS(全生存期間)の中央値は40週間でした。

2.BBI608:固形がん(パクリタキセルとの併用)の第Ⅰ/Ⅱ相試験(BBI608-201試験)の結果

【抄録番号・演題】

  • 抄録番号 : #2530
  • 演題 : A phase Ib study of the cancer stem cell inhibitor BBI608 administered with paclitaxel in patients with advanced malignancies.

【本試験の位置づけ】

本試験(BBI608-201試験)は、進行性がん患者に対するBBI608とパクリタキセルとの併用投与における安全性、忍容性、推奨用量および予備的な抗腫瘍効果の検討を目的として実施されました。
本試験を経て、現在、米国で胃がん(パクリタキセルとの併用)を対象に第Ⅲ相国際共同治験(BBI608-336試験)を開始しています。

【発表概要】

<臨床試験(BBI608-201試験)の結果>
胃/食道胃接合部腺がん、卵巣がん、メラノーマ、膀胱がん、非小細胞肺がんなどを含む、24例の進行性がん患者に、BBI608の3つの用量群(200mg、400mg、500mg 各1日2回投与)とパクリタキセル(80mg/m²、静注、1回/週、3週投与1週休薬)を併用投与し、病勢の進行、忍容できない毒性症状の発現またはその他の投与中止基準に達するまで投与しました。
その結果、BBI608(500 mgを1日2回)とパクリタキセルとの併用において良好な忍容性が示されました。また、BBI608とパクリタキセルの併用による新たな副作用は観察されませんでした。主な副作用は、グレード1~2の下痢、腹痛、吐き気、嘔吐でした。グレード3は4例の患者で観察され、下痢、脱水、脱力でした。血液に関連する副作用は認められませんでした。また、両薬剤間の有意な薬物相互作用は確認されませんでした。
予備的な抗腫瘍活性では、評価可能な患者(15例)のDCR(病勢コントロール率)は67%(10例)でした。難治性の胃/食道胃接合部腺がん患者5例のうち3例でがんの退縮が認められました。前治療でのタキサン系抗がん剤が効果不十分な患者2例において5か月以上の長期SD(安定)が確認されました。また、白金製剤耐性の卵巣がん(2例中1例)、メラノーマ(3例中2例)、膀胱がん(3例中1例)、非小細胞肺がん(1例中1例)で、がんの退縮または16週間以上のSDが認められました。

<本試験の背景データ>
=BBI608とパクリタキセル併用時の非臨床試験(in vitroおよびin vivo)での効果について=
In vitroでのスフェアー形成試験において、パクリタキセル単独処理群では、スフェアー形成に対して影響しませんでしたが、BBI608単独処理群およびBBI608とパクリタキセルとの併用処理群ではスフェアー形成の抑制効果が確認されました。その際、細胞におけるリン酸化STAT3およびCD44の発現減少が認められました。
さらに、ヒトがん細胞を移植したマウスモデルにおける抗腫瘍効果試験において、BBI608とパクリタキセルとの併用投与群は、各単独投与群に対して、相乗的な抗腫瘍作用を示すことが確認されました。また、パクリタキセル単独投与群では腫瘍組織中のリン酸化STAT3およびCD44の発現減少は認められませんが、BBI608単独投与群およびBBI608とパクリタキセル併用投与群では発現が減少することが確認されました。

3.BBI503:固形がん(単剤)の第Ⅰ相試験(BBI503-101試験)の結果

【抄録番号・演題】

  • 抄録番号 : #2527
  • 演題 : A phase 1 dose escalation study of BBI503, a first-in-class cancer stemness kinase inhibitor in adult patients with advanced solid tumors.

【本試験の位置づけ】

本試験(BBI503-101試験)は、BBI503を患者に初めて投与した試験であり、進行性固形がん患者に対するBBI503の安全性、忍容性、推奨用量、薬物動態および予備的な抗腫瘍活性の検討を目的として実施されました。

【発表概要】

<臨床試験(BBI503-101試験)の結果>
結腸直腸がん、頭頸部がん、腎がん、肝がん患者を含む、26例の進行性固形がん患者に、BBI503を1日1回10mgから450mgを連続経口投与(1サイクル28日間)し、病勢の進行、忍容できない毒性症状の発現またはその他の投与中止基準に達するまで投与しました。
試験の結果、BBI503のMTD(最大耐用量)は確認されませんでした。BBI503は良好な忍容性を示し、グレード1~2の副作用として、下痢、腹痛、吐き気、食欲不振などの消化器系の副作用や倦怠感が観察されました。グレード3の下痢が450mg服用の2例で観察され、うち1例がDLT(用量制限毒性)でした。血液に関連する副作用は認められませんでした。BBI503は、1日1回の投与で300mgまでの用量で、用量依存的な血中濃度の上昇を伴う薬物動態を示しました。以上の結果より、BBI503の次相の推奨用量は、1日1回300mg投与に決定されました。
予備的な抗腫瘍活性では、評価可能な患者20例中11例(55%)がSD(安定)で、TTP(無増悪期間)の中央値は16週間でした。SDの11例のうち9例の患者において、16週間以上のSDが認められました。

<本試験の背景データ>
=BBI503の非臨床試験(in vivo)でのがん幹細胞への作用について=
ヒトがん細胞を移植したマウスモデルにおけるがん幹細胞様細胞に対する作用を評価する試験において、既承認のマルチキナーゼ阻害剤投与群では薬剤非投与群に対して腫瘍内のがん幹細胞比率の増加が認められましたが、BBI503投与群ではがん幹細胞比率が約1/7に低下するという作用が確認されました。

(ご参考:BBI608、BBI503について)

BBI608およびBBI503は、米国子会社Boston Biomedical, Inc.が創製し、がん幹細胞(幹細胞様性質を有するがん細胞)の自己複製を阻害し、がん細胞に加え、がん幹細胞に対して細胞死を誘導する新しいメカニズムのファースト・イン・クラスの低分子経口剤です。がん幹細胞およびがん細胞の両方に作用するために、がん治療の課題である治療抵抗性、再発および転移に対する効果が期待されます。
BBI608は、非臨床試験において、Stat3経路、Nanog経路およびβ-カテニン経路を抑制することが示されています。
BBI503は、BBI608とは異なる新しいメカニズムであり、非臨床試験において複数のキナーゼを阻害することが示されています。

(ご参考:用語解説)

忍容性
薬物によって生じたと判断した有害作用(=副作用)が、被験者にとってどれだけ耐え得るかの程度を示したもの。

MTD(maximum tolerated dose:最大耐用量)
患者が許容できる最大の投与量。

DLT(dose-limiting toxicity:用量制限毒性)
これ以上の増量ができない理由となる毒性(=副作用)。

DCR(病勢コントロール率)
病状をコントロールできている患者の割合。RECIST評価(腫瘍の縮小を判定する方法)におけるCR(complete response:完全奏効)+PR(partial response:部分奏効)+SD(stable disease:安定)の比率となる。

  • ・完全奏効(CR) がんの消失が4週間続いた状態
  • ・部分奏効(PR) がんの大きさが30%以上縮小し、それが4週間続いた状態
  • ・安定(SD) PRとPDの間の状態
  • ・進行(PD) がんの大きさが20%以上増加

PFS(progression free survival:無増悪生存期間)
病気が進行することなく生存する期間。

OS(overall survival:全生存期間)
死亡原因ががんによるものかどうかに関係なく、治療を受けた患者が生存している期間。なお、生存期間を評価するときは平均値ではなく中央値で示されることが多い。

TTP(time to progression:無増悪期間)
病気が進行するまでの期間。

Stat3
遺伝子の転写に関与するタンパク質。Stat3は多くの固形がんで活性化されており、細胞のがん化に重要な働きをすることがわかっている。また、がん幹細胞生存や増殖にStat3経路が関与するという報告が存在する。

CD44
リンパ球の全身への供給、リンパ球の活性化、細胞間や細胞・基質間の接着、細胞運動、がん細胞増殖・転移などに関与しているタンパク質。がん幹細胞の細胞表面にもCD44が発現するという報告が存在する。

Nanog
最近同定されたホメオドメインタンパク質であり、ES細胞などの多能性幹細胞や初期胚に特異的に発現している。転写活性化因子として働き、多能性と自己複製能維持のシグナル伝達系に関与している。

β-カテニン
細胞接着や細胞融合に関する機能や、核内で転写因子と結合して遺伝子の転写を活性化する機能をもつタンパク質。また、がん幹細胞生存や増殖にβ-カテニン経路が関与するという報告が存在する。

キナーゼ
酵素の一種で、細胞内に存在する別の分子を活性化させる働きをもつもの。多くは生体の信号伝達や反応の調節に関与している。

in vitro
試験管や培養器などの中でヒトや動物の組織、細胞を用いて、生体内と同様の環境を人工的に作り、薬物の反応を検出する試験。

in vivo
マウスなどの実験動物を用い、生体内に直接被験物質を投与し、生体内や細胞内での薬物の反応を検出する試験。

スフェアー形成試験(Sphere Formation Assay)
薬剤のがん幹細胞への作用を評価する代表的なin vitro評価系。特殊な培養条件下においてColony (スフィアと呼ばれる)形成を伴って増殖する細胞はがん幹細胞の特性を有すると考えられており、このスフィア形成を指標にして評価を行う試験。

以上

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