印刷(PDF/196KB)はこちらから 2016年01月26日 研究開発

米国臨床腫瘍学会 消化器癌シンポジウム(ASCO-GI)において抗がん剤Napabucasin(BBI608)の複数のがん種に対するデータを発表

大日本住友製薬株式会社(本社:大阪市、社長:多田 正世)は、米国臨床腫瘍学会 消化器癌シンポジウム(ASCO-GI:American Society of Clinical Oncology Gastrointestinal Cancers Symposium)の2016年年次総会(開催時期:1月21日~1月23日、開催場所:米国サンフランシスコ)において、開発中の抗がん剤napabucasin(一般名、開発コード:BBI608)に関する3演題がポスター発表されましたので、お知らせします。

NapabucasinはStat3をターゲットとすることにより、がん幹細胞経路を阻害するよう設計された経口剤です。前治療歴のある進行性の結腸直腸がん患者と同様に、前治療歴を有するまたは前治療歴のない進行性の膵がん患者において、他の治療薬との併用時に初期の抗腫瘍効果を示唆する本剤のデータがシンポジウムで示されました。

ボストン・バイオメディカル社のPresident, CEO and Chief Medical Officer, the Head of Global Oncology for Sumitomo Dainippon Pharma GroupであるChiang J. Li(チャン・リー)は、次のように述べています。「今年の米国臨床腫瘍学会消化器癌シンポジウムにおいて、進行性で治療が困難ながんにおけるnapabucasinの臨床データを共有でき嬉しく思っています。これらの試験はnapabucasinの複数の用量および種々の確立された治療薬との併用において、napabucasinの安全性と初期の有効性を改めて示唆しています。これらの知見を踏まえ、私たちはこのがん幹細胞性に対する新規な阻害剤の臨床開発プログラムを推進していく予定です。」

Mayo Clinic(メイヨー・クリニック)のprofessor of oncologyであるAxel Grothey(アクセル・グローシー)医師は、次のように述べています。「今回の難治性結腸直腸がんの結果を含む進行性の消化器がんのデータは、がんの再発、転移、治療抵抗性に寄与するがん幹細胞経路をターゲットとすることによる臨床効果を示唆しています。がん治療に対するこの革新的なアプローチが更なる臨床試験において探求されることを期待しています。」

なお、本件による当社の2016年3月期連結業績に与える影響はありません。

【ASCO-GIでのポスター発表の概要】

転移性膵管腺がん(mPDAC)(ゲムシタビンおよびナブパクリタキセルとの併用)のPhase 1b試験(BBI608-118試験)の結果
抄録番号 284
演題 A Phase Ib study of Cancer Stem Cell (CSC) pathway inhibitor Napabucasin (BBI608) in combination with Ggemcitabine and nab-Paclitaxel (nab-PTX) in patients(pts) with metastatic pancreatic ductal adenocarcinoma (mPDAC)
内容
  • 転移性膵管腺がん患者に対する、napabucasin(BBI608)(240mg/回、2回/日)とゲムシタビンおよびナブパクリタキセルとの併用療法において、初期の抗腫瘍効果が示唆されました。
  • 登録された31例の患者において、25例が前治療歴のない患者で、6例がアジュバント療法のみにおいて1回の前治療歴のある患者でした。データカットオフ時点において18例の安全性に関するデータ、および次相試験の推奨用量を検討する群8例の有効性に関するデータが得られました。他の症例の安全性、有効性に関するデータは今後検討されます。
  • 次相試験の推奨用量を検討する群に8例が登録され、評価可能な7例全例(100%)で病勢コントロール(PR+SD)が観察されました。腫瘍退縮が85.7%(7例中6例)で観察され、内訳はPR 3例(41.3%、37.1%、33.3%の退縮)、SD 3例(25.8%、21.1%、20.5%の退縮)でした。7例中6例(85.7%)で24週間以上の長期のPRまたはSDが観察されました。
  • 最もよく観察された有害事象は、グレード1の下痢、吐き気、疲労、腹痛、食欲不振でした。
進行性膵がん(weeklyパクリタキセルとの併用)のPh1b/2試験(BBI608-201試験)の結果
抄録番号 196
演題 Phase Ib/II Study of Napabucasin (BBI608) combined with Weekly Paclitaxel in Advanced Pancreatic Cancer
内容
  • Napabucasin(BBI608)(480mg/回、2回/日)とweekly パクリタキセルとの併用療法において、前治療歴が複数ある難治性膵がん患者、特にタキサン未治療患者に対して、初期の抗腫瘍効果が示唆されました。また、この試験の患者群において持続する病勢コントロールおよび長期の生存期間が観察されました。
  • 41例の患者が登録され、前治療歴の中央値は2で、FOLFIRINOX(71%)、ゲムシタビンおよびナブパクリタキセル(44%)、またはその両方の併用(37%)が含まれていました。
  • 評価可能な患者31例における、奏効率(PR+CR)は6%、DCR(SD+PR+CR)は48%でした。評価可能なタキサン未治療の患者19例における、奏効率は11%、DCRは63%、24週時における無増悪生存率は16%でした。患者集団41例における、PFSの中央値は2.2か月、OSの中央値は6.0か月でした。またタキサン未治療の患者23例における、PFSの中央値は3.9か月、OSの中央値は7.4か月でした。
  • 最もよく観察された有害事象は、グレード1および2の下痢、疲労、腹痛、グレード1の吐き気、食欲不振、嘔吐でした。
進行性結腸直腸がん(FOLFIRI/ FOLFIRI +ベバシズマブとの併用)のPh1b試験(BBI608-246試験)の結果
抄録番号 569
演題 A Phase Ib study of first-in-class cancer stemness inhibitor Napabucasin (BBI608) in combination with FOLFIRI with and without Bevacizumab in Patients with Advanced Colorectal Cancer (CRC)
内容
  • 前治療歴が複数ある結腸直腸がん患者に対する、napabucasin(BBI608)の(240mg/回、2回/日)とFOLFIRIまたは FOLFIRIおよびベバシズマブとの併用療法において、初期の抗腫瘍効果が示唆されました。FOLFIRIベースの治療で以前に病勢が進行した患者においても初期の抗腫瘍効果が示唆されました。
  • FOLFIRI治療で以前に病勢が進行した10例を含む、前治療歴が複数ある患者(平均3回以上)18例が登録されました。評価可能な患者17例のうち、8例はFOLFIRIとnapabucasinの併用療法、9例はFOLFIRIとベバシズマブとnapabucasinの併用療法を受けました。
  • 病勢コントロール(PR+SD)は評価可能な患者17例中16例(94%)で観察されました。評価可能な10例(59%)で24週間以上の長期病勢コントロールが観察されました。
  • 最もよく観察された有害事象は、グレード1および2の下痢、疲労、吐き気、嘔吐、腹痛、食欲不振でした。DLTおよび新たな有害事象は観察されず、安全性プロファイルは各単剤での治療レジメンにおけるものと同様でした。

(ご参考:用語解説)

Stat3
遺伝子の転写に関与するタンパク質。Stat3は多くの固形がんで活性化されており、細胞のがん化に重要な働きをすることがわかっている。

DLT(dose-limiting toxicity:用量制限毒性)
これ以上の増量ができない理由となる毒性(=副作用)。

DCR(病勢コントロール率)
病状をコントロールできている患者の割合。RECIST評価(腫瘍の縮小を判定する方法)におけるCR(complete response:完全奏効)+PR(partial response:部分奏効)+SD(stable disease:安定)の比率となる。

  • 完全奏効(CR) がんの消失が4週間続いた状態
  • 部分奏効(PR) がんの大きさが30%以上縮小し、それが4週間続いた状態
  • 安定(SD) PRとPDの間の状態
  • 進行(PD) がんの大きさが20%以上増加

PFS(progression free survival:無増悪生存期間)
病気が進行することなく生存する期間。

OS(overall survival:全生存期間)
死亡原因ががんによるものかどうかに関係なく、治療を受けた患者が生存している期間。なお、生存期間を評価するときは平均値ではなく中央値で示されることが多い。

以上

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