薬は何のためにある?
薬ってなんだろう Vol.1

みなさんは、どんなときに薬を使いますか? 風邪をひいて熱があるとき、お腹が痛いときにはのみ薬を、転んでケガをしたときには消毒薬を使うこともあるでしょう。でも、「暖かくして寝ていたら、熱が下がった」「傷口を洗っただけで放っておいたけど、いつの間にか治っていた」という経験、あるのでは? 一方で、「ずーっと頭が痛かったけど、薬をのんだらすぐに痛みが治まった」「虫刺されの薬をぬった途端、かゆみがなくなった」なんてことも。

薬は何のためにある?

人間には本来、病気やケガを自分で治す力、「自然治癒力(しぜんちゆりょく)」が備わっています。いつの間にか風邪が治ってしまうのも、いつの間にか傷口が元のキレイな状態に戻るのも、自然治癒力のおかげです。でも自然治癒力だけでは治らない場合や、治るまでに時間がかかる場合もあります。そんなときが薬の出番です。

薬にはどのような役割があるのかな。大きく、次の5つに分けられるよ。それぞれ、具体例を見てみよう。

薬が担う、5つの役割

  • 1 病気の原因を取り除く
  • 2 足りないものを補う
  • 3 症状を和らげる、症状が出るのを防ぐ
  • 4 病気を予防する
  • 5 病気を調べる

1.病気の原因を取り除く

からだの中に住みついて増え、感染症を引き起こす細菌やウイルスを退治します。風邪やインフルエンザ、結膜炎、それから一部の胃腸炎、肺炎、肝炎、皮膚炎、関節炎などなど、細菌やウイルスが原因で起きる病気は、たくさんあります。原因となる細菌やウイルスの特徴に合わせて、適切な「抗菌薬」「抗ウイルス薬」が選ばれます。

もともと正常だった細胞が悪い細胞になって増殖し、周囲の組織に悪い影響を与えてしまう「がん」。がんになってしまった細胞を壊す「抗がん薬」も、病気の原因を取り除く薬です。

2.足りない物を補う

口の中や周囲にブツブツができたなら、ビタミンB2という栄養素の不足が原因かもしれません。そんなときに用いる「ビタミン剤」は、足りない栄養素を補うことで回復を促す薬です。

糖尿病は、「インスリン」というホルモンが十分に出なくなったり、インスリンが効きにくい状態になったりする病気。そこで、インスリンそのものを薬として使う場合があります。

3.症状を和らげる、症状が出るのを防ぐ

熱が出てつらい、痛い、だるい、かゆい、気持ち悪い、イライラする、落ち込む……。心身に現れる、これらの症状を和らげるための、さまざまな薬があります。

高血圧や糖尿病、脂質異常症。「生活習慣病」と呼ばれるこれらの病気にかかっていても、軽度のうちは具合が悪くなったり、どこかが痛くなったりはしません。でも、治療しないままでいると、心臓病や脳卒中といった、重大な病気を引き起こすことも。そこで、これらの病気の進行や悪化を抑える薬が活躍します。とはいえ生活習慣病では、食生活や運動習慣の見直し、規則正しく寝起きするといった"生活習慣"の改善が、薬より先です。

4.病気を予防する

予防接種、経験ありますよね。インフルエンザ、はしか、おたふくかぜといった感染症の予防のためや、かかっても軽くてすむようにするために注射する「ワクチン」があります。

20~30代の女性に増えてきた子宮頸がんを予防するためのワクチンも、使われるようになりました。

5.病気を調べる

病気が潜んでいるかどうかや、どのくらい進行しているかを調べるときにも薬を使います。例えば血液検査。注射でとった血液に、いろんな薬を加えたりして、その反応から判定します。

このように薬は、病気になってからだけではなく、病気の予防や診断にも欠かせません。薬は、私たちがいつも健康でいられるように助けてくれる、強い味方なのです。

薬の語源

明治生まれの薬学者、清水藤太郎さんの著書「日本薬学史」によると、江戸時代の国学者たちがそれぞれに説を唱えているよ。

クスルから来たもので、クスルはツクル、つまりツケルという意味。という説も あれば、「クスシキ(奇しき)術」から転じたとか。「奇し」には、神秘的、霊妙といった意味があるよ。 昔は草を煎じたものを薬として使っていたので、クサイリ(草煎)がもとになっている……とか、いやすという意味を持つナグシ(和し)から来ているとも言われているようだね。

(参考文献:清水藤太郎:日本薬学史 南山堂:2, 1949)

コラム

「病は気から」の「気」と自然治癒力

「病は気から」というのは、病気は気の持ちようによって、良くも悪くもなるという意味のことわざです。「お腹が痛かったけど、友達と遊んでいるうちに痛いのを忘れていた」とか「明日のテストが憂うつで、学校休みたいなぁと思っていたら本当に熱が出た」とか、思い当たりませんか?

どうやら、プラスの気持ちが自然治癒力を高めたり、マイナスの気持ちが自然治癒力を弱めたりするようです。例えば、「薬だよ」と渡されたタブレット菓子を薬と信じて食べたら、病気の症状が和らぐことがあります。「薬をのんだからもう大丈夫」というプラスの気持ちのおかげ、と考えられます。

気の持ちようって、本当に大切です。「幸せだなぁと感じて生きている人は、7年半から10年長生き」という研究報告もあるんですよ※1。「病は気から」だけじゃなく「寿命も気から」なのかもしれません。

※1 Frey BS:Science 331(6017):542-3, 2011