薬が効くとは。体に広がる薬の成分
からだを旅する薬のこと Vol.2

効果も副作用も血中濃度次第

薬をのみ忘れたからといって、次にのむときに2倍量のんではいけません。また、効き目が感じられないから多めにのむ、症状が軽いから半分だけのむ……というのもダメ。副作用の心配が大きくなったり、十分な効果が得られなかったりします。それはなぜなのでしょうか。

からだに吸収された薬は、血液とともに全身へと運ばれます。目的とする場所で効果を発揮するには、血液中に溶けている薬の量、つまり薬の血中濃度がカギを握っています。

薬をのむと、徐々にその薬の血中濃度が上がります。そして、血液が全身をめぐるうちに、薬の成分はやがて分解・排出されます(薬の分解・排出については、次回で詳しく紹介します)。

薬の効き目が表れるのは、血中濃度が一定範囲内にあるときです。濃度が高くなり過ぎれば副作用が心配ですし、濃度が低ければ十分な効き目が得られません(グラフ)。だから、決められた量を、決められたタイミングでのまなくてはならないのです。

図:薬が効くのは、血中濃度がちょうど良い範囲にあるとき※1日3回のむ薬の場合

参考:くすりの適正使用協議会(http://www.rad-are.com/外部リンク):薬の正しい使い方 中学生版

注射薬や外用薬が有効な場合

薬がどのようにからだ中へと広がっていくかについて、ここまでは内用薬の話をしてきましたが、注射薬や外用薬はどうでしょうか。

注射薬は、内用薬のように消化管を経由することなく、からだの中に直接薬を入れられます。一般に、最も速く薬が全身へと広がって速く効くのは血管(静脈)への注射です。

皮膚や粘膜から直接吸収される外用薬は、局所で効かせる、速く効かせる、持続的にからだに入れる……といった狙いがあります。たとえば、目薬やかゆみ止めの薬は、局所に効かせたい薬です。

速く効かせたい薬といえば、心臓発作のときに使う「ニトログリセリン」があります。この薬は、口からのんでも効果は得られません。内用薬は、小腸で吸収されて肝臓に入りますが、ニトログリセリンは肝臓でほとんどが壊され、心臓まで届かないからです。そこでこの薬は、舌の下から粘膜を通して吸収させる舌下剤や口の中にスプレーする噴霧剤として使います。

持続的にからだに入れる薬には、禁煙補助薬として用いる「ニコチン」の貼付剤などがあります。時間をかけて、じわじわと吸収させます。

このように薬は、狙い通りのスピードでからだに広がるように作られています。

速く広がり速く効く順番

速い→ゆっくり 静脈に注射→吸入・舌下から→筋肉に注射→皮下に注射→内服

一般的な順番はこれ。効果の持続時間、からだから排出されるまでにかかる時間の長さは、この逆の順番。

参考:
古川裕之ら編集:ナーシング・グラフィカ④ 疾病の成り立ち―臨床薬理学 メディカ出版:9, 2012
石井邦雄著:はじめの一歩のイラスト薬理学 羊土社:24, 2013
医療情報科学研究所編集:看護師・看護学生のための なぜ?どうして?2018-2019 ①基礎看護学:478, 2017

コラム

からだの中に薬の関所あり

薬は血流にのって全身をめぐりますが、例外的になかなか到達できない場所があります。それは脳です。生命活動の司令塔となる脳に、さまざまな物質がたやすく入ってきては困るので、脳の入り口には「血液脳関門」と呼ぶ“関所”があります。実際は、脳につながる毛細血管と脳の組織の間での、物質のやり取りを制限する仕組みをこう呼ぶのですが、この関所を越えなければ、薬は脳に入れません。

そのため、脳に作用して効かせたい薬というのは、いかにしてこの関所を越えるかという課題を常に抱えています。「薬なんだから、通してくれてもいいじゃない」と言いたくもなりますが、これは私たちのからだを守るための大切な仕組み。通常はからだの中にない“異物”である薬を簡単に通してしまうようなら、さまざまな有害物質も通してしまいかねないですし……。

もう一つ、母体と胎児をつなぐ胎盤には「血液胎盤関門」があり、両者の血液が直接混ざり合わないようになっていています。この仕組みによって、母体から胎児へと薬が入っていくのが制限されます。

自分の生命を守るための脳、子孫を守るための胎盤。大切なところを守る仕組みを、私たちはもっているわけです。とはいえ、関所を越えて脳へ、胎児へと入っていく薬もありますから、薬は慎重に使わなくてはなりません。