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ワクチンの種類
正しく知ろうワクチンのこと Vol.2

ワクチンには、病原体(ウイルスや細菌)の毒性や病気になる性質を弱めたものや感染力をなくしたもの、病原体のタンパク質を使ったもの、病原体のタンパク質をつくるもとになる遺伝情報をもとに作られたものなど、以下のような種類があります。

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生ワクチン

生きたウイルスや細菌の毒性・病気になる性質を弱めたもの。ウイルスや細菌が体内で増えるので、接種後しばらくしてから、発熱や発疹など、その感染症にかかったような症状が軽く生じてしまうことがある。
例:麻疹(はしか)、風疹、水ぼうそう、BCG(結核)、おたふくかぜワクチン

不活化ワクチン

ウイルスや細菌の毒性をなくし、感染する力を失わせたもの。生ワクチンのように体内でウイルスや細菌が増えることがなく、1回の接種では十分な免疫ができないため、複数回の接種を受ける必要がある。
例:インフルエンザ、日本脳炎、肺炎球菌ワクチン

トキソイド

病原体がつくる毒素(トキシン)を取り出し、毒性をなくして免疫をつける力だけを残したもの。不活化ワクチンに分類されることもある。
例:ジフテリア、破傷風(二種混合)ワクチン

組換えタンパクワクチン

病原体のタンパク質からつくられたもの。生ワクチンや不活化ワクチンとは違い、ウイルスそのものは使用しない。不活化ワクチンと同じように、複数回の接種が必要となる。
例:ヒトパピローマウイルス、B型肝炎、帯状疱疹ワクチン

ウイルスベクターワクチン

ウイルスのタンパク質のもとになる遺伝情報(設計図)を、毒性・病気になる性質のないウイルスに組み込んだもの。日本では、新型コロナウイルス感染症のワクチンで初めて使われている。
例:新型コロナウイルスワクチン(➡︎解説で紹介

メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン

ウイルスのタンパク質をつくるもとになる遺伝情報(設計図)の一部を使ったもの。新型コロナウイルス感染症のワクチンで、世界で初めて実用化された。
例:新型コロナウイルスワクチン(➡︎解説で紹介

解説

mRNAワクチン、
ウイルスベクターワクチンの
しくみ

mRNAワクチンやウイルスベクターワクチンは、病原体のタンパク質をつくるもとになる遺伝情報(設計図)だけを接種する、新型コロナウイルス感染症のワクチンで初めて使われた新しいワクチンだよ。

■新型コロナウイルスのしくみ

自分で増殖することができる細菌とはちがって、ウイルスは他の生物の細胞に入り込まないと増殖できないんだ。
新型コロナウイルスを例として、ウイルスの構造を詳しく見てみよう。

新型コロナウイルスの表面には、「スパイクタンパク質(Sタンパク質)」というトゲトゲしたタンパク質が付いている。このトゲトゲの部分が人間の細胞にくっつくことで、ウイルスが細胞の中に取り込まれて増殖していくんだよ。新型コロナウイルスのワクチンは、このSタンパク質に対する抗体を体につくらせることで、免疫が得られるようにできているんだ。
そして、新型コロナウイルスの中には、ウイルスの遺伝情報が書かれた「RNA」という物質が入っているよ。

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■DNA、RNA、タンパク質の関係

mRNAワクチンとウイルスベクターワクチンのしくみには、DNA、RNA、タンパク質が関係しているよ。

(1)細胞には核があり、核の中には遺伝情報がDNAとして蓄えられています。

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(2)DNAの遺伝情報を写し取る「転写」という作業を通して、mRNAがつくられます。mRNAはタンパク質の設計図です。

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(3)mRNAにある情報をもとに、細胞の中でさまざまな種類のタンパク質がつくられます。この作業を「翻訳」と呼びます。タンパク質は、筋肉や皮膚など、人体のあらゆる場所で材料として使われます。

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ここまでの話を踏まえて、mRNAワクチンとウイルスベクターワクチンのしくみを説明するよ。

mRNAワクチン:

mRNAワクチンは、ウイルスのタンパク質をつくるもとになる遺伝情報(設計図)の一部を使ったワクチンだよ。現在使われている新型コロナウイルスのmRNAワクチンは、新型コロナウイルスのSタンパク質の設計図となるmRNAを、脂質の膜で包んだものなんだ。

ワクチンを接種すると、このmRNAが人間の細胞に取り込まれるよ。すると、細胞の機能によって、体の中でmRNAを基にSタンパク質がつくられるんだ。そして、このSタンパク質に対する抗体がつくられて、新型コロナウイルスに対する免疫ができるよ。

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タンパク質がつくられるステップは、「DNA→mRNA→タンパク質」だったよね。mRNAを使うと、DNAに比べてタンパク質をつくるためのステップが少なくなるから、効率が良くなることが多い。でも、mRNAワクチンは熱に不安定なので、-70℃~-20℃で冷凍保存しないといけないんだ。

ウイルスベクターワクチン:

ウイルスベクターワクチンは、ウイルスのタンパク質のもとになる遺伝情報(設計図)として、DNAを使ったワクチンだよ。新型コロナウイルスのSタンパク質のDNAを合成して使っているんだ。ウイルスベクターワクチンを接種すると、このDNAから転写によってmRNAがつくられ、このmRNAを基にSタンパク質がつくられて、新型コロナウイルスに対する免疫ができるよ。

ただ、DNAを細胞の中まで届けて転写を起こすためには、「ベクター」(運び屋)が必要。そこで、毒性・病気になる性質のないウイルスを「ベクター」(運び屋)として使うんだ。新型コロナウイルスのウイルスベクターワクチンでは、サルアデノウイルス(アデノウイルスは風邪のウイルス)を、ウイルスが増えないように処理をしてから運び屋として使っているよ。

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ウイルスベクターワクチンはDNAを使っているから、mRNAワクチンに比べるとタンパク質をつくるためのプロセスが多くて、効率が少し悪くなってしまう。でも、mRNAワクチンよりも安定しているので、冷凍庫ではなく冷蔵庫で保存できて、取り扱いが簡単なんだ。発展途上国など、冷凍設備が充分ではない国でも扱えるというメリットがあるよ。性質の違うワクチンが2種類あると、世界中でワクチンを接種できる人が増えるね。

コラム

ワクチンのはじまり

ワクチンのはじまりとされているのは、1796年にイギリスの医師エドワード・ジェンナーが天然痘を予防するために開発した「種痘」です。天然痘は、発熱や発疹などがみられる感染症。感染力が非常に強く、多くの人が命を落としていました。

この頃のイギリスでは、牛痘という病気もときどき流行していました。牛痘は天然痘に似た牛の病気。人間に感染すると皮膚に水ぶくれができますが、天然痘のように命にかかわる病気ではありませんでした。そして、牛痘にかかったことのある乳しぼりの女性は、天然痘にかからないということが知られていました。そこでジェンナーは、牛痘にかかった女性の水ぶくれから液を取り、8歳の少年の腕にこれを接種したのです。その後、この少年に天然痘の膿を接種しても、少年が天然痘にかかることはありませんでした。これが「種痘」です。

種痘は世界各地で使われるようになり、天然痘患者は大きく減少。そして1980年、WHOは地球上から天然痘が根絶されたことを宣言しました。ジェンナーの発明は、その後のワクチン開発の基礎となったため、「ワクチンのはじまり」とされているのです。

ワクチン手帳

この頃のイギリスでは、牛痘という病気もときどき流行していました。牛痘は天然痘に似た牛の病気。人間に感染すると皮膚に水ぶくれができますが、天然痘のように命にかかわる病気ではありませんでした。そして、牛痘にかかったことのある乳しぼりの女性は、天然痘にかからないということが知られていました。そこでジェンナーは、牛痘にかかった女性の水ぶくれから液を取り、8歳の少年の腕にこれを接種したのです。その後、この少年に天然痘の膿を接種しても、少年が天然痘にかかることはありませんでした。これが「種痘」です。

種痘は世界各地で使われるようになり、天然痘患者は大きく減少。そして1980年、WHOは地球上から天然痘が根絶されたことを宣言しました。ジェンナーの発明は、その後のワクチン開発の基礎となったため、「ワクチンのはじまり」とされているのです。

 

監修:加藤哲太(日本くすり教育研究所代表)