印刷(PDF/261KB)はこちらから 2015年06月02日 研究開発

米国臨床腫瘍学会(ASCO)において抗がん剤BBI608およびBBI503の複数のがん種に対するデータを発表

大日本住友製薬株式会社(本社:大阪市、社長:多田 正世)は、米国臨床腫瘍学会(ASCO:American Society of Clinical Oncology)の2015年年次総会(開催時期:5月29日~6月2日、開催場所:米国シカゴ)において、6月1日、開発中の抗がん剤「BBI608」および「BBI503」に関する5演題がポスター発表されましたので、お知らせします。

BBI608は、Stat3をターゲットとし、がん幹細胞性の維持に重要な遺伝子を阻害する低分子経口剤です。ASCOで発表されたデータでは、胃および結腸直腸がんを含む様々な進行がんに対する他の化学療法剤との併用における、BBI608の抗腫瘍活性が示唆されています。また、「Trials in Progress」プログラムの一つとして、第Ⅲ相臨床試験であるBRIGHTER試験の試験計画が発表されました。

Weill Cornell Medical College(ウェイル・コーネル・メディカル・カレッジ)、New York-Presbyterian/Weill Cornell Medical Center(ニューヨーク-プレスビテリアン/ウェイル・コーネル・メディカル・センター)の消化器腫瘍学のディレクターであるManish A. Shah(マニッシュ・A・シャー)医師は、次のように述べています。「がん専門医にとって、がんの再発および転移は臨床的に困難な問題であり、がん患者さんのために、がんの再発および転移を抑制する新たな治療法の進歩が必要とされています。BBI608に関するデータは、抗腫瘍活性を示唆しており、進行性の胃または食道胃接合部腺がんを対象としたBRIGHTER試験を含め、BBI608の臨床開発計画の拡大の根拠となっています。」

BBI503は、キナーゼをターゲットとすることで、Nanog等のがん幹細胞に関わる経路を阻害するよう設計された低分子経口剤です。ASCOで発表されたデータでは、BBI503の進行性の結腸直腸がん患者に対する抗腫瘍活性が示唆されています。

ボストン・バイオメディカル社のPresident, CEO and Chief Medical Officer, the Head of Global Oncology for Sumitomo Dainippon Pharma GroupであるChiang J. Li(チャン・リー)は、次のように述べています。「ASCOでは、がん幹細胞に関わる経路を阻害するBBI608およびBBI503の多岐にわたる試験、BRIGHTER試験に関する詳細を発表します。これらの試験によって得られた有効性および安全性の結果は、臨床的エビデンスの基礎となっており、ファースト・イン・クラスの治療選択肢となる可能性のあるBBI608およびBBI503のさらなる研究の必要性を示しています。」

なお、本件による当社の2016年3月期連結業績に与える影響はありません。

【ASCOでの発表】
(1)ポスター発表

固形がん(パクリタキセルとの併用)の第Ⅰ/Ⅱ相試験(BBI608-201試験)の結果
抄録番号 4069
ポスター番号 179
演題 BBI608-201: Phase 1b/2 study of cancer stemness inhibitor BBI608 combined with paclitaxel in advanced gastric and gastroesophageal junction (GEJ) adenocarcinoma
内容 ・前治療歴のある進行性の胃または食道胃接合部腺がん患者に対し、BBI608とパクリタキセルは併用投与できることが示されました。病変の退縮、奏効、SDの延長が複数回の前治療歴のある患者において観察されました。
・タキサンの前治療歴がなく、1回の前治療歴のある(BRIGHTER試験の患者登録基準を満たす)患者のうち、評価可能な6例におけるORRは50%でした。
・タキサンの前治療歴がなく、複数回の前治療歴がある患者(前治療回数の平均は2回よりも多い)16例のORRは31%(5/16例)、DCRは75%(12/16例)、PFSの中央値は20.6週間、OSの中央値は39.3週間でした。
・主な有害事象は、グレード1~2の下痢、吐き気、嘔吐、腹痛でした。グレード3の有害事象は、嘔吐(8.7%)、5日以上の下痢(6.5%)、疲労(6.5%)、腹痛、胃腸痛、吐き気、脱水、食欲不振、白血球減少、急性腎障害(各2.2%)でした。
・1回の前治療歴のある進行性の胃または食道胃接合部腺がん患者に対するBBI608とパクリタキセルの併用を評価するBRIGHTER試験が進行中です。
胃または食道胃接合部腺がん(パクリタキセルとの併用)の第Ⅲ相国際共同治験(BBI608-336試験:BRIGHTER試験)の試験計画
抄録番号 TPS4139
ポスター番号 247a
演題 The BRIGHTER trial: A phase 3 randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial of first-in-class cancer stemness inhibitor BBI608 plus weekly paclitaxel versus placebo plus weekly paclitaxel in adult patients with , advanced, previously treated gastric and gastro-esophageal junction (GEJ) adenocarcinoma
内容 ・BRIGHTER試験は、セカンドライン治療として、BBI608とパクリタキセルとの併用療法が、パクリタキセル単剤療法と比較して生存期間を延長させることができるかどうかを検討するために実施されています。
・患者登録は、北米、欧州、オーストラリアおよび日本における多施設で行われています。
・BBI608は、Stat3、β-カテニンといった幹細胞性に関わる経路ならびに免疫チェックポイント遺伝子の発現を抑制することにより、がん幹細胞の再生および生存を阻害します。
消化器がん(FOLFIRI±ベバシズマブとの併用)の第Ⅰ相試験(BBI608-246試験)の結果
抄録番号 3616
ポスター番号 109
演題 BBI608-246: A phase 1b study of first-in-class cancer stemness inhibitor BBI608 in combination with FOLFIRI with and without Bevacizumab in patients with advanced colorectal cancer
内容 ・BBI608(240mg/回、2回/日)は、FOLFIRI±ベバシズマブと併用投与できることが示されました。
・FOLFIRI治療で効果がなかった患者6例を含む評価可能な患者9/9例(100%)で病勢コントロール(PR+SD)が観察されました。そのうち、2例がPR、7例がSDでした。全9例において、がんの退縮が観察されました。評価可能な患者の5/9例(55.6%)で、6か月以上のSDが観察されました。PFSの中央値は、23.7週間でした。
・主な有害事象は、グレード1~2の下痢、疲労、食欲不振、吐き気、嘔吐、腹痛でした。グレード3の下痢は2例で観察され、しばらくの間BBI608の休薬または減量および止瀉薬の投与により、それぞれ回復しました。加えて、グレード3の脱水が1例で観察されるとともに、グレード3の4~8日間持続する疲労が1例観察されましたが、自然治癒しました。
結腸直腸がん(パニツムマブとの併用)の第Ⅱ相試験(BBI608-224試験)の結果
抄録番号 3617
ポスター番号 110
演題 BBI608-224: A phase 1b/2 study of cancer stemness inhibitor BBI608 administered with Panitumumab in KRAS wild-type patients with metastatic colorectal cancer
内容 ・BBI608とパニツムマブは計画した最大用量(480-500mg/回、2回/日)で併用投与できることが示されました。
・登録された24例の患者のうち、9例は抗EGFR抗体未治療患者であり、15例は抗EGFR抗体治療で効果がなかった患者でした。抗EGFR抗体治療で効果がなかった患者の病勢コントロール(SD+PR)は8/15例(53.3%)でした。一方、抗EGFR抗体未治療の患者の病勢コントロール(SD+PR)は4/9例(44%)でした。PFSの中央値は、抗EGFR抗体未治療患者で9週間でした。
・抗EGFR抗体前治療歴のあるK-RAS野生型結腸直腸がん患者において、抗EGFR抗体とBBI608を併用することで予備的な抗腫瘍活性が観察されたことから、抗EGFR抗体治療を繰り返し受けている患者にも有効であることが示唆されました。
・主な有害事象は、グレード1~2の下痢、吐き気、疲労、嘔吐、腹部疝痛、低カリウム血症、食欲不振でした。グレード3の有害事象は、低カリウム血症、下痢(各3例)、腹痛、疲労、低マグネシウム血症、低リン血症、発疹(各1例)でした。
・BBI608とパニツムマブの併用による安全性および有効性ならびにBBI608の抗EGFR抗体治療を受けている患者への有効性の評価については、さらなる試験が必要です。また、抗EGFR抗体未治療患者において、抗腫瘍活性が示唆されました。
固形がん(単剤)の第Ⅰ/Ⅱ相試験(BBI503-101試験)の継続試験の結果
抄録番号 3615
ポスター番号 108
演題 BBI503-101: Phase 1 extension study of BBI503, a first-in-class cancer stemness kinase inhibitor, in patients with advanced colorectal cancer
内容 ・単剤療法としてのBBI503の推奨用量(300mg/回、1回/1日)での忍容性が示されました。
・Nanogバイオマーカー陽性の評価可能な患者のDCR(CR+PR+SD)は55.6%でした。一方、バイオマーカー陰性患者のDCRは12.5%でした。また、バイオマーカー陰性患者のOSの中央値は15.9週間であったのに対し、バイオマーカー陽性患者のOSの中央値は38週間でした。
・推奨用量における、主な有害事象は、グレード1~2の下痢、吐き気、腹部疝痛、食欲不振、疲労でした。グレード3の有害事象は、疲労(4例)、下痢、吐き気、体重減少(各1例)でした。
・本試験結果を受け、進行性の結腸直腸がんに対するBBI503の単剤療法または標準的な化学療法剤との併用療法のさらなる臨床評価を実施していきます。

(2)抄録掲載のみの発表

胃がん(パクリタキセルとの併用)の日本における第Ⅰ相試験の結果
抄録番号 e15089
演題 A phase 1 study of BBI608, a cancer stemness inhibitor, administered with paclitaxel (PTX) as combination therapy (Rx) for pretreated unresectable or recurrent gastric cancer in Japan
内容 ・進行性の胃または食道胃接合部腺がん患者(6例)に対し、BBI608とパクリタキセルは併用投与できることが示されました。
・2例(33.3%)でPR(66.7%、36.8%のがんの退縮)を示し、うち1例はPRが7.5か月以上持続しました。別の2例はSD(2.8か月)を示しました。
・主な有害事象は、グレード1の下痢、食欲不振であり、重篤な副作用は観察されませんでした。

(ご参考:用語解説)

Stat3:
遺伝子の転写に関与するタンパク質。Stat3は多くの固形がんで活性化されており、細胞のがん化に重要な働きをすることがわかっている。

β-カテニン:
細胞接着や細胞融合に関する機能や、核内で転写因子と結合して遺伝子の転写を活性化する機能をもつタンパク質。

キナーゼ:
酵素の一種で、細胞内に存在する別の分子を活性化させる働きをもつもの。多くは生体の信号伝達や反応の調節に関与している。

Nanog:
最近同定されたホメオドメインタンパク質であり、ES細胞などの多能性幹細胞や初期胚に特異的に発現している。転写活性化因子として働き、多能性と自己複製能維持のシグナル伝達系に関与している。

DCR(病勢コントロール率):
病状をコントロールできている患者の割合。RECIST評価(腫瘍の縮小を判定する方法)におけるCR(complete response:完全奏効)+PR(partial response:部分奏効)+SD(stable disease:安定)の比率となる。

  • ・完全奏効(CR) がんの消失が4週間続いた状態
  • ・部分奏効(PR) がんの大きさが30%以上縮小し、それが4週間続いた状態
  • ・安定(SD) PRとPDの間の状態
  • ・進行(PD) がんの大きさが20%以上増加

PFS(progression free survival:無増悪生存期間):
病気が進行することなく生存する期間。

ORR(objective response rate:奏効率):
治療で効果があった患者さんの割合。

OS(overall survival:全生存期間):
死亡原因ががんによるものかどうかに関係なく、治療を受けた患者が生存している期間。なお、生存期間を評価するときは平均値ではなく中央値で示されることが多い。

忍容性:
薬物によって生じたと判断した有害作用(=副作用)が、被験者にとってどれだけ耐え得るかの程度を示したもの。

バイオマーカー:
人の身体の状態、疾患の状態を客観的に測定し評価するための指標。

以上

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