印刷(PDF/240KB)はこちらから 2024年12月10日 研究開発
米国血液学会(ASH)2024における開発中の抗がん剤nuvisertib(TP-3654)およびenzomenib(DSP-5336)に関する最新の臨床データ発表のお知らせ
住友ファーマ株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:木村 徹)の米国子会社であるSumitomo Pharma America, Inc.(以下「SMPA社」)は、米国血液学会(ASH:American Society of Hematology)の2024年年次総会(開催時期:12月7日~12月10日、開催場所:米国サンディエゴ)において、開発中の抗がん剤であり、再発または難治性の骨髄線維症を対象とした選択的経口PIM1キナーゼ阻害剤nuvisertib(一般名、開発コード:TP-3654)および再発または難治性の急性白血病を対象としたメニン-MLLタンパク質結合阻害剤enzomenib (一般名、開発コード:DSP-5336)に関する最新の臨床データを発表しましたので、お知らせします。
nuvisertibの再発または難治性の骨髄線維症患者を対象とした、現在実施中のフェーズ1/2試験について、74例の予備的なデータでは、nuvisertib単剤療法において、用量制限毒性(DLT)は発現しておらず、良好な忍容性が認められました。評価可能な患者における予備的なデータでは、脾臓容積減少(SVR25 22.2%)、全身症状軽減(TSS50 44.4%)、骨髄線維化の改善(47.8%)、ヘモグロビン値の改善(25%)および血小板数の改善(27.6%)を含む臨床活性が示されました。さらにnuvisertibは、脾臓および症状の反応と相関するサイトカイン(EN-RAGE、IL-18、MIP-1β、アディポネクチン等)の経時的な著しい変化をもたらしました。現在、グローバルに実施している本試験では、骨髄線維症に対して初めて承認されたJAK阻害剤であるルキソリチニブとnuvisertibの併用療法および貧血を伴う骨髄線維症患者を対象に承認されたJAK阻害剤であるモメロチニブ※とnuvisertibの併用療法における安全性および臨床活性も評価しています。
またenzomenibのフェーズ1/2試験の新たな予備的な臨床データがノースカロライナ大学 Joshua Zeidner医師から発表されました。安全性集団は急性白血病患者84例で構成され、そのうち94%(79/84例)が急性骨髄性白血病でした。試験には多様な患者が組み入れられ、白人以外が47.6%(40/84例)であり、前治療歴も多く、中央値で3レジメンでした。
enzomenib は、40mg 1日2回から300mg 1日2回までの用量を、28日のサイクルで連続投与されました。enzomenib の忍容性は良好で、enzomenibと関連のある有害事象の発現率は全体的に低く、DLTは認められませんでした。分化症候群は10.7%の患者で報告されましたが、死亡例やenzomenibの投与中止に至るものは認められていません。
また、用量最適化コホートにおける200mg 1日2回および300mg 1日2回の投与量における予備的な有効性のデータも発表されました。このデータには、KMT2A(MLL)遺伝子の再構成またはNucleophosmin1(NPM1)遺伝子の変異を有し、enzomenibを少なくとも1回投与され、メニン阻害剤の治療を受けたことのない全例のデータが含まれています。
MLL再構成を有する患者23例において、ELN-2017ガイドラインに基づく客観的奏効率(ORR)は65.2%(15/23例)、完全寛解+部分的血液学的回復を伴う完全寛解(CR+CRh)達成率は30.4%(7/23例)でした。300mg 1日2回の用量で投与されたMLL再構成を有する患者15例の部分集団では、ORRは73.3%(11/15例)、CR+CRhは40%(6/15例)でした。200mg 1日2回または300mg 1日2回の用量で投与を受けたNPM1遺伝子変異を有する患者17例におけるORRは58.8%(10/17例)、CR+CRh達成率は47.1%(8/17例)でした。400mg 1日2回の用量最適化コホートは進行中で、データカットオフ時点で21例が登録されています。このコホートデータは今後学会にて、発表される予定です。
これらの有望な有効性データと優れた安全性プロファイルは、MLL再構成またはNPM1遺伝子変異を有する再発または難治性の急性白血病患者の治療において、enzomenibが重要な役割を果たす可能性を示唆しています。
骨髄線維症は稀な血液悪性腫瘍の一種で、JAKシグナル伝達経路の調節異常によって骨髄に線維組織が蓄積することを特徴とし、血液細胞の産生に影響を及ぼすことがあります。骨髄線維症は重篤かつ希少な疾患であり、世界中で毎年10万人あたり0.7人が新たに発症しています。
白血病は造血組織に発生する血液悪性腫瘍の一種で、骨髄における血液細胞(通常は白血球)の無秩序な増殖を特徴とします。白血病の一種である急性白血病では、血液細胞が急速に増殖し、突然症状が現れるため、早急な治療が必要とされています。急性骨髄性白血病患者さんの約30%がNPM1遺伝子の変異を有し、5~10%がMLL遺伝子の再構成を有しているといわれています。
- ※ 国内では「骨髄線維症」を効能または効果として製造販売承認を取得
(ご参考)
enzomenib(DSP-5336)について
enzomenib(DSP-5336)は、メニンタンパク質とMLL(mixed-lineage leukemia)タンパク質との結合を阻害する低分子化合物です。メニンは核に局在し、細胞増殖、細胞周期、ゲノム安定性、造血などの多くの生物学的経路において遺伝子の発現やタンパク質間相互作用といった重要な役割を果たす足場タンパク質です。非臨床研究において、本剤はメニンとMLLのタンパク質の結合を阻害することでKMT2A(MLL)再構成またはNPM1遺伝子変異を有するヒト急性白血病細胞株において選択的な増殖阻害を示しました。さらに、本剤を処理したMLL再構成またはNPM1遺伝子変異を有するヒト急性白血病細胞株において、白血病発症に関与するHOXA9およびMEIS1遺伝子の発現を低下させるとともに、正常血液細胞における終末分化マーカーであるCD11b遺伝子の発現上昇を示しました。本剤の安全性および有効性については現在、再発または難治性の急性白血病患者を対象としたフェーズ1/2用量漸増および用量拡大試験において評価しています。本剤は、2022年6月に急性骨髄性白血病の適応で米国食品医薬品局(FDA)からオーファンドラッグ指定を受けています。また、2024年6月にMLL再構成またはNPM1遺伝子変異を有する再発または難治性の急性骨髄性白血病の適応で米国食品医薬品局(FDA)からファストトラック指定を受けました。さらに、2024 年9 月に再発または難治性のMLL 遺伝子再構成陽性またはNPM1 遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病の適応で厚生労働省から希少疾病用医薬品指定を受けています。
nuvisertib(TP-3654)について
nuvisertib(TP-3654)は選択的経口PIM1キナーゼ阻害剤であり、非臨床モデルにおいて、アポトーシスの誘導を含め複数の経路を通じて抗腫瘍および抗線維化活性が示されています。本剤は、骨髄線維症の主たる原因遺伝子の一つであるJAK2V617F変異を発現するマウスおよびヒト血液細胞において腫瘍性増殖を抑制し、アポトーシスを誘導させることが認められています。また、本剤の単独投与およびルキソリチニブとの併用投与により、JAK2V617FおよびMPLW515Lを造血細胞特異的に発現させることで作成した骨髄線維症マウスモデルにおいて、白血球および好中球数の正常化、脾臓サイズおよび骨髄線維化の減少が認められています。本剤の安全性および有効性については現在、米国・日本において中間・高リスクの骨髄線維症患者を対象としたフェーズ1/2試験において評価しています。本剤は、2022年5月に骨髄線維症の適応でFDAからオーファンドラッグ指定を受けました。また、2024 年11 月に骨髄線維症の適応で厚生労働省から希少疾病用医薬品指定を受けています。
以上
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