印刷(PDF/246KB)はこちらから 2025年12月09日 研究開発
米国血液学会(ASH)2025における開発中の抗がん剤enzomenib(DSP-5336)およびnuvisertib(TP-3654)に関する最新の臨床データ発表のお知らせ
住友ファーマ株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:木村 徹)の米国子会社であるSumitomo Pharma America, Inc.は、米国血液学会(ASH:American Society of Hematology)の2025年年次総会(開催時期:12月6日~12月9日、開催場所:米国オーランド)において、抗がん剤として開発中の、選択的経口メニン阻害剤enzomenib(一般名、開発コード:DSP-5336)および選択的経口PIM1キナーゼ阻害剤nuvisertib(一般名、開発コード:TP-3654)に関する最新の臨床データを発表しましたので、お知らせします。
enzomenibに関して、再発または難治性の急性白血病患者を対象として進行中のフェーズ1/2単剤試験について、最新(2025年10月時点)の予備的なデータが発表されました。対象患者116例(うち急性骨髄性白血病108例、93.1%)の前治療レジメンの中央値は2で、遺伝子変異のサブタイプは、lysine methyltransferase 2A(KMT2A)遺伝子再構成を有する患者が61例(52.6%)、nucleophosmin 1(NPM1)遺伝子変異を有する患者が34例(29.3%)、その他のHOXA9/MEIS1が関連する遺伝子変異を有する患者が21例(17.7%)でした。
enzomenibを40mg 1日2回から400mg 1日2回に漸増しましたが、用量制限毒性(DLT)はありませんでした。対象患者の10%以上に認められた治療関連有害事象は、悪心(16.4%)、嘔吐(11.2%)でした。分化症候群は12.9%の患者で報告されましたが、死亡、試験中止またはenzomenibの減量に至った症例はありませんでした。また、本試験において、治療関連死は認められませんでした。enzomenibは用量依存的に曝露が増加し、特に140mg 1日2回を超える用量で顕著でした。体内での蓄積はほとんどみられず、CYP3A4阻害薬であるアゾール系薬剤の併用によるenzomenibの曝露への影響も認められませんでした。
KMT2A遺伝子再構成を有する患者では、200mg、300mg、400mg 1日2回での用量最適化が完了し、フェーズ2試験の推奨用量(RP2D)は300mg 1日2回投与に決定されました。RP2Dにおいて、メニン阻害剤の前治療歴のないKMT2A遺伝子再構成を有する患者15例では、客観的奏効率(ORR)は73.3%、完全寛解および部分的な血液学的回復を伴う寛解(CR+CRh)率は40%でした。用量最適化に用いた用量でCR+CRhに達した患者11例の持続期間の中央値は12.5ヶ月、全対象患者39例における全生存期間の中央値(mOS)は11.8ヶ月でした。
現在、NPM1遺伝子変異を有する急性骨髄性白血病患者を対象に200mg、300mg、400mg 1日2回での用量最適化試験が進行中であり、メニン阻害剤の前治療歴のない患者では200mg、300mg 1日2回に重点を置いて検討しています。enzomenib(200mg、300mg、400mg1日2回)の投与を受けたすべての患者25名におけるORRは52%、CR+CRh率は44%、CR+CRhの持続期間の中央値は5.7ヶ月、mOSは8.5ヶ月でした。
またenzomenibとazacitidine/venetoclax(VEN/AZA)との併用療法のフェーズ1試験の予備的な結果も発表されました。再発または難治性の急性骨髄性白血病患者40例において、前治療レジメンの中央値は2で、15例(37.5%)にVENの、11例(27.5%)にメニン阻害薬の投与歴があり、KMT2A遺伝子再構成を有する患者が18例(45%)、NPM1遺伝子変異を有する患者が22例(55%)でした。VENは28日間の試験サイクルの1~14日目に、AZAは1~7日目に投与され、enzomenibはアゾール系抗真菌薬の有無にかかわらず1~28日目に140mg、200mg、300mg 1日2回投与されました。
対象患者40例においてDLTは認められず、15%以上の患者に認められた治療関連有害事象のうち、血液学的な事象は、血小板減少(45%)、白血球減少(35%)、好中球減少(30%)、貧血(22.2%)、リンパ球減少症(15%)で、非血液学的な事象は、悪心(25%)、下痢(20%)、AST上昇(15%)、便秘(15%)でした。QT間隔延長は4例(10%)に報告されましたが、グレード3以上の事象はなく、enzomenibとの関連は認められませんでした。また、分化症候群が4名報告されましたが、グレード3以上はありませんでした。薬物動態データでは、enzomenibとVENの間に明らかな薬物相互作用は認められませんでした。
評価時点(2025年10月)で、40例中26例の臨床活性データが得られており、特にVENまたはメニン阻害薬の投与歴のない患者13例において、有望な予備的臨床活性が観察され、ORRは85%(11/13例)、CRc率は62%(8/13例)、微小残存病変(MRD)測定が可能だった患者の78%(7/9例)がMRD陰性でした。
これらのデータは、新規に診断された急性骨髄性白血病患者におけるenzomenibとVEN/AZAの併用療法の評価を支持しており、初発の急性骨髄性白血病患者を対象に、VEN/AZAを添付文書の用法用量で併用し、enzomenibを200mg、300mg 1日2回投与する試験群の追加を計画しています。KMT2A遺伝子再構成またはNPM1遺伝子変異を有する初発の急性骨髄性白血病患者の登録は2026年初頭に開始予定です。
nuvisertibに関しては、モメロチニブ※との併用療法における安全性と有効性を評価する目的で進行中のフェーズ1/2試験データが初めて発表されました。再発または難治性の骨髄線維症で貧血を伴う患者18例が対象で、全員が骨髄線維症患者の標準治療であるJAK阻害剤による前治療歴を受けており、61%の患者に高分子リスク変異が認められました。予備的なデータでは、本併用療法が良好な忍容性を示し、58%の患者に全身症状スコア50%以上軽減(TSS50)およびすべての個々の症状の明確な改善が、50%の患者に脾臓容積25%以上減少(SVR25)が認められ、貧血改善、サイトカイン調節などの早期臨床効果がみられました。これらの予備的なデータは、再発または難治性の骨髄線維症患者の治療薬として、モメロチニブとの併用療法におけるnuvisertibのさらなる開発を支持するものです。
また、進行中の再発または難治性の骨髄線維症を対象とした単剤療法のフェーズ1/2試験の最新データも発表されました。対象患者77例において、nuvisertibは引き続き良好な忍容性を示し、骨髄抑制が限定的であり、DLTは認められませんでした。nuvisertibの投与により、20%の患者にSVR25が、45%の患者にTSS50およびすべての個々の症状の明確な改善が認められました。また、脾臓および症状の改善と相関する顕著なサイトカイン調節が経時的に認められ、1年全生存率は81%でした。
- ※国内では「骨髄線維症」を効能または効果として製造販売承認を取得
ご参考
白血病について
白血病は造血組織に発生する血液悪性腫瘍の一種で、骨髄における血液細胞(通常は白血球)の無秩序な増殖を特徴とします。白血病の一種である急性白血病では、血液細胞が急速に増殖し、突然症状が現れるため、早急な治療が必要とされています。急性骨髄性白血病患者さんの約30%がNPM1遺伝子の変異を有し、5~10%がKMT2A遺伝子の再構成を有しているといわれています。
骨髄線維症について
骨髄線維症は、重篤かつ希少な血液悪性腫瘍であり、JAKシグナル伝達経路の異常によって骨髄に線維組織が蓄積することを特徴とします。骨髄線維症の臨床症状には、脾臓の腫大(脾腫)、著しい全身症状、およびヘモグロビンや血小板の減少などが含まれ、世界で10万人に0.7人が罹患するとされています。骨髄線維症に対しては、持続的かつ高い奏効率を示し、血液毒性の少ない、併用療法を含む新たな治療選択肢の開発が強く求められています。
enzomenib(DSP-5336)について
enzomenibは、急性白血病およびその他の多様ながんにおける腫瘍細胞の増殖に関与する重要な分子機構であるメニンタンパク質とKMT2Aタンパク質との結合を阻害する低分子経口剤です。KMT2A遺伝子の再構成やNPM1遺伝子の変異を有する急性骨髄性白血病では、メニンとKMT2Aの結合による、造血幹細胞の維持に必要となる遺伝子(HOXA9およびMEIS1遺伝子)の変異発現が認められ、急性骨髄性白血病の発症・維持に関連しているといわれています。本剤は、非臨床試験において、メニンとKMT2Aの結合を阻害することにより、それらの遺伝子の発現減少を介した抗腫瘍作用が示されました。本剤は、米国食品医薬品局(FDA)から、2022年6月に急性骨髄性白血病の適応でオーファンドラッグ指定を、2024年6月にKMT2A遺伝子の再構成またはNPM1遺伝子の変異を有する再発または難治性の急性骨髄性白血病の適応でファストトラック指定を受けています。また、厚生労働省から、2024年9月に、再発または難治性のKMT2A遺伝子再構成陽性またはNPM1遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病の適応で希少疾病用医薬品指定を受けています。
nuvisertib(TP-3654)について
nuvisertibはPIM1(proviral integration site for Moloney murine leukemia virus 1)キナーゼ阻害を介して炎症性シグナル経路を抑制します。PIM1キナーゼは、様々な血液がんおよび固形がんにおいて過剰発現し、がん細胞のアポトーシス回避、腫瘍増殖の促進につながる可能性があります。本剤は骨髄線維症の適応で、FDAから2022年5月にオーファンドラッグ指定を、2025年6月にファストトラック指定を、厚生労働省から2024年11月に希少疾病用医薬品指定を、欧州医薬品庁(EMA)から2025年7月にオーファンドラッグ指定を受けています。
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