薬の広告ルール
薬の自由研究ガイド Vol.4

薬の広告ルールを探る 簡潔に、正しく伝える工夫あり

STEP1
研究を始める前に

おもしろそうなゲーム、かわいい雑貨や服、おいしそうな菓子……。テレビのコマーシャル(テレビCM)や雑誌などの広告を見て「これほしい!」と思ったこと、誰にでもあるのではないでしょうか。広告を作る人は、商品の魅力を上手に伝えて多くの人に買ってもらえるように、さまざまな工夫を凝らします。しかし、広告にうそや大げさな表現があったり、広告を見た人がいやな気持ちになったりすることがないように、広告を作る人たちが守らなくてはならないルールがあります。中でも、命にかかわることもある薬の広告については、ルールが細かく決められています。薬の広告ルールを探るのは、薬についての理解を深め、薬を正しく使う手助けにもなるはず。また、薬の広告を私たちはどのように利用すべきかについても考えてみましょう。

STEP2
テーマを絞り込む

薬局やドラッグストアで買える薬の広告は、テレビやラジオ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどで見ることができます。どのようなことが研究できそうか、以下に具体例を示します。

テーマ例①【テレビCMの「ピンポーン」は何のためにある?】

テレビCMの最後のほうで、ピンポーンという音がする場合と音がしない場合があります。ピンポーンの音が出ているときに出てくるメッセージが大切です。ピンポーンという音は何のためにあるのでしょうか。「第○類医薬品」といった薬の分類がカギを握っています。どのような分類のときにピンポーンという音がするのか、音がしないのはどういう分類の薬の広告か、まずはそこから調べてみて。

テーマ例②【「共通点」や「相違点」から見えてくること】

テレビCMでも新聞などの広告でも、薬の名前やパッケージのそばには「第○類医薬品」といった文字があるはず。この「第○類」という表示は必ず入れなくてはならないものです。
これって何のためにあるのでしょうか。ほかにも表示の共通点や相違点は?たとえば頭痛薬の広告を数種類、鼻炎用薬の広告を数種類など、効能・効果は似ていても薬を作っている会社が違うものを比べてみると、どのようなルールがありそうか、わかりやすいかもしれません。

STEP3
研究方法

薬のテレビCMを探す

テレビに薬のCMが出てきたら注意深く見るようにしたいものですが、1回見たくらいではいろいろと見落としそうです。録画しておいた番組に薬のCMがあれば、繰り返し再生して静止画像などにして内容をチェックしましょう。健康や医療がテーマの番組では薬のCMが流れることが多いようです。また、製薬会社のウェブサイトでCMの動画を公開している場合もあります。たとえば、自分や家族が使ったことのある薬の名前と「動画」というキーワードで検索するとみつかるかもしれないので試してみて。

新聞や雑誌の広告を探す

新聞なら2週間分くらいチェックすれば10件程度はみつかりそうです。切り抜いて、何新聞の何月何日の広告かメモしておきましょう。雑誌にも薬の広告が出ている場合があります。健康や医療に関心のある大人向けの雑誌に出ていることが多いようなので、父母、祖父母の方々が読んでいる雑誌を貸してもらうのもよいでしょう。

集めた広告を見比べる、添付文書と見比べる

効能・効果のほか、用法・用量、使用上の注意などに着目して、集めた広告を見比べてみましょう。家にある薬の広告が見つかったら、広告と薬の添付文書を見比べてみると、おもしろい発見がありそうです。添付文書のどの部分が広告で取り上げられていますか?なお、添付文書は日本OTC医薬品協会のウェブサイト にある「おくすり検索」で探すこともできます。

参考になりそうなウェブサイト

薬の広告を出すときに守りたい自主的な基準が書いてある、以下のサイトが参考になります。少し難しい表現もありますが見てみましょう。

STEP4
研究をまとめる

病気や不調をかかえる人が、適切な薬を選び、正しく使えるように、どのような作用があるのか(効能・効果)、使い方(用法・用量)や注意点(使用上の注意)がしっかりと伝わる工夫がなされているというのが薬の広告の大きな特徴と言えます。そのあたりを掘り下げてみましょう。ここではテーマ①について、まとめ方の例を示します。

薬の「種類」と「工夫」_薬の自由研究ガイド Vol.1でも紹介していますが、インターネット上の情報は全てが正しいとは限りません。少なくとも、資料を作った人や団体などが明記されているものを参考にしてください。そして、どの資料を参考にしたかについて、研究レポートに書くのも忘れずに。

まとめ方の例まとめ方の例

研究テーマ

薬の広告ルールを探る
テレビCMの「ピンポーン」は何のためにある?

このテーマを選んだ理由

薬のテレビCMには、最後にピンポーンという音がする場合と音がしない場合があるのに気がついた。そしてこの音がするとき、同じような画面が出てくる。なぜだろうと疑問に思ったから。

研究したこと

ピンポーンという音がする場合としない場合で、薬の種類などに違いがあるか。何のための音か。音がするときの画面の特徴は。

研究結果

テレビCMでピンポーンという音がする薬としない薬の違い

ピンポーンという音は注意喚起音と呼ばれ、音と一緒に表示される薬の注意書きに、見ている人の意識を向けるためにあるようだ。薬局やドラッグストアで買える市販薬(一般用医薬品)には、薬剤師の説明を受けてからでなければ買えない「要指導医薬品」と、副作用が生じる可能性が高い順に分類した「第1類医薬品」、「第2類医薬品」「第3類医薬品」がある。このうち第3類医薬品ではピンポーンの音が確認できなかった。

ピンポーン音とともに表示される画面

音がすると同時に表示される画面には、以下の4つがあった。特に重要な注意書きは赤字で書いてあるようだ。

  • 1 この医薬品は、薬剤師から説明を受け、「使用上の注意」をよく読んでお使いください。
  • 2 この医薬品は、薬剤師から説明を受け、「使用上の注意」をよく読んでお使いください。アレルギー体質の方は、必ずご相談ください。
  • 3 この医薬品は、薬剤師、登録販売者に相談のうえ、「使用上の注意」をよく読んでお使いください。
  • 4 この医薬品は「使用上の注意」をよく読んでお使いください。アレルギー体質の方は、必ず薬剤師、登録販売者にご相談ください。
ピンポーン音とともに表示される画面は何のためにあるのか

ピンポーンの音がなるのは、販売者が購入者に対して薬の情報提供を義務づけられている要指導医薬品と第1類医薬品、なるべく情報提供するようにという努力義務のある第2類医薬品のテレビCMだった。

医薬品の分類と販売するときの情報提供について

参考資料:○○県のウェブサイト「一般用医薬品リスク区分について」https://……

画面1と2は要指導医薬品か第1類医薬品のテレビCMだった。画面3は第2類医薬品の「2」という数字が〇や□で囲ってあるものだった。これは「指定第2類医薬品」といって、第2類の中でも副作用などに特に注意が必要な薬だ。画面4は解熱鎮痛薬のテレビCMで出てきた。

画面表示のルールについて

薬剤師や登録販売者と呼ばれる人から説明を受けなくてはならないのか、または説明を受ける必要はなく「使用上の注意」をよく読めばいいのかということと、アレルギー体質の人が特に気をつけるべき薬かどうかがわかるように表示されている。

日本一般用医薬品連合会の「OTC医薬品等の適正広告ガイドライン」によると、ピンポーンの音とともに画面を静止させなくてはならない秒数は1秒以上、2秒以上などと決められていることがわかった。赤字にしなくてはならない文字も決められている。また、解熱鎮痛剤を含むかぜ薬と解熱鎮痛薬のテレビCMには「アレルギー体質の方は~~ご相談下さい。」の文字を入れなくてはならないと書いてあった。

研究を終えての感想

どのような薬でも副作用は起こり得るし、用法・用量を守ることや、使用上の注意を守ることは大切だ。テレビCMは15秒と短いものが多く、長くても1分程度。限られた時間の中で薬の特徴を知らせると同時に、使用上の注意がきちんと伝わるように、ピンポーンの音と静止画面があり、そこに表示すべきことが細かく決められているというのは驚きだった。多くの人が目にする広告だから、見た人すべてに誤解がないように注意深く作られていると感じた。

しかし広告を見るだけでは、その薬のことを十分に理解するのは難しい。広告は薬を知るきっかけにはなるけれど、自分に合った薬なのか、どのように使えばいいかなどについては、薬剤師さんに相談し、添付文書をよく読む必要がある。

コラム

病院で処方される薬の広告
見たことがないのはなぜ?

今回取り上げた薬の広告の話は、どれも薬局やドラッグストアで買える薬に関することです。病院で診察を受け、医師に処方してもらう処方薬(医療用医薬品)の広告は見たことがないはず。

なぜなら処方薬を選ぶのは医師であり、患者である私たちではないからです。医師は、どの薬を使えばいいか、どのくらいの量を、どのくらいの期間使えばいいか、患者さんをよく診察し、高度な専門知識を生かして判断します。

ですから、私たちが自由に選んで買える薬ではない医療用医薬品を、一般向けに広告してはならないというのは、法律などで決められています。(注1) 医療用医薬品の広告は、製薬会社のMR(医薬情報担当者)による説明の際や病院や薬局などへの配布資料、医療関係者が集まる学会や講演会、説明会などに限定して行われます。

法律の解説書(注2)には「一般大衆への広告を無制限に認めると、その医薬品の適切な使用を誤らせるおそれが大きいとともに、適切な医療の機会を逃す結果にもなり、その弊害は重大である」とあります。ある意味これは、十分な専門知識を持たない一般の人が医療用医薬品の広告に接することで、薬に過度の期待を持ったり、自己判断で薬の使用量を増減したり、薬の使用をやめてしまったりなど、薬が正しく使われなくなることがないように、私たちを守るためにある法律と言えるでしょう。

(注1)医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第六十七条(特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品の広告の制限)

(注2)薬事法規研究会編:逐条解説 医薬品医療機器法 第二部 ぎょうせい:206-16, 2016

監修:加藤哲太(日本くすり教育研究所代表)