HOME > すこやかコンパス > 石鹸&消毒液のはたらきを調べよう
新型コロナウイルスの感染予防のために、私たちは毎日当たり前のように、こまめに石鹸で手を洗い、手指や身の回りの物を消毒・除菌するようになりました。
月刊からだコラム「正しい手洗いで感染を予防しよう」でも紹介したように、手洗いが大切なのは、感染している人が咳やくしゃみをするときに口を押さえた手でドアノブや手すりなどに触れ、その後、他の人がそれらに触れた手指で鼻や口や目に触れることで、粘膜などを通じてウイルスに感染する「接触感染」を防ぐためです。手洗いの際、石鹸やハンドソープを使うとウイルス除去効果は高まります。
また、身の回りの物を消毒・除菌する必要があるのは、物に付いたウイルスがしばらくの間、壊れずに残っているからです。時間が経てば、物の表面に付いたウイルスは壊れ、感染力もなくなります。しかし、世界保健機関(WHO)によると、新型コロナウイルスは、ボール紙の上では最大24時間、プラスチックの表面では最大72時間壊れずに残っているとされています。そのため、手洗いだけではなく、消毒液を使って身の回りの物を消毒・除菌することも、感染予防につながるのです。
では、日頃なんとなく使っている石鹸や消毒液が、どのようにウイルスを除去しているか、考えたことはありますか? 根本的なしくみを知ることで、石鹸や消毒液の効果や、正しい使い方をさらによく理解でき、誤った使い方をすることを防ぐこともできます。この研究を通して得た学びを家族や友達にシェアすれば、社会全体で感染症の拡大を防ぐことにもつながるはずです。
厚生労働省のウェブサイトには、手指や身の回りの物を消毒・除菌する方法や、使用する消毒液の種類など、新型コロナウイルスの消毒・除菌方法についてまとめられていて、詳しく調べたいときに役立ちます。
参考:厚生労働省 新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html
私たちが正しく消毒・除菌を行うには、石鹸や消毒液が効くしくみを理解することが大切です。今回は「手指に使える消毒・除菌方法」である石鹸とアルコール消毒液に絞って、どのように効くのか調べてみてはどうでしょうか。
新型コロナウイルスに関する情報はたくさんありますが、厚生労働省をはじめとした国の機関が出している情報が参考になります。新たにわかったことがあれば更新もされますし、信頼性の高い情報を得ることができます。石鹸や消毒液の成分や効果に関する情報については、石鹸や消毒液を製造・販売している企業のウェブサイトも調べてみるとよいでしょう。
参考:厚生労働省 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html
新型コロナウイルスとはどんなウイルスなのか、どのように対策すればよいのか、感染するとどうなるのかなど、新型コロナウイルスに関する疑問に幅広く答えているページです。
感染症やウイルスについての知識がまとめられた本も参考になるでしょう。新型コロナウイルスの流行後に出版されたものもあります。書店や図書館で探してみましょう。
新型コロナウイルス感染予防に石鹸や手指消毒用アルコールが効くしくみ
新型コロナウイルスの感染予防としてふだん使っている石鹸や手指消毒用アルコールが、どのようにウイルスに効くかを知ることによって、より効果的に石鹸や消毒液が使えるようになると思ったから。
手指を清潔に保つための石鹸と手指消毒用アルコールがウイルスに作用する仕組みについて。
【石鹼や手指消毒用アルコールが有効な理由】
新型コロナウイルスの感染経路には、飛沫感染のほか、接触感染もある。接触感染は、石鹸によるこまめな手洗いや手指のアルコール消毒・除菌により、ウイルスを除去することで予防できる。
【石鹸の洗浄作用でウイルスが除去されるしくみ】
流水だけで手を洗った時と、石鹼で洗った時とでは、何が違うのだろうか?
石鹸は、油脂(パーム油などの植物性油脂や、牛脂などの動物性油脂)と
水酸化ナトリウムを反応させてつくられる。石鹸は界面活性剤のひとつである。
界面活性剤は、水と油の境目である「界面」に作用して、本来は混じり合わない水と油を混ぜ合わせる働きを持つもの。食器や衣服を洗う洗剤にも界面活性剤が含まれているほか、食品や化粧品などにも界面活性剤が使われている。
界面活性剤の分子の中には、油となじみやすい部分(親油基)と水になじみやすい部分(親水基)がある。
たとえば衣服を洗う洗剤の場合、親水基は水と結びつくため、繊維の中まで水をしみこませることができる。親油基は服についた油汚れと結びつくため、汚れを服の繊維から引き離して落とすことができる。
石鹸で手を洗うと、石鹸の親油基が手の皮脂と結びついて汚れを落とす。単なる流水で洗った時よりも、石鹸を使えば手の皮脂と一緒にウイルスを洗い流せるため効果が高い。
【石鹸やアルコールがウイルスを破壊するしくみ】
厚生労働省のウェブサイトをよく読むと、『石鹸(界面活性剤)とアルコールは、ウイルスの「膜」を壊すことで無毒化する』と書かれている。この「膜」とは何か調べてみた。
新型コロナウイルスは、ウイルスの粒子の一番外側に、脂質でできた二重の膜、「エンベロープ」を持っている。
すべてのウイルスにエンベロープがあるわけではない。表面の構造の違いによって、ウイルスは「エンベロープウイルス」と「ノンエンベロープウイルス」の2種類に分けられる。
界面活性剤の分子の中には、油となじみやすい部分(親油基)と水になじみやすい部分(親水基)がある。
ウイルスの表面に「エンベロープ」と呼ばれる膜があるウイルス。新型コロナウイルス、インフルエンザウイルスなど。膜が壊れると、ウイルスの感染力は失われる。
エンベロープがないウイルス。ノロウイルス、ロタウイルスなど。ウイルス表面がアルコールに強いため、アルコール消毒は効きにくい。
アルコールも界面活性剤と同じように、親油基と親水基を持っており、脂質(油)でできたエンベロープを壊すことができる。
新型コロナウイルスはエンベロープウイルスなので、石鹸やアルコール消毒が効きやすい。
インフルエンザウイルスなど、新型コロナウイルスと同じエンベロープウイルスは、同様に石鹼やアルコール消毒が効きやすいと考えられる。
手指の消毒には、濃度が70%以上95%以下のエタノールが有効。
汚れた手や手洗い後の濡れた手に使うと、アルコールが汚れや水と混ざることでアルコール濃度が低くなり、必要なアルコール濃度を下回ってしまう。そうすると消毒効果が下がることも考えられる。
手に汚れがついている場合は手を洗って汚れを取り、手が濡れている場合はしっかりふいて乾燥させた後にアルコールを使うことが大切である。
石鹸や手指消毒用アルコールが新型コロナウイルス除去に効くしくみがわかり、石鹼による⼿洗いやアルコール消毒の⼤切さや、より効果的に手指についたウイルスを少なくする方法を本質的に理解できたと思う。
次は、他のウイルスや細菌による感染症の予防や、ウイルスと細菌の違いについても調べてみたい。
物の消毒に使う消毒液のうち、次亜塩素酸ナトリウムや家庭用洗剤を使った消毒液は、多くの家にある漂白剤や洗剤を使ってつくることができます。
市販の塩素系漂白剤を薄めて、テーブルやドアノブなどの消毒に使うことができます。
市販の塩素系漂白剤を、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.05%になるように水で薄めて使います。商品ごとに濃度が異なりますので、厚生労働省のポスターの情報を参考にして薄めてください。
次亜塩素酸ナトリウム液で拭いた後は、水拭きしましょう。
住宅・家具用洗剤や台所用洗剤に含まれている界面活性剤にも、新型コロナウイルスに効くものがあります。効果があるのは下記9種類の界面活性剤です。家にある洗剤に以下の成分が含まれているかどうか、確認してみましょう。新型コロナウイルスに効果のある製品名のリストも公開されています。
厚生労働省では、まわりに人がいて、人の目や皮膚に付着したり吸い込んだりするおそれのある場所で、消毒液や、消毒・除菌効果をうたう製品を空間噴霧することは、おすすめしていません。空気中のウイルスを室外に排出するためには、こまめに換気を行って、部屋の空気を入れ換えることが必要です。
お店に並んでいる石鹸や消毒液、ウェットティッシュやスプレーなどの製品を見ると、「消毒」と書かれているものと「除菌」と書かれているものがあります。どちらもウイルスに効きそうな感じはしますが、何が違うのでしょうか。
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、薬機法)に基づいて品質・有効性・安全性が確認された「医薬品・医薬部外品」の製品には、「消毒」と記されています。
「除菌」は、一部の洗剤や漂白剤など、「雑貨品」として扱われる製品でよく使われています。実際には細菌やウイルスを消毒できる製品もありますが、薬機法では、たとえ殺菌や消毒効果があっても、医薬品や医薬部外品ではない製品が「殺菌」や「消毒」といった効果をうたうことはできないと決められているため、「除菌」と記されるのです。
なお、「医薬品・医薬部外品」の「消毒剤」であっても、それ以外の「除菌剤」であっても、すべての菌やウイルスに効果があるわけではありません。
監修:加藤哲太(日本くすり教育研究所代表)