石鹸&消毒液のはたらきを調べる
薬の自由研究ガイド Vol.7

石鹸&消毒液のはたらきを調べようss

STEP1 研究を始める前に

新型コロナウイルスの感染予防のために、私たちは毎日当たり前のように、こまめに石鹸で手を洗い、手指や身の回りの物を消毒・除菌するようになりました。

月刊からだコラム「正しい手洗いで感染を予防しよう」でも紹介したように、手洗いが大切なのは、感染している人が咳やくしゃみをするときに口を押さえた手でドアノブや手すりなどに触れ、その後、他の人がそれらに触れた手指で鼻や口や目に触れることで、粘膜などを通じてウイルスに感染する「接触感染」を防ぐためです。手洗いの際、石鹸やハンドソープを使うとウイルス除去効果は高まります。

また、身の回りの物を消毒・除菌する必要があるのは、物に付いたウイルスがしばらくの間、壊れずに残っているからです。時間が経てば、物の表面に付いたウイルスは壊れ、感染力もなくなります。しかし、世界保健機関(WHO)によると、新型コロナウイルスは、ボール紙の上では最大24時間、プラスチックの表面では最大72時間壊れずに残っているとされています。そのため、手洗いだけではなく、消毒液を使って身の回りの物を消毒・除菌することも、感染予防につながるのです。

では、日頃なんとなく使っている石鹸や消毒液が、どのようにウイルスを除去しているか、考えたことはありますか? 根本的なしくみを知ることで、石鹸や消毒液の効果や、正しい使い方をさらによく理解でき、誤った使い方をすることを防ぐこともできます。この研究を通して得た学びを家族や友達にシェアすれば、社会全体で感染症の拡大を防ぐことにもつながるはずです。

STEP2 テーマを絞り込む

厚生労働省のウェブサイトには、手指や身の回りの物を消毒・除菌する方法や、使用する消毒液の種類など、新型コロナウイルスの消毒・除菌方法についてまとめられていて、詳しく調べたいときに役立ちます。

参考:厚生労働省 新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html

資料を読んで、気になるところはないかな?そこからテーマを考えてみよう!
テーマ例
「水及び石鹸による洗浄」、そして「アルコール消毒液」は「モノ」と「手指」の消毒・除菌に使用できるらしい。それぞれ効果的な使い方はあるのだろうか?
「アルコール消毒液」は「モノ」と「手指」の消毒に使用できるとある。
「次亜塩素酸ナトリウム水溶液」は手指には使用できないようだ。
なぜなのだろうか?
モノの消毒・除菌には「手指用以外の界面活性剤(洗剤)」も使えるようだ。界面活性剤とはどのようなものなのか?そして、どのぐらい効果があるのだろうか。
これ以外にも、新型コロナウィルスの消毒・除菌方法について疑問に思うことがあれば、それが研究テーマになるかもしれないね!

今回のテーマ

新型コロナウイルス感染予防に石鹸や手指消毒用アルコールが効くしくみ

私たちが正しく消毒・除菌を行うには、石鹸や消毒液が効くしくみを理解することが大切です。今回は「手指に使える消毒・除菌方法」である石鹸とアルコール消毒液に絞って、どのように効くのか調べてみてはどうでしょうか。

STEP3 調べ方

ウェブサイトで調べる

新型コロナウイルスに関する情報はたくさんありますが、厚生労働省をはじめとした国の機関が出している情報が参考になります。新たにわかったことがあれば更新もされますし、信頼性の高い情報を得ることができます。石鹸や消毒液の成分や効果に関する情報については、石鹸や消毒液を製造・販売している企業のウェブサイトも調べてみるとよいでしょう。

参考:厚生労働省 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html

新型コロナウイルスとはどんなウイルスなのか、どのように対策すればよいのか、感染するとどうなるのかなど、新型コロナウイルスに関する疑問に幅広く答えているページです。

 

書籍で調べる

感染症やウイルスについての知識がまとめられた本も参考になるでしょう。新型コロナウイルスの流行後に出版されたものもあります。書店や図書館で探してみましょう。

STEP4 研究をまとめる

まとめ方の例

研究テーマ

新型コロナウイルス感染予防に石鹸や手指消毒用アルコールが効くしくみ

このテーマを選んだ理由

新型コロナウイルスの感染予防としてふだん使っている石鹸や手指消毒用アルコールが、どのようにウイルスに効くかを知ることによって、より効果的に石鹸や消毒液が使えるようになると思ったから。

研究したこと

手指を清潔に保つための石鹸と手指消毒用アルコールがウイルスに作用する仕組みについて。

研究結果

【石鹼や手指消毒用アルコールが有効な理由】
新型コロナウイルスの感染経路には、飛沫感染のほか、接触感染もある。接触感染は、石鹸によるこまめな手洗いや手指のアルコール消毒・除菌により、ウイルスを除去することで予防できる。

【石鹸の洗浄作用でウイルスが除去されるしくみ】
流水だけで手を洗った時と、石鹼で洗った時とでは、何が違うのだろうか?

石鹸は、油脂(パーム油などの植物性油脂や、牛脂などの動物性油脂)と
水酸化ナトリウムを反応させてつくられる。石鹸は界面活性剤のひとつである。

界面活性剤とは?

界面活性剤は、水と油の境目である「界面」に作用して、本来は混じり合わない水と油を混ぜ合わせる働きを持つもの。食器や衣服を洗う洗剤にも界面活性剤が含まれているほか、食品や化粧品などにも界面活性剤が使われている。

なぜ界面活性剤は水と油を混ぜ合わせることができるのか?

界面活性剤の分子の中には、油となじみやすい部分(親油基)と水になじみやすい部分(親水基)がある。

水と油を混ぜ合わせる界面活性剤が、汚れを落とせるのはなぜ?

たとえば衣服を洗う洗剤の場合、親水基は水と結びつくため、繊維の中まで水をしみこませることができる。親油基は服についた油汚れと結びつくため、汚れを服の繊維から引き離して落とすことができる。
石鹸で手を洗うと、石鹸の親油基が手の皮脂と結びついて汚れを落とす。単なる流水で洗った時よりも、石鹸を使えば手の皮脂と一緒にウイルスを洗い流せるため効果が高い。

【石鹸やアルコールがウイルスを破壊するしくみ】
厚生労働省のウェブサイトをよく読むと、『石鹸(界面活性剤)とアルコールは、ウイルスの「膜」を壊すことで無毒化する』と書かれている。この「膜」とは何か調べてみた。

ウイルスの「膜」とは?

新型コロナウイルスは、ウイルスの粒子の一番外側に、脂質でできた二重の膜、「エンベロープ」を持っている。
すべてのウイルスにエンベロープがあるわけではない。表面の構造の違いによって、ウイルスは「エンベロープウイルス」と「ノンエンベロープウイルス」の2種類に分けられる。

「エンベロープウイルス」と「ノンエンベロープウイルス」の違いは?

界面活性剤の分子の中には、油となじみやすい部分(親油基)と水になじみやすい部分(親水基)がある。

エンベロープウイルス

エンベロープがある

ウイルスの表面に「エンベロープ」と呼ばれる膜があるウイルス。新型コロナウイルス、インフルエンザウイルスなど。膜が壊れると、ウイルスの感染力は失われる。

ノンエンベロープウイルス

エンベロープがない

エンベロープがないウイルス。ノロウイルス、ロタウイルスなど。ウイルス表面がアルコールに強いため、アルコール消毒は効きにくい。

アルコールも界面活性剤と同じように、親油基と親水基を持っており、脂質(油)でできたエンベロープを壊すことができる。
新型コロナウイルスはエンベロープウイルスなので、石鹸やアルコール消毒が効きやすい。
インフルエンザウイルスなど、新型コロナウイルスと同じエンベロープウイルスは、同様に石鹼やアルコール消毒が効きやすいと考えられる。

アルコールによる手指消毒の注意点

手指の消毒には、濃度が70%以上95%以下のエタノールが有効。
汚れた手や手洗い後の濡れた手に使うと、アルコールが汚れや水と混ざることでアルコール濃度が低くなり、必要なアルコール濃度を下回ってしまう。そうすると消毒効果が下がることも考えられる。
手に汚れがついている場合は手を洗って汚れを取り、手が濡れている場合はしっかりふいて乾燥させた後にアルコールを使うことが大切である。

研究を終えての感想

石鹸や手指消毒用アルコールが新型コロナウイルス除去に効くしくみがわかり、石鹼による⼿洗いやアルコール消毒の⼤切さや、より効果的に手指についたウイルスを少なくする方法を本質的に理解できたと思う。
次は、他のウイルスや細菌による感染症の予防や、ウイルスと細菌の違いについても調べてみたい。

コラム1 消毒液(物品消毒用)のつくり方と使い方

物の消毒に使う消毒液のうち、次亜塩素酸ナトリウムや家庭用洗剤を使った消毒液は、多くの家にある漂白剤や洗剤を使ってつくることができます。

次亜塩素酸ナトリウム液

市販の塩素系漂白剤を薄めて、テーブルやドアノブなどの消毒に使うことができます。

〈 つくり方と使い方 〉

市販の塩素系漂白剤を、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.05%になるように水で薄めて使います。商品ごとに濃度が異なりますので、厚生労働省のポスターの情報を参考にして薄めてください。
次亜塩素酸ナトリウム液で拭いた後は、水拭きしましょう。

注意
  • ※ 換気を十分に行いましょう。
  • ※ 使用時は家事用手袋を着用し、塩素に過敏な方は使わないようにしましょう。
  • ※ 目に入ったり、皮膚についたりしないように気を付けましょう。
  • ※ 飲み込んだり、吸い込んだりしないように気を付けましょう。
  • ※ 他の薬品と混ぜないでください。とくに酸性のものと混ぜると、塩素ガスが発生するため危険です。
  • ※ 商品パッケージやHPの説明を確認しましょう。

家庭用洗剤を使った消毒液

住宅・家具用洗剤や台所用洗剤に含まれている界面活性剤にも、新型コロナウイルスに効くものがあります。効果があるのは下記9種類の界面活性剤です。家にある洗剤に以下の成分が含まれているかどうか、確認してみましょう。新型コロナウイルスに効果のある製品名のリストも公開されています。

  • 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(0.1%以上)
  • アルキルグリコシド(0.1%以上)
  • アルキルアミンオキシド(0.05%以上)
  • 塩化ベンザルコニウム(0.05%以上)
  • 塩化ベンゼトニウム(0.05%以上)
  • 塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(0.01%以上)
  • ポリオキシエチレンアルキルエーテル(0.2%以上)
  • 純石けん分(脂肪酸カリウム)(0.24%以上)
  • 純石けん分(脂肪酸ナトリウム)(0.22%以上)

〈 つくり方と使い方 〉

  • 住宅・家具用洗剤は、製品に書かれた使用方法に従って、そのまま使います。
  • 台所用洗剤は薄めて使います。100分の1(水500mlに小さじ1杯)に薄めて、きれいな布などに浸して拭き取ります。その後、水拭きとから拭きを行いましょう。
注意

厚生労働省では、まわりに人がいて、人の目や皮膚に付着したり吸い込んだりするおそれのある場所で、消毒液や、消毒・除菌効果をうたう製品を空間噴霧することは、おすすめしていません。空気中のウイルスを室外に排出するためには、こまめに換気を行って、部屋の空気を入れ換えることが必要です。

コラム1 「消毒」と「除菌」の違い

お店に並んでいる石鹸や消毒液、ウェットティッシュやスプレーなどの製品を見ると、「消毒」と書かれているものと「除菌」と書かれているものがあります。どちらもウイルスに効きそうな感じはしますが、何が違うのでしょうか。

消毒 菌やウイルスを無毒化すること

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、薬機法)に基づいて品質・有効性・安全性が確認された「医薬品・医薬部外品」の製品には、「消毒」と記されています。

消毒 無毒化する

除菌 菌やウイルスの数を減らすこと

「除菌」は、一部の洗剤や漂白剤など、「雑貨品」として扱われる製品でよく使われています。実際には細菌やウイルスを消毒できる製品もありますが、薬機法では、たとえ殺菌や消毒効果があっても、医薬品や医薬部外品ではない製品が「殺菌」や「消毒」といった効果をうたうことはできないと決められているため、「除菌」と記されるのです。

除菌 数を減らす

なお、「医薬品・医薬部外品」の「消毒剤」であっても、それ以外の「除菌剤」であっても、すべての菌やウイルスに効果があるわけではありません。

監修:加藤哲太(日本くすり教育研究所代表)