薬を排泄とは。肝臓が活躍。
からだを旅する薬のこと Vol.3

実は、使った薬の全部が効力を発揮しているわけではありません。内用薬は、主に小腸で吸収されたらまず肝臓に入り、ここで薬の一部、あるいは大半が効き目をもたない別のものに変えられ、多くは腎臓から排出されます。

せっかくのんだ薬が無駄になって、もったいない?! 気もしますが、これも大切なからだの機能。薬は、病気が早く治るように働いてくれるものですが、通常はからだの中に存在しない“異物”でもあります。薬をからだの外へ出すことができず、ずっとからだの中に留まっていたら、それはそれで問題ですから。

「肝心かなめ」の肝が活躍

肝臓はいわば、からだの中にある化学工場です。食べ物に含まれる栄養成分からエネルギーを生み出したり、からだを作る成分に変えたり、“異物”である薬や有害な物質を処理したり。「肝心かなめ」という言葉がありますが、肝臓はまさに生きていく上で“かなめ”となる臓器です。

内用薬の場合、肝臓を通過し、血液にのって全身をめぐる薬の量は、小腸で吸収した量よりも少なくなっています。そのため薬の使用量は、この“目減り”する量を考えて決められます。

肝臓を通過せずに血中に入る注射薬や外用薬は、この“目減り”を避けてからだをめぐります。肝臓を通過したら効力を失う薬や、効力が著しく低下する薬は、内用薬ではなく、舌下剤、噴霧剤、坐剤として使うのはこのためです。

薬の退場口

図:錠剤やカプセルには、こんなシカケが!

役目を終えた薬は、主に肝臓にある酵素の働きによって、排出されやすい性質へと変えられます。これを薬の「代謝」と呼びます。その後、多くは腎臓に送られ、尿と一緒に体外へ。ここが、からだを旅する薬の終着点です。

なお一部の薬は、肝臓の消化液である胆汁と一緒に消化管へ入り、便とともに排出されます。量的にはそれほど多くはないですが、だ液や汗、はく息、母乳から排出される薬もあります。

子どもは“小さな大人”ではない

図:錠剤やカプセルには、こんなシカケが!

薬の世界では、大人の薬が使えるようになるのは15歳から。15歳未満は子どもとみなします。子どもは、薬の代謝や排出にかかわる肝臓や腎臓、そして薬の影響を受けやすい脳が未発達です。「体重が大人の半分くらいだから、薬も半分のめばいい」という単純な計算は、必ずしも成り立たちません。大人用の薬には、子どもでの有効性や安全性が確立されていないものもあります。

子ども用の薬と大人用の薬では、成分の量だけではなく成分そのものが異なる場合もあります。自分で選んで買える市販薬も、「小児用」「ジュニア」などと書いてある薬を選び、保護者と相談しながら使いましょう。

高齢者は薬の処理能力が低下

からだの機能は、加齢とともに多かれ少なかれ衰えていくもの。高齢者では、肝臓などで薬を代謝し、腎臓から排出する機能が低下するため、薬が効きすぎてしまうことがあります。特に肝臓や腎臓の病気を持っている場合、副作用の危険性が高くなります。

それなのに、複数の病気にかかってしまい、使う薬が増えればますます肝臓や腎臓に負担をかけることに。高齢者には、生活習慣病のような慢性的な病気が多いので、薬を使う期間も長くなりがちです。使う薬の量を変える、より安全な薬に変える……といった検討が必要になってきます。

薬は、「狙い通りに効くこと」がもちろん重要ですが、役目を終えたら「速やかに代謝、排出されること」も同じくらい大切なのです。

 

図:高齢者では薬の血中濃度が2倍以上になることも 図:高齢者では薬の血中濃度が2倍以上になることも

出典:Castleden CM et al.:British Journal of Clinical Pharmacology 7(1):49-54, 1979

添付文書

薬には必ず、薬を正しく使うための説明書、添付文書がついているよ。何のために使う薬なのか、いつ、どのくらいの量を使わなくてはならないかとか、のんでいけない人や、医師や薬剤師に相談して慎重に使わなくてはならないのはこういう人……とか、副作用のことも書いてあるんだ。子どもや高齢者、妊婦は使えるか、といった情報もここにあるよ。

小さな字が多くて内容も少し難しいけれど、がんばって読んでみよう。何かおかしな症状があるとき、「副作用かな?」って早く気がつけるはず。薬を使い終わるまでは、ちゃんと保存しておいてね。

病院で処方せんをもらう薬には、添付文書そのものではなく、患者さんに必要な情報
(用法・用量など)をピックアップしてまとめた書面がつけられているよ。これもよく読んでから薬を使おう。

コラム

肝臓の酵素の"元気度"と薬の効き目

からだの中の化学工場である肝臓には、たくさんの代謝酵素があります。薬の代謝にかかわる代表例は、「シトクロムP450(CYP)」と呼ぶ酵素群です。吸収した薬が肝臓を通ると“目減り”するのは、CYPなどの働きで一部あるいは大半が代謝されてしまうからなのです。

たとえばグレープフルーツには、ある種のCYPの働きを弱める作用があります。薬の種類にもよりますが、想定以上の薬が肝臓で代謝されずに、血中濃度が高くなりすぎてしまう、つまり薬が効きすぎてしまうことがあるのです。