肝臓や全身で起きること
薬の「のみ合わせ」 Vol.2

スコッピィ君:肝臓は食品と薬の交差点

食品に含まれる成分は、からだに吸収されてから薬の作用に影響を及ぼすこともあります。食品の成分も、のみ薬の成分も、吸収後はまず肝臓を通過するため、肝臓は、のみ合わせが生じる最大の"舞台"になっています。

肝臓で:薬の分解・処理を邪魔する

薬を排泄とは。肝臓が活躍。からだを旅する薬のこと Vol.3でも触れましたが、薬は肝臓にある代謝酵素によって、ある程度分解・処理され、残りが血液とともに体内をめぐって効果を表します。そのことを見越して、薬の服用量は定められています。

つまり、薬が期待通りの効果を発揮するには、予定通りの分解・処理が行われなくてはなりません。ところが食品の成分が、代謝酵素の働きを弱めてしまうことがあります。代謝酵素の働きが弱まれば、必要以上の量の薬がからだをめぐります。そうすると、治療効果が高まるというよりも、効きすぎたり、副作用だけが強く出たりする場合が多くあります。

肝臓で:薬の分解・処理を邪魔する

グレープフルーツの影響で、約3日代謝酵素の働きが低下

肝臓にある代謝酵素の働きを弱め、薬の効き目を強めるものとして、最もよく知られていているのがグレープフルーツの果肉に含まれる「フラノクマリン」という成分です。高血圧の薬や心臓病の薬、脂質異常症の薬など、さまざまな薬の作用を強めてしまい、効きすぎて危険な状態になることもあります。

「薬との相性の悪い食品は、時間を空けてとればいい」というのが基本ではありますが、グレープフルーツでは、その影響が数日続くこともあるため注意が必要です。

グレープフルーツの影響で、約3日代謝酵素の働きが低下

肝臓で:代謝酵素を奪い合う

肝臓にはたくさんの代謝酵素がありますが、「これは薬用、これは食品用」という風に分けられるものばかりではありません。同じ代謝酵素によって分解処理される薬の成分と食品の成分が同時にやってくると、いわば代謝酵素の"奪い合い"となり、肝臓での分解・処理が追いつかなくなることがあります。

例えば「テオフィリン」というぜんそくの薬と、コーヒーや紅茶、お茶などに含まれる「カフェイン」。テオフィリンをのんでいるときカフェインをたくさんとると、どちらの成分も、多めに肝臓をすり抜け、全身へと運ばれます。テオフィリンもカフェインも、多すぎると頭痛や吐き気といった副作用を引き起こします。

肝臓で:代謝酵素を奪い合う

全身で:薬と反対の作用で邪魔する

 

薬が作用する場所で、食べ物の成分が影響を及ぼすこともあります。その典型例が、血液を固まりにくくする薬、抗血栓薬の「ワルファリン」と納豆の組み合わせです。

ワルファリンは、血管内で血液のかたまりができ、血流が悪くなると発症する心臓病や脳卒中などが心配な人がのむ薬です。これをのんでいるときは、少量でも納豆は避けたほうがいいとされています。なぜなら納豆にたくさん含まれているビタミンKは、血液を固めるときに必要な成分であり、ワルファリンの作用を邪魔するからです。

納豆は、ビタミンKの含有量が多い上、含まれる納豆菌が腸内で新たなビタミンKを作り出すため、先に述べたグレープフルーツ同様、その影響が数日続くこともあります。

全身で:薬と反対の作用で邪魔する

全身で:薬と同じ作用で効果を強めすぎる

風邪薬や抗アレルギー薬、解熱鎮痛薬には、脳をリラックスさせて眠気を誘うような成分が含まれている場合があります。これらの薬と、脳に対して同様の作用を持つお酒を一緒にのむと、だるさや眠気が出る、意識がぼんやりとする……といった副作用が強く出てしまいます。

睡眠薬や抗うつ薬の場合はなおさら、お酒によって作用が強くなりすぎて副作用の心配も大きくなります。お酒はこれ以外にも、薬とののみ合わせにおいて、心配な面が多々あります。

風邪薬や睡眠薬、 スコッピィ君:お酒と一緒はNG!

過度に気にする必要はありません。

今回は、薬が吸収されたあとで起きる、のみ合わせの代表例を紹介しました。このほかにもいろいろな食品が、薬の作用に影響を及ぼすことが確認されています。しかし、十分に注意すべきものもあれば、よほど多量に食べない限り、それほど気にする必要がないものもあります。

過度に気にして大切な栄養素がとれなくなるのも困りものです。注意が必要な食品については、医師や薬剤師の説明をよく聞き、食べる量やタイミングを守りましょう。

過度に気にする必要はありません。

解説

食品の、注射薬や外用薬への影響

薬には、のみ薬(内用薬)のほかに、注射薬と外用薬(点眼薬や点鼻薬、貼り薬やぬり薬、坐薬など)があるよね。注射薬や外用薬は、からだに入る経路が食品とは違うから、のみ合わせの心配はないのかというと、そうとは限らないんだ。

鼻炎用のスプレーやかゆみ止めのぬり薬などは、薬を使ったその場所で効果を発揮し、速やかに分解されて体外へと排出されるから、食品の影響はないと考えていいよ。

一方、注射薬や貼り薬、坐薬には、含まれる成分が血液とともに全身をめぐって効果を表すものもあるよ。これらは、血液中で食品の成分と反応し合って副作用が起きることも。たとえば心臓病用の貼り薬を貼ったままお酒をのむと、めまいやふらつき、失神などを起こすこともあるんだ。

食品の、注射薬や外用薬への影響
コラム1

飲酒や喫煙と薬の効き目

お酒に含まれるアルコールや、たばこに含まれるさまざまな有害成分を分解・処理するのも肝臓の役目です。肝臓はとても賢い臓器で、多量のアルコール摂取や喫煙が習慣になると、日頃から代謝酵素の量を増やして対抗します。

代謝酵素が増えた状態にある人が薬をのめば、薬の成分も予定外に分解・処理されてしまうので、効き目が弱くなってしまいます。では逆に、このような状態にある人が、禁酒あるいは禁煙すると……。代謝酵素の量が減り、今度は薬の効き目が強く出てしまうことがあります。

また、普段はそれほどお酒をのまない人が多量のお酒をのむと、肝臓はお酒の分解・処理に追われるため薬の分解・処理が追いつかなくなり、薬の効き目が強く出てしまうことも。

このように飲酒や喫煙は、薬の作用に大きな影響を及ぼします。

飲酒や喫煙と薬の効き目
 
飲酒や喫煙と薬の効き目
コラム2
ダイエット中は、効き過ぎ注意

ダイエット中は、効き過ぎ注意

肝臓を通り抜けた薬の成分は血液によって全身へと運ばれますが、一部は血液中のたんぱく質とくっついて、効果を失います。薬の作用点では、たんぱく質とくっつかなかった分だけが効果を発揮します。

ダイエット中だからと、肉や魚のようなたんぱく質が豊富な食品をあまり食べないでいると、血液中のたんぱく質の量も減ります。このような状態で薬をのむと、血液中のたんぱく質で効果を失うはずだった分まで効いてしまう、つまり薬の効き目が強くなり、副作用が心配です。

そもそも、特定の食品を極端にカットするような栄養バランスの偏ったダイエットは体調不良のもとですが、薬の効き目まで変えてしまうなんて! 十分に注意しましょう。

ダイエット中は、効き過ぎ注意
 
薬で風邪は治らない
コラム2

ダイエット中は、効き過ぎ注意

肝臓を通り抜けた薬の成分は血液によって全身へと運ばれますが、一部は血液中のたんぱく質とくっついて、効果を失います。薬の作用点では、たんぱく質とくっつかなかった分だけが効果を発揮します。

ダイエット中だからと、肉や魚のようなたんぱく質が豊富な食品をあまり食べないでいると、血液中のたんぱく質の量も減ります。このような状態で薬をのむと、血液中のたんぱく質で効果を失うはずだった分まで効いてしまう、つまり薬の効き目が強くなり、副作用が心配です。

そもそも、特定の食品を極端にカットするような栄養バランスの偏ったダイエットは体調不良のもとですが、薬の効き目まで変えてしまうなんて! 十分に注意しましょう。

薬で風邪は治らない
 
ダイエット中は、効き過ぎ注意

監修:加藤哲太(日本くすり教育研究所代表)