薬同士で起きること
薬の「のみ合わせ」Vol.3

スコッピィ君:のみ合わせは必ずチェックしてね!

持病の薬をのんでいる人が、風邪をひいたから風邪薬ものむ……。よくあることかもしれませんが、薬の組み合わせによっては、効果が強くなったり弱くなったり、思わぬ副作用を引き起こしてしまうこともあります。

のみ合わせは、医師の診察のもとのむように指示される「処方薬」(医療用医薬品)同士でも、薬局で薬剤師に相談して自分で選ぶ「市販薬」(一般用医薬品)同士でも、処方薬と市販薬とでも起こり得ます。

薬の吸収が邪魔される

くすりのいろは からだを旅する薬のこと Vol.1~3で紹介した通り、薬はからだに入り(吸収)、肝臓で一部分解され(代謝)、残りが血液と一緒に体内を巡って作用部位で役目を果たし(分布)、その後からだの外へ出ていきます(排泄)。その過程において、薬同士が狙い通りの作用を邪魔することがあります。

薬の吸収が邪魔される

のみ合わせの例 のみ合わせの例
薬の吸収が良くなり過ぎる
腸での吸収を邪魔する
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
制酸薬のミネラルがニューキノロン系の抗菌薬にくっつき、腸からの吸収を妨げる
 
 
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
効果を失うはずの薬の量が変わる(分布が変わる)
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
血液中のたんぱく質とくっついた薬は効果を失う。非ステロイド系抗炎症薬の成分「インドメタ シン」は血液中のたんぱく質とくっついている「ワルファリン」を追い出す。このため血液中のたん ぱく質とくっつかずに効果を持ったままの「ワルファリン」が増えすぎる(※❶)
 
 
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
肝臓での薬の分解・処理力を高める
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
「フェノバルビタール」を含む抗けいれん薬が肝臓の代謝酵素の働きを強め、「ワルファリン」の 分解・処理が進む。ワルファリンの効果が弱まる
 
 
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
肝臓での薬の分解・処理力を弱める
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
「シメチジン」を含む胃潰瘍の薬が肝臓の代謝酵素の働きを弱め、「テオフィリン」を含むぜん そく薬の分解が遅くなり、テオフィリンの効果が強まる
 

薬の吸収が良くなり過ぎる

くすりの成分がくっつき合って吸収を妨げるのは食品成分であるミネラルや牛乳と薬ののみ合わせで起きる現象と同じです。

血液中のたんぱく質とくっつく量が薬の効き目を左右するというのは、肝臓や全身で起きること 薬の「のみ合わせ」 Vol.2のコラム2に出てきた、ダイエットで血液中のたんぱく質が少なくなったときの影響と、仕組みは似ています。複数の薬がそれぞれ、どれだけ血液中のたんぱく質とくっつくかによって、効き目を持つかたちで全身に広がる薬の量が変わってくるのです。

肝臓での代謝酵素の働きを強めたり弱めたりというのは、グレープフルーツなどの食品の成分でもありましたよね。

薬の吸収が良くなり過ぎる

薬の効果が弱まる

薬の効き目のもととなる有効成分が同じ薬を複数のむと、薬の作用が強くなり、副作用も現れやすくなることがあります。風邪薬や解熱鎮痛薬、睡眠補助薬といった身近な市販薬には、同じ有効成分が含まれている場合があるので注意が必要です。

有効成分が違っても、同じように作用する組み合わせもあります。例えば、心臓や血管の病気のために血液を固まりにくくする「ワルファリン」をのんでいる人が、風邪で熱がでたからと「アスピリン」を含む解熱鎮痛薬をのんでしまうと、アスピリンにも血液を固まりにくくする作用があるため、出血が止まりにくくなる……なんてことが起こるのです。

胸やけや胃もたれの原因によって、 スコッピィ君:のむくすりのタイプが違うんだね!

のみ合わせの例 のみ合わせの例
薬の吸収が良くなり過ぎる
同じ有効成分が入っている       
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
「ジフェンヒドラミン」を含む風邪薬と睡眠補助薬
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
「アセトアミノフェン」を含む風邪薬と解熱鎮痛薬
 
 
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
同じ作用を持つ有効成分が入っている  
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
血液を固まりにくくする作用を持つ「ワルファリン」を含む抗凝固薬と同じく血液を固まりにくくする作用を持つ「アスピリン」を含む解熱鎮痛薬(※❷)
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
痛みやけいれんを抑える抗コリン作用を持つ「ベラドンナ」や「イソプロパミド」などを含む胃腸薬、風邪薬、鼻炎薬、乗り物酔い予防薬
 

薬の効果が弱まる

逆に、薬の効果を打ち消し合う有効成分の組み合わせもあります。どちらか一方、または両方の薬の作用が弱まってしまいます。

薬が作用する仕組み。受容体とは。薬が作用する仕組み Vol.1に出てきた薬のターゲット、細胞にある指令の受け口「受容体」のこと、覚えているでしょうか。ある受容体にくっついて「もっと○○しなさい」と、からだの働きを促す薬が必要な病気もあれば、その受容体に「○○するのを抑えなさい」と、からだの働きを邪魔する薬が必要な病気もあります。両方の薬を同時にのんでしまったら、効果を打ち消し合うことになります。

また、作用の仕方は違うけれど、結果的にお互いの効果を打ち消し合う組み合わせというのもあります。

胸やけや胃もたれの原因によって、 スコッピィ君:のむくすりのタイプが違うんだね!

のみ合わせの例 のみ合わせの例
薬の吸収が良くなり過ぎる
反対の作用を持つ有効成分が入っている   
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
血管を広げて血圧を下げる高血圧の薬と血管を広げるのを妨げる解熱鎮痛薬 (※❸)
 
 
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
同じ作用点(受容体)に対し、反対の作用を持つ
 
薬の吸収が良くなり過ぎる
ぜんそくの治療に使うβ刺激薬と高血圧や心臓病に使うβ遮断薬 (※❹)
 

薬の効果

効き目ダウン

からだに入り、広がり、役目を果たして出ていく。薬であれ食品であれ、さまざまな局面で影響を及ぼし合う可能性があります。からだの中でのこれらの動きは目に見えないだけに注意が必要ということを、いつも忘れてはなりません。

医師や薬剤師の指示を守り、薬と上手に付き合っていきましょう。

薬の吸収が邪魔される

解説

お薬手帳

いつ、どこで、どんな薬をのむように指示されたかや、薬でアレルギーなどの副作用が出たことがないかなどを記録しておくための「お薬手帳」があるよ。

医師の診察を受け、薬局や病院の窓口で処方薬(医療用医薬品)を出してもらうとき、「お薬手帳、持っていますか」って聞かれたことはないかな? 薬剤師は、患者のお薬手帳を見て「新たに出す薬との相性が悪い薬をのんでいないか」「アレルギーなどの副作用が起きる心配はないか」といったことを、チェックしてくれるんだ。日頃使っている市販薬(一般用医薬品)や健康食品(サプリメント)のことも書いておくといいよ。

お薬手帳は、処方薬を扱う薬局に行けば無料でもらえるけれど、「1人1冊」を守ってね。使ったことのある薬や今のんでいる薬の情報が、1つにまとまっていることが大切だから。

診察券や保険証と一緒に保管しておくといいかも。また、旅行先で病気になったときや、転居したときなども、お薬手帳があれば安心だね。

東日本大震災のときも、お薬手帳は活躍したんだ。お薬手帳を持っている人はスムーズに処方薬を出してもらえたし、持っていない人が新たにお薬手帳を持つことで、別の避難先に移ってからも安心して治療を受けられたんだって※1。お薬手帳ってスゴイ!

※1 東日本大震災時におけるお薬手帳の活用事例:
  日本薬剤師会:平成24年6月

お薬手帳
コラム

ソリブジン事件

薬と薬ののみ合わせが引き起こした悲しい出来事があります。わずか40日の間に15人もの人が亡くなった「ソリブジン事件」です。

1993年、ウイルスが原因で皮膚に赤いブツブツや水ぶくれが帯状に広がる「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」という皮膚病の治療薬「ソリブジン」が発売されました。

がんの治療中は病気を引き起こす細菌やウイルスに対抗する力が落ちやすく、帯状疱疹を発症する人も少なくありません。「5-フルオロウラシル」という抗がん薬で治療している人が帯状疱疹を発症し、ソリブジンも服用したところ、体の中で重大な副作用が生じました。

肝臓で5-フルオロウラシルを分解・処理する代謝酵素の働きをソリブジンが弱め、5-フルオロウラシルの作用が強くなりすぎてしまったのです。その結果、がん細胞だけではなく、からだに必要な血液の成分を作る骨髄細胞までもがやっつけられ、死者を出すことに。

ソリブジン事件は、薬と薬ののみ合わせによる最大規模の悲劇と言われています。ソリブジンは販売中止となりました。わかっている限りでは、5-フルオロウラシルをのんでいた人だけに起きた重大な副作用だったので、のみ合わせに注意して使えば、有用な薬として存在し続けたのかもしれません。

どのような薬にも副作用があり、注意が必要なのみ合わせがあるという教訓です。

ソリブジン事件
 
ソリブジン事件

監修:加藤哲太(日本くすり教育研究所代表)