アナフィラキシーなど命にかかわる副作用のこと
クスリはリスク Vol.3

命にかかわる副作用のこと

いろいろな薬の添付文書を見ていると、「まれに下記の重篤な症状が起こることがあります」という記述に引き続き、以下の症状名が目に入ることが多いのに気がつきます。

ショック(アナフィラキシー)
皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)
中毒性表皮壊死融解症

聞いたことがない症状名ばかりかもしれませんが、これらは多くの薬に共通する副作用であり、起きることはまれですが、いったん起きると命にかかわることもある重い副作用です。

5分で死に至ることも

アナフィラキシーは、短時間のうちに全身に生じるアレルギー症状です。全身のかゆみやじんましん、息苦しい、脈が速くなる、血圧が下がってめまいがする……などの症状が現れます。アナフィラキシーで血圧が急に下がり、意識障害が現われた場合をアナフィラキシーショックといい、命を落とす人が多くなります。ハチの毒や食べ物でもアナフィラキシーショックは起きますが、薬を原因とするものが一番多く(表)、1年に30~40人が命を落としています。

アナフィラキシーショックによる死亡者数

5分で死に至ることも

薬によるアナフィラキシーショックで亡くなった人は、心肺停止(心臓や肺が止まってしまうこと)が短い時間(平均5分:1~80分)で起きたという報告もあります(グラフ)。

症状が現れたら、一刻も早く救急車を呼ぶべきです。また、いったんおさまった症状が再び現れることもありますから、「良くなったのかな」などと思わず、医師の診察を受けてください。

アナフィラキシーショックを発症した患者が
    心肺停止に至る平均時間

5分で死に至ることも

「クスリはリスク」ということを、スコッピィ君:忘れないでください。

市販の解熱鎮痛薬でも起こり得る

スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死融解症は、解熱鎮痛薬など、市販の薬でも起こり得る皮膚症状を中心とする副作用です。スティーブンス・ジョンソン症候群では、発熱や発疹、やけどのような水ぶくれが生じます。全身の皮膚、口、目の粘膜に症状が出て、失明に至ることも。中毒性表皮壊死融解症も似た症状ですが、まるでやけどをしたかのように皮膚が赤くなり、ずるずるとむけてしまいます。

原因が解明されていないため、早期発見と早期対応がポイントとなります。「高熱」、「目の充血」、「目やに」、「まぶたの腫れ」、「目が開けづらい」、「くちびるがただれる」、「皮膚の広い範囲が赤くなる」などの症状が持続したり、急激に悪くなったりするような場合は、ただちに医師・薬剤師に連絡してください。

よく使われている薬ばかりですが、過度にこわがる必要はありません。添付文書に“まれに”とあるように、たとえばスティーブンス・ジョンソン症候群が起こるのは、人口100万人あたり年間1~6人※2。めったに起こるわけではないけれど、常に頭のどこかで「クスリはリスク」であることを忘れずに。

※2 厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル
スティーブンス・ジョンソン症候群:
平成18年11月

「クスリはリスク」ということを、スコッピィ君:忘れないでください。

解説

医薬品副作用被害救済制度

十分に注意して薬を使ったとしても、副作用が避けられないこともあるって、もう分かってくれたよね。

副作用のために、かえって具合が悪くなって入院が必要になった、日常生活に大きな影響を及ぼす障害が残ってしまった、死んでしまった……といった重大な健康被害が出てしまった人を助ける仕組みとして「医薬品副作用被害救済制度」があるよ。

かかった医療費や、年金、葬祭料などを給付してもらえるんだ。医師の診察のもとで出される「処方薬」(医療用医薬品)、薬局で薬剤師に相談して自分で選ぶ「市販薬」(一般用医薬品)のどちらで起きた副作用も対象だよ。

でも、用法や用量を守らなかったなど、薬を正しく使わなかった場合は対象外。他にもいろいろな条件があるから、まずは医師や薬剤師に相談を。

同様の制度に、輸血用の血液やワクチン、動物の心臓弁の移植などで生じた感染症などによる健康被害が対象の「生物由来製品感染等被害救済制度」もあるよ。

2014年11月25日からは、iPS細胞などを用いて作った心筋シートや皮膚、軟骨といった再生医療に用いられる「再生医療等製品」による健康被害も対象になったんだ。

薬を正しく使わないと救済制度は受けられないのね
コラム

漢方薬の副作用

漢方薬に対し「からだにやさしく安全に使える」というイメージを抱いている人は少なくありませんが、漢方薬にも副作用があります。

漢方というのは、中国(漢)で生まれ、現代まで脈々と伝えられてきた伝統医学です。なんらかの症状が出ているからだの部位だけではなく、からだ全体を整え、自らの持つ治す力(自然治癒力)を高めていくことに重点を置いています。治療に用いる漢方薬は、植物を中心に、動物や鉱物などを組み合わせて作られます。

同じ病名の人でも、体質や体型、自覚症状の出方などによって、使うべき漢方薬は違ってきます。ぴったりと自分に合い、劇的に効くこともあれば、それほどでもないことも。合わない漢方薬を使ったり、使い方を誤ったりすれば、当然副作用の危険も高まります。

たとえば風邪やインフルエンザの初期に用いる「麻黄湯(まおうとう)」という漢方薬は、寒気がして発熱、頭痛の症状があるときに使うものですが、汗をかいているときに使うと、かえってからだがだるくなったり、食欲がおちたり、ひどくなるとけいれんを引き起こすこともあるのです。

漢方薬による副作用の状況について調べた報告によると、3892症例のうち、副作用が認められたのは268症例(6.9%)でした。主な副作用は表の通りです。

重大な副作用が起きることはまれですが、命にかかわるようなことも、ないわけではありません。多くの病院や診療所で漢方薬は使われていますし、薬局でも販売しています。なじみ深い有用な薬ですが、リスクのことも忘れないようにしましょう。

漢方薬の副作用
 

監修:加藤哲太(日本くすり教育研究所代表)