開発の仕事
製薬会社で働く人々 Vol.2

 

開発の仕事とは?
研究の開始から薬が世に出るまでの道のり全般を、広い意味で「薬の開発」と呼ぶこともありますが、製薬会社における開発の仕事といえば、何を指すのでしょうか?言葉の印象から、仕事の中身をズバリ言い当てるのは難しいかもしれません。開発とは、研究で見つけた薬の種がヒトに対して有効か、安全かといったことを調べる試験(臨床試験)全般にかかわる仕事です。
研究の仕事と開発の仕事の違い

実験動物やヒトの細胞を用いた研究を経て、有効性や安全性が十分に確認でき、「これなら新薬として人々の役に立ちそう」という段階まで来た薬の種を、新薬として花開くまで“育てる”仕事 と言えます。臨床試験の進め方は薬によってさまざまですが、一般的には、安全性を確認するための健康な人を対象とする試験、少人数の患者さんを対象とする試験、そしてより多くの患者さんを対象とする試験……と、段階的に進めていきます。

新薬として花開くまで育てる仕事
どんな仕事をするの?

主な仕事の中身を、部門ごとに簡単にまとめます。

5つの開発部門
開発総括

薬の開発をどのように進めていくか、スケジュールや必要な費用を検討する。開発スタッフの教育やサポートなども行う。

臨床企画

臨床試験の計画を立て、手順をまとめる。試験期間、対象者の条件(病状、年齢、性別など)、対象者数、薬の投与量や投与間隔、どのようなデータを集めるかなど。

臨床推進

臨床試験の計画に従い、医療機関の協力のもと対象者を集めて臨床試験を実施。得られたデータの収集・精査を行う。

データサイエンス

得られたデータの統計的な解析を行う。臨床試験の計画の際、必要な対象者数を割り出すなど統計が必要な業務全般を行う。

開発薬事

薬として認めてもらうために厚生労働省に対して提出する資料をどのように作成するかを検討し、それらの作成などを行う。

各部門が連携し合って仕事を進めていきますが、一番スタッフ数が多く、開発の中心的な存在である臨床推進の仕事について詳しくみていきましょう。

スムーズな試験進行の調整役

臨床推進の部門には、CRA(クリニカル・リサーチ・アソシエイト)と呼ばれる人たちが多数います。臨床試験を実施してもらう医療機関(病院や診療所)を訪問し、試験がスムーズに行われるように医師や薬剤師などとの情報交換を行います。計画通りに試験が行われているか、患者さんには適切に薬が使われているかといったことの確認や、試験データの回収もCRAの役目です。医療や薬に関する知識はもちろん、医師ら専門スタッフとのコミュニケーション力が必要とされます。

医師ら専門スタッフとのコミュニケーション力が必要!

CRAのとりまとめ役となるCL(クリニカル・リーダー)は、CRAの仕事の進み具合の確認や、集まってきたデータの精査などを行います。近年ではCRAの仕事を請け負う専門の会社、CRO(コントラクト・リサーチ・オーガニゼーション:医薬品開発受託機関)へ仕事を依頼することも増えているので、CLはCROのスタッフとも密にやり取りをして、問題点や困っていることを共有し、解決に向けて話し合っていくという調整役も担います。

臨床試験の進め方
進むグローバル化への対応

新しい薬を世に出すには、製薬会社が国に「この薬を製造・販売したい」という申請を出し、国の承認を得る必要があります。承認と申請は国ごとに行われます。ひと昔前までは、海外で臨床試験が行われて新薬として認められた薬の試験を日本でも行い、日本でも使えるようにするといった開発の流れがありました。しかし今では、世界各国で同時に試験を進めることも増えてきました。各国に広がる支社や関連会社、CRO、世界中の医療機関と協力し合って開発を進めます。

ですから、英語でのメールのやり取りや電話会議というのも日常的な業務の1つです。各国のスタッフが集まって会議を行うことや海外の学会や研究会に参加することもありますから、基本的なコミュニケーション力に加え、語学力が要求される仕事でもあります。

開発段階でいい結果が出なければ、新薬として日の目を見ることはありません。実験動物やヒトの細胞を用いた試験ではうまくいっていたのに、ヒトでは有効性が確認できなかったり、強い副作用が出ることがわかったりして開発が中止になることもあります。しかし、患者さんが求める薬をいち早く世に出すための重要な役回りであるという自負を持ち、突き進んでいかなくてはならないのが開発の仕事です。

進むグローバル化への対応
プロフェッショナルインタビュー Vol.2 開発の仕事編 医師や社内外のスタッフとのチームワークで達成するのが魅力。

—薬の開発の仕事に興味を持ったきっかけは。

小学生のころ祖母が認知症になり、病気というのは本人ばかりではなく周囲の人の人生も大きく変えてしまうことがあると、子どもなりに感じるところがあって。薬でたくさんの方々の人生を、より良くするような貢献ができたらと思うようになりました。大学は薬学部に進み、大学院の修士課程(注)まで研究を続けました。研究も好きでしたが、医師らと議論する機会が多く、医師らを通じて患者さんの声が聞こえてくるなど、人と触れ合い、協力し合って仕事を進めていく開発の仕事に魅力を感じました。

—具体的な仕事内容とその成果は。つらかったことなどは。

入社して9年目ですが、ずっと臨床推進の仕事をしてきました。最初はCRAとして、今はCLとしてチームの人たちのとりまとめ役となる仕事をしています。これまでにかかわってきた薬は5つ。肝臓の薬と感染症の薬が2つずつ、そして今も進行中の精神疾患の薬です。新薬の開発というのは時間がかかり道も険しく、5つのうちうまくいったと言えるのは2つです。1つはすでに医療の現場で使われています。

新しい薬を必要とする患者さんがいるのに、開発がうまくいかないときはつらいものです。薬の効き方には個人差がありますから、臨床試験の対象となった患者さんの中には効果が見られた人もいたという声が聞こえてくることもあります。しかし、全体の試験結果を解析し、科学的に有効性や安全性が示せなければ新薬として認められません。

—どういう人が開発の仕事に向いていますか。どのような勉強をしておけばいいですか。

社内外のスタッフや医療機関の医師や薬剤師などと協力し合って進めていく仕事なので、チームワークが好きな人が向いていると思います。理系の科目全般に加えて薬学や医学の基礎的な知識はあった方がいいですが、最初は知識が少なくても、チームワークで仕事を進めるうちに必要な知識は徐々に身についていくでしょう。

世界各国の人たちとのコミュニケーションが必須になってきますから、英会話に抵抗がない、というのも強みになります。理系の勉強とともに英語もしっかりと勉強しておいたほうがいいですね。

また、医薬品業界に限ったことではありませんがデジタル化が急速に進んでいます。技術革新に興味を持ち、仕事にうまく取り入れようと頑張れる人が求められます。

—開発の仕事に就くには、大学はどの学部に行った方がいいですか。

研究所の研究員と同様、薬学部出身者は多いですが、理学部や農学部を出た人もいます。理系の大学院の修士課程か、医学部、獣医学部、薬学部などの6年制の学科までは進んだ方がいいと思います。

1日の仕事スケジュール

(注) 現在の薬学部は6年制のところが多く、6年制だけの大学には、大学院の修士課程はありません。

監修:亀井美和子 (帝京平成大学薬学部教授)