ファーマコビジランスの仕事
製薬会社で働く人々 Vol.4

 

ファーマコビジランスの仕事とは?

ファーマコビジランス(Pharmacovigilance)。多くの人が初めて目にする単語ではないでしょうか。これは「pharmaco(薬の)+vigilance(監視)」という意味の造語です。日本では「医薬品安全性監視」などと訳されます。

薬を使った患者さんのからだに生じた、薬の影響と考えられる好ましくない出来事のすべてを、MRや開発の担当者と連携して収集し、記録、評価するのが主な仕事です。得られた情報をもとに、どうしたら正しくより安全に薬を使用していただけるかを考え、病院や診療所の医師や薬剤師に適切に伝えます。厚生労働省などへの報告も、ファーマコビジランスの重要な役割です。

薬を売る・薬の情報を伝える
どんな仕事をするの?

9~17年にわたる研究、開発を経てようやく世に出る新薬ですが、製薬会社にとって「薬の誕生=ゴール」ではありません。薬がより安全に、より効果的に使われるには、薬を使うことによってかえって具合が悪くなった……などということは極力避けたいもの。そのためには、薬に期待していない、好ましくない作用である「副作用」の情報を集め、どうしたら副作用を防げるのか、軽くするにはどうしたらいいのかといったことを検討し続けるのも製薬会社の重要な務め。その核となる部門がファーマコビジランスです。

市販後に発覚する副作用もある

薬は研究や開発(臨床試験)の段階で、安全性や有効性が十分に確かめられているはずでは?と思うかもしれませんね。もちろん、そうだからこそ新薬として認められるわけです。しかし市販後(注1)の薬は、全国の病院や診療所で、年齢も性別も、症状もさまざまなたくさんの患者さんに使われます。臨床試験の対象にならなかった持病のある人が薬を使う場合もあるでしょう。そのため、臨床試験では把握しきれなかった副作用が、初めてわかってくることもあるのです。

たくさんの患者さんが使ってみないと、わからない副作用もあるのね

だから常に、薬を使っている患者さんの様子に目を光らせておくのです。たとえば生じる確率が1000分の1未満といったとてもめずらしい副作用なら、1000人を対象とする臨床試験では1人も確認できない場合もあるでしょう。発売後、1万人、10万人の患者さんが使った段階で副作用がわかってきて、それが深刻な症状だとしたら……一刻を争い、副作用の情報を、医師や薬剤師はもとより、たくさんの関係者に知らせる必要があります。

副作用の重さや、新しくわかった副作用かどうか、本当に薬が影響しているものなのかなど、状況に応じて多少の差異はありますが、製薬会社が情報を入手してから「〇日以内に厚生労働省に報告しなくてはならない」といった決まりもあります。

安全性情報の専門家として活躍

情報収集にはMRや開発の担当者がとても重要な役割を担います。担当者は、病院や診療所の医師や薬剤師らに「当社の薬で何か気になる副作用は出ていませんか」といった声かけを、日ごろから行っています。また医師や薬剤師、あるいは患者さんやその家族が製薬会社の問い合わせ窓口に直接知らせてくれることもあります。

住友ファーマでは、市販後の薬と臨床試験中の薬、合計約100品目についてファーマコビジランスの業務を行っています。専門領域ごとに担当者を分けていますが、薬や病気に関する幅広い知識が必要とされます。なお、ほかの会社では、臨床試験中の薬は開発の部署でファーマコビジランスの業務を行う場合もあるようです。

薬の安全性にかかわる情報の流れ

「薬(クスリ)はリスク」という言葉がありますが、狙い通りの「主作用」と、好ましくない「副作用」は背中合わせです。ファーマコビジランスは、薬の安全性にかかわる情報の専門家として、リスクの克服に向け戦う仕事と言えるでしょう。

(注1) 国の承認を得たあとの段階。製造販売後ともいう。

プロフェッショナルインタビュー Vol.4 ファーマコビジランスの仕事編 報告期限はプレッシャーですが、やりがいにもつながります

—ファーマコビジランスの仕事に興味を持ったきっかけは。

正直なところ、会社に入るまではファーマコビジランスという仕事があること自体知りませんでした。薬学部の大学院の修士課程に進んで就職を考えたとき、知識を生かして続けられる仕事、ということで学術の部門を希望して入社しました。学術の仕事は自社の薬にかかわる情報をまとめてMRに教えたり、病院に出向いて薬の説明会を開いたりする仕事です。

会社の支店で学術の仕事をしていたら、ファーマコビジランス部の人から「副作用について、病院に聞き取り調査をしたい」という話があり、同行したんです。そのときファーマコビジランス部の人が、たくさんの専門用語を交えながら医師と議論している姿を見て、とてもまぶしく感じたのがきっかけでしょうか。

—幅広い知識や経験が求められる仕事のようですが……

私は20代で学術の仕事を経験し、それ以降はずっとファーマコビジランスの仕事をしています。研究、開発や営業の部署から移ってくる人もいますね。確かに以前は社内のさまざまな仕事の経験を積んでからこの部署に配属される人が多かったかもしれませんが、最近では新卒で入ってくる人もいます。

薬の仕事というと、薬の効果、主作用のほうにまず目が行ってしまうかもしれませんが、安全性にもぜひ注目していただきたいです。

—薬学部出身者が多いですか。

薬学部出身者が多いですが、薬学部を出ていないとできない仕事というわけでもありません。理学部や農学部の出身の人もいますし、MRを経験してからこの部署に来る人もいます。

—報告書をまとめる期限があるなど、大変ではないですか。

副作用というのは、いつ、どこで起きるか予測がつきませんから、仕事の忙しさに波があるのも事実です。厚生労働省への報告期限もありますが、海外で当社の薬を販売している提携会社への連絡も数日以内に行わなくてはならない場合があります。1日単位の期限があるのはプレッシャーに感じますが、それほど重要な仕事ということです。やりがいにもつながります。

1日の仕事スケジュール

監修:亀井美和子 (帝京平成大学薬学部教授)