病院薬剤師
薬剤師の仕事 Vol.2

 

病院薬剤師の仕事とは?

病院には「薬剤部」「薬剤科」といった名前の部署があり、病院での治療に必要なすべての医薬品を取り扱う病院薬剤師が働いています。医師の処方せんをもとに薬をとりそろえる調剤はもとより、外来や病棟で患者さんに薬の説明をする服薬指導、医師や看護師とともに治療法を検討する会議への参加など、業務は多岐にわたります。

どんな仕事をするの?

病院薬剤師の主な仕事内容を具体的にみていきましょう。

調剤

医師の処方せんの内容を確認し、薬の種類や量が適切かどうか、のみ合わせの問題はないかなどをチェック。薬をとりそろえ、患者さんに使用方法を説明して渡す。薬の量をはかって混ぜ合わせたり、個々の患者さんの病状や要望に合わせてのみやすくするための工夫なども行う、注射薬も個々の患者さんに使用する1回分ずつを用意する。必要な薬を選び出す装置や、1回分ずつ薬を袋詰めする分包機を用いるなど、機械化も進んでいる。

製剤

がんの治療に用いる抗がん薬の調製も行う。抗がん薬はとても強い作用があるので、体についたり吸い込んだりしないようにガウンや手袋、マスクなどを着けて、清潔に保たれた専用の部屋で行う。菌が入っては困る注射や点滴などの「無菌製剤」の調製も同様の設備を用いる。市販されている医薬品では治療ができない場合などに、院内製剤と呼ばれる薬剤を作ることもある。

病棟薬剤業務

入院患者さんの病室で、治療に用いる薬の作用や副作用、使い方などを説明する。患者さんが入院前からのんでいる処方薬や市販薬、健康食品などを確認し、病院での治療のために減量または中止したほうがいいものがあれば医師に提案することもある。薬が効いているか、副作用が出ていないかなども確認する。

外来での薬の説明

外来患者さんやそのご家族に薬の必要性やのみ方、起こり得る副作用などを説明する。薬のことで困っていることはないか、ほかの病院から出されている処方薬があれば効果が重なる薬はないかなど確認。使用している市販薬や健康食品のこと、アレルギーの有無などを聞き取り、治療に必要な情報を医師や看護師に伝える。

外来化学療法の立ち合い

化学療法とは抗がん薬を用いた治療のことで、外来で行う場合も多い。抗がん薬の治療計画書の内容を確認し、抗がん薬の点滴を受ける患者さんに薬の作用や副作用など説明。副作用が出ていれば、副作用を抑える薬の使用を医師に提案する。抗がん薬での治療を行う患者さんが多い病院では、薬剤師の役割はより一層重要になる。

薬品の管理と発注

医薬品を切らさないように在庫を確認・発注する。毒性の強い薬は鍵のかかる棚に保管し、使うたびに数量を確認する。適切な温度で保管されているか、光にあたるといけない薬は適切に保管されているかなどもチェックする。

「チーム医療」の一員として

医師や看護師、理学療法士、栄養士といった患者さんを取り巻く医療スタッフと協力し合い、最善の治療法を検討する「チーム医療」に、薬のプロとして加わる。カンファレンスと呼ばれる会議では、薬物治療に関する意見を述べる。


ほかにも、薬学部の学生が薬剤師の仕事を体験する実習の指導、薬として認められる前の薬を試験的に使って効果を確かめる「治験」業務の支援、医薬品に関する情報収集や病院内で発生した副作用情報をまとめるといった医薬品情報業務なども、病院薬剤師がになう大切な仕事です。

高い専門性が要求される
認定薬剤師、専門薬剤師

病院の規模にもよりますが、取り扱う医薬品の数は千から数千品目に及びます。患者さんのみならず、医師や看護師など病院内の医療スタッフは、薬のことでわからないことがあれば何でも薬剤師に相談するというのが一般的です。しかし、医薬品の進歩は目覚ましく、次々に新しい薬が出てきますから、薬剤師ならすべての質問にすぐ答えられるというわけではありません。

特に専門性が要求される領域では、最新の知識や技能を持つ薬剤師が求められます。そこで、がんや感染制御、精神科といったある領域の薬の知識と経験が豊富な人に「認定薬剤師」、さらに専門性を高めた人に「専門薬剤師」という資格を与える認定制度があります。

資格を得るには、専門領域での実務経験を積み重ね、講習会や研修会に参加し、試験に合格しなくてはなりません。まずは認定薬剤師の資格をとったあと、研究の実績を積みかさね、後輩の薬剤師たちの教育や指導の実績が認められた人が専門薬剤師として認められます。より安全で効果的な薬物治療のために活躍する専門薬剤師は、ほかの医療スタッフや患者さんにとって頼もしい存在です。

プロフェッショナルインタビュー Vol.2 病院薬剤師

患者さんの
“ありがとう”に、
やりがいを感じる
仕事です

がん専門病院の薬剤師
H・Nさん(40代・男性)

どうして病院薬剤師になったのですか。

大学薬学部の4年生のときに大学病院で実習させてもらったのですが、薬剤師の方々が楽しそうに働いていて、またとてもいい人たちだったので一緒に働きたいなと思ったのがきっかけです。薬剤師が患者さんに会って薬の相談にのる服薬指導が先進的な病院で始まったころでもあり、私は薬の基礎研究や製薬会社の仕事より、医療の現場で患者さんに接する仕事をしたいという思いが強くなり、病院薬剤師を目指しました。

病院薬剤師は、業務の種類が多くて大変ではないですか。

病院薬剤師になりたてのころは患者さんに接する機会はほとんどなく、イメージ通りの仕事ではありませんでした。まずは薬をそろえて出す調剤業務をひたすらこなしていくという感じで。でも調剤は薬剤師の仕事の基本中の基本であり、これはこれで楽しくもあります。今は調剤の機械化が進み、従来30~40人で行っていた作業が5人くらいでできるようになったのではないでしょうか。その分薬剤師は、外来や病棟で患者さんに寄り添う業務に力を入れられるようになりました。

患者さんにはどのように接しているのですか。

今日の調子はどうですか?という風に声をかけ、副作用が出ていないかなど患者さんの様子をうかがいます。患者さんが困っていることを知るためには雑談もとても大事だと思っているので、趣味やスポーツの話題など病気とは関係のない話もよくします。薬剤師は薬のことを科学的に正しく、わかりやすく患者さんに説明する役目もありますから、個々の患者さんが関心を持ちそうなたとえ話も使って、薬が効く仕組みとか、病気に対抗するための免疫力のこととか説明するようにしています。

血液検査の結果を見て、薬が足りているかなどチェックすることもあります。場合によっては担当の医師に「この患者さんは栄養が足りていないようだから点滴を変えましょう」「今使っている抗菌薬はあまり効いてないようなので、こちらの抗菌薬はどうでしょうか」などと、薬の増減や変更を提案することもあります。

H・Nさんはがんの専門薬剤師の資格をお持ちですね。

私が薬剤師になりたてのころは、抗がん薬の種類が増え始める時期でした。抗がん薬は、扱いを間違えば患者さんの生死にかかわる薬だから、いつも以上に慎重に調剤しなさいと大先輩の薬剤師に言われたのがきっかけで、抗がん薬に興味を持つようになりました。勉強会があれば可能な限り参加するようになり、どんどんおもしろくなってきて。ちょうど専門薬剤師という資格制度ができたころでもあり、私の年代が資格を取得した第一世代という感じです。

新しい薬は次々に出てきますから、専門知識のある薬剤師の必要性は増すばかりです。各病院、専門薬剤師を増やす努力をしているのではないでしょうか。病院薬剤師にとって、専門薬剤師を目指すというのも1つの流れになっていると思います。

病院薬剤師の一番のやりがいは。

病院って、ほとんどの人が喜んで来る場所ではないですよね。多くの人が病気になってつらい、落ち込んでしまう、という気持ちでやってきます。そういう方々のつらさが薬で改善し、患者さんに「ありがとう」と感謝されたとき、一番やりがいを感じます。そのためにこの仕事をやっているようなものです。

病院薬剤師になるにはどのような勉強をしておけばいいですか。

化学や生物の勉強は大事ですが、無駄な科目は1つもないと思います。英語はもちろんできたほうがいいし、国語や社会も、患者さんとの雑談力につながるので。すべての科目をがんばって、と言いたいですね。もっとも病院薬剤師になってからも、専門領域のみならず、あらゆる病気の薬の勉強は続きます。

1日の仕事スケジュールH・Nさんの場合

  • 7:45

    出勤、1日のスケジュール確認や事務作業
    病棟回り、外来の準備

  • 8:30

    外来
    (通院治療センターで化学療法の立ち合い)
    電話相談窓口の対応

  • 12:00
    ~14:00

    空き時間に昼食をとる

  • 17:00

    外来終了
    カンファレンス、勉強会、研究、後輩への指導など

  • 20:00
    ~21:00

    退勤

1.5カ月に1回ほど当直(泊まり込みでの仕事)あり。入院患者さんや緊急の外来患者さんの処方せんが来たら薬を出す。医師や看護師からの質問に答える。

監修:亀井美和子 (帝京平成大学薬学部教授)