薬の専門誌の記者・編集者
これも薬に関する仕事 Vol.2

 

薬の専門誌って何?

雑誌の中でも、特定分野の専門家が求める情報を集め、発信する雑誌を専門誌と呼びます。薬の専門誌とは、薬の専門家である薬剤師や薬の研究者、医薬品の開発・製造・販売にかかわる人たちの仕事に役立つ情報を提供する雑誌を指します。一般の書店で販売されるものもあれば、定期購読の読者に届けるものなどさまざまです。

薬の専門誌にはさまざまなものがあります。それは、職種や立場などで求める情報が異なるからです。そのため、「この雑誌は薬局で働く薬剤師向け」などというように、対象とする主な読者がしぼり込まれています。一般的な新聞や雑誌では得られない、薬の専門家であればこそ必要とする情報を詳しく伝えるのが薬の専門誌の役割です。

なお、専門家向けの新聞もあって、こちらは「専門紙」と呼びます。雑誌と新聞では記事の書き方や長さ、発刊周期など異なるところもありますが、大まかな仕事内容は似ています。今回は薬の専門“誌”をつくる仕事を紹介します。

誰がつくっているの?

薬の専門誌に限ったことではありませんが、雑誌を出す出版社には、記事を作成する「編集部」があり、編集長、副編集長、記者がチームになって担当雑誌の記事をつくり上げるのが一般的です。記者が取材をして記事を書き、副編集長が記者の原稿をわかりやすく読みやすく整え、編集長がすべての記事の最終チェックを行います。出版社に属さないフリーのライターが取材や執筆を担当することもあります。主に副編集長や編集長が行う記事を整える作業を「編集」と呼び、これを行う人を編集者とも呼びます。

薬の専門誌ができるまで

では1冊の薬の専門誌ができるまでの記者や編集者の仕事の流れを見てみましょう。

取材

新聞やテレビ、雑誌、ネットニュース、メールマガジン、製薬会社が出す報道資料(プレスリリース)、国内外の薬の専門誌などから情報収集。病院や薬局で働く薬剤師、薬の研究者や開発者に話を聞きに行く、学会や研究会の聴講、厚生労働省などが行う薬に関する会議を傍聴する。

企画を出す、検討する

定期的に開催する編集会議で、編集部員全員がもち寄った企画の内容を検討する。掲載内容の方向性や記事ごとのページ数などを決める。

取材

掲載予定の記事作成に向けて記者やライターがさらに取材を進める。副編集長や編集長も記事を書く場合がある。必要に応じて撮影も行う。カメラマンが同行する場合もある。

原稿作成

記者やライターは原稿を書き、副編集長や編集長に提出。修正指示を受けて書き直す。外部の専門家(薬剤師や大学の薬学部の教員など)が執筆したコラムの原稿などを整える編集作業は、編集部員で分担して行う。

ここからは編集部外の部署あるいは別の会社に依頼する場合が多い

校閲(こうえつ)

誤字や脱字がないか、内容に誤りはないかなどチェックする
「校閲者」に記事全体を見てもらう。

デザイン・制作

担当者が原稿や写真、図表などを見やすく配置する。

ここからはふたたび編集部内での作業

修正・加筆

校閲者の指示をもとに修正。誌面に入りきらなかった文字を入れ込むために文章を削ったり、不自然に空いてしまった文字スペースを埋めるために原稿を追加したりする。
記者→副編集長→編集長の順にチェックする。

入稿

全体が整ったら印刷所にデータを渡す。印刷後、専門誌が完成する。

発売

店頭に専門誌が並ぶ、定期購読者のもとに専門誌が届く。

ネットニュースを書く、
書籍を編集する

情報はインターネットで入手するのが当たり前になった今。最新情報をいち早く読者に届けるために、また新しい読者を獲得するために、専門誌ごとに専用のウェブサイトを開設するのが一般的です。薬の専門誌の記者や編集者も日々の取材で得た情報をもとに記事をまとめ、会員専用のウェブサイト上のニュースとして発信します。専門誌に掲載した内容の一部を載せることもあります。

また専門誌に連載したコラムなどをもとにした書籍を編集する仕事もあります。専門誌に掲載時の内容をそのまま載せればいいというわけではなく、データを最新のものに差し替える、制度変更などによって状況が変わったため一部を書き直す、といった編集作業が必要となります。

プロフェッショナルインタビュー Vol.2 薬の専門誌の記者・編集者

「自分の記事で読者を驚かせたい、という気持ちが原動力」

調剤薬局で働く薬剤師向けの
専門誌の副編集長
N・Kさん(40代・女性)

どうして薬の専門誌の記者・編集者になったのですか。

学生時代は、特に薬のことや医療に興味をもっていたわけではありません。大学では環境を汚染する物質のことを調べる環境化学の勉強をして、大学院の修士課程では微生物の進化の道筋を遺伝子で探る研究をしていました。研究者になるという道もありましたが、世の中のことを幅広く知りたいという気持ちも強くなってきて。身近に記者の方がいた影響もあり、書く仕事、表現する仕事に興味をもつようになりました。

大学院の修士課程を出てすぐ、今の総合出版社に入りました。いろいろな分野の専門誌を出している会社なのですが、最初に配属されたのは開業医向けの専門誌の編集部で、記者として6年半在籍しました。その後、今も所属する薬局薬剤師向けの専門誌の編集部で3年半、ビジネスマン向けの専門誌の編集部で3年、そして今の部署に戻ってきて約2年半。半年前に副編集長になりました。

つまり最初から薬の専門誌の記者や編集者になりたかったというわけではなく、今後もほかの専門誌を担当することになるかもしれません。しかしどの専門誌に配属されても、その道のプロに役立つ情報を探り、タイムリーにわかりやすく発信する力が要求される仕事です。それがこの仕事のおもしろみでもあります。

専門知識が必要で、取材が大変ではないですか。

私は薬剤師の資格を持っているわけでもないですし、薬の知識としては取材先の薬剤師の方々についていけないことがあります。だから事前によく下調べをしますが、わからないことは謙虚な姿勢で教えてもらいます。ただし、教えてもらう一方ではダメで、取材先が喜ぶ情報の“お土産”をもっていくようにしています。たとえば「医師の世界は今こうなっています」とか。この記者に、また会ってもいいなと一目置かれてこそ、深い情報が引き出せるからです。ウェブサイトやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)には出てこない、とっておきの情報を入手するには信頼関係が大切です。

つまり、知識も大切ですが日々の取材から読者が必要とする情報を探り、それにこたえられるように取材を積み重ね、わかりやすい誌面をつくるという基本は、すべての雑誌づくりに当てはまることです。

どのようなときにやりがいを感じますか。

たとえば厚生労働省で行われる薬関連の会議を傍聴して記事を書くことがあります。ほかの専門誌の記者らも来ていますが、同じようなことを書いてもあまり意味がないと思うのです。自分の視点で重要と思う部分をうまく切り取って記事にして、自分の名前入りで出す。それが快感です。一つひとつの記事に対する読者の評価が詳細にわかるわけではありませんが、ネットニュースの閲覧数も有料で配信している記事を読んでくれる会員読者の数も増えていますから手ごたえはあります。

どういう人が薬の専門誌の記者・編集者に向いていますか。

これは薬の専門誌に限らず報道に関わる仕事すべてに言えることかもしれませんが、なぜだろう?と思うことを放っておかない、放っておけずに行動に移せる人が向いていると思います。初対面の人にも物おじしない、少々いやなことを言われてもめげない“打たれ強さ”も必要です。中立の立場で事実をわかりやすくタイムリーに発信しなくてはならない仕事なので、情報が正しいかどうかについて自分の目できちんと確かめるち密さも求められます。

ちなみに今の部署の編集部員には薬剤師の資格をもっている人もいますが、学生時代の専門分野は生物、看護、農学などさまざま。読者のことをよく考えて情報を出せる人であれば、文系の人でもできる仕事だと思います。

今後はどのような仕事をしていきたいですか。

副編集長になったばかりですが、当分は自分でも記事を書く仕事を続けていきたいです。この仕事って“回遊魚”のようなもので、常に走り続けていないとおもしろいネタをかぎ分ける嗅覚が衰えてしまいそう、書けなくなりそうという気がして。これからも、いい記事を書いて読者を驚かせたいという気持ちで突き進んでいきます。

1日の仕事スケジュールN・Kさんの場合

  • 6:00

    自宅でニュースチェック、メールのやりとり

  • 11:00

    出社、編集部員や編集長との打ち合わせ

  • 13:00

    昼食をとり、取材に出かける
    取材の空き時間にカフェなどでコラムの
    編集作業

  • 夕方

    帰社、原稿を書く、ネットニュースを発信

  • 19:00

    退勤

監修:亀井美和子 (帝京平成大学薬学部教授)