大学薬学部の教員
これも薬に関する仕事 Vol.3

 

その前に……大学の薬学部ってどんなところ?

大学の薬学部は、薬剤師や薬の研究者など薬に関する専門家の育成を担う教育の場です。主に薬剤師を育成する6年制課程と、主に製薬関連の企業や行政機関で活躍できる人材を育成する4年制課程があります。薬剤師の資格が取れるのは6年制課程です。一般的に大学3年生の途中くらいまでは4年制課程も6年制課程もほぼ同じように薬学の基礎や応用を学びます。

違いが大きくなるのは研究室に配属される3年生の秋以降です。4年制課程では研究室での実験が中心となり自分の専門に役立つ知識を身につけるための講義を受けるようになります。6年制課程では、実験に加え、薬剤師に必要な知識や技能を身につけるための講義が多くなります。5年生以降には病院や薬局などの医療の現場での実務実習があり、6年生になると卒業論文を書くための研究や薬剤師の資格を取るための国家試験対策講義が本格化します。

薬学部の教員になるには

薬学部の大学と大学院を出て各大学の教員募集に応募し、採用されるというのが一般的です。薬剤師の資格は必須ではないものの、薬剤師の資格を持っていることが重要視される場合もあります。

これは薬学部に限ったことではありませんが、役職は助教→講師→准教授→教授という順にステップアップします。大学によってステップアップの条件は異なりますが、助教は3年契約など期限が区切られている場合が多く、その間の研究・教育業績によって助教として働き続けられるか、講師になれるかなどが決まります。多くの大学では、講師になるまでに博士号の学位の取得が必要です。その後も業績を積み重ねていくことで准教授や教授への道がひらけます。一般企業にも転職という道があるように、途中で別の大学に移る人もいます。

そのほか製薬会社に長年勤務した人や薬の法律に詳しい弁護士や検事、薬業界に詳しいマスコミ関係者などのスペシャリストが、その実績を買われて大学の教員になることもあります。本業との兼務であったり特別なプロジェクトのために雇われたりする場合、非常勤講師、客員教授、特任教授といった役職名がつくことが多いようです。

薬学部の教員の仕事内容は

薬に関する教育と研究が2本柱であり、その仕事内容は多岐にわたります。主な仕事は以下の通りです。

講義や実習

教育カリキュラムに沿って学修の内容を考え、講義する。生物や化学などの基礎実験、薬の特性や作用、薬品の分析方法などを学ぶための専門性の高い実験の指導も行う。ペーパー試験や実技試験を作成し、実施する。課題を与え、提出された課題を採点し、成績をつける。

学生の指導

履修計画(どの授業科目を選び、卒業に必要な単位を取るか学生自身が計画を立てること)や進路、研究テーマなどの相談を受ける。

実務実習の指導

病院や薬局における実務実習に向けての指導、実務実習の現場での指導を行い、実務実習の実施先との調整も行う。

研究指導、研究室の運営

研究室に所属する学生に研究テーマを与えて研究の立案、実行、データのまとめ、論文作成などの指導をする。予算管理など研究室を運営するための事務仕事もある。

自身の研究

研究テーマを考案し、実施する。研究成果は研究会や学会で発表し、論文にまとめて専門誌に投稿する。

大学運営関連

教育プログラムの検討、入試やオープンキャンパスの運営・実施など、大学の事務職員らと協力し合って行う。

社会貢献活動

中学生や高校生、地域住民などを対象とする出張講義を行う。薬関連の学会や研究会の委員としての活動を実施する。

プロフェッショナルインタビュー Vol.3 大学薬学部の教員

「薬学教育を通して医療に貢献できる仕事です」

大学(6年制課程)薬学部社会健康薬学講座の准教授
D・Kさん(40代・男性)

どうして薬学部の教員になったのですか。

大学に入る時点で薬学部の教員を目指していた人は少数かもしれません。私の場合、大学浪人中に母が病気で亡くなったことがきっかけで病院の薬剤師になりたいと思い、薬学部に入りました。ところが大学でいろいろと学ぶうちに薬に関する研究のほうがおもしろくなってきて。大学を出るときに薬剤師になるか研究者を目指すか少し悩みましたが、研究の道に進むことにしました。民間企業に就職して研究を続けるという道もありますが、大学に在籍しながら自分のアイデアを大事にした比較的自由な研究がしたいと考え、大学院に進みました。

大学で研究を続けていくには大学の教員になる必要がありますし、研究を続けたいというきっかけで薬学部の教員になる人は多いと思います。私の場合は教員として勤めているうちに、研究に加えて、薬学教育を通して医療に貢献できるというやりがいも感じるようになりました。

薬学教育が医療への貢献につながるとは。

たとえば、かかりつけ医の薬剤師版のような「ホームファーマシスト」の教育プログラムをつくる仕事を任されたのですが、ベッドサイドではなく患者さんの自宅で薬剤師が行うべきことは何か、そのために何を教育するか。カリキュラムをゼロから構築していくのがおもしろかったですね。時代のニーズに合う薬剤師の育成というかたちで医療に貢献できると感じています。

ほかにも、学生の実務実習を通じて地域の医療者をつなぐこともできると思います。「学生に在宅医療の現場を見学させたいので医師を紹介するから一緒に行ってもらえないか」と薬局の薬剤師に持ち掛けたのがきっかけとなって地域の医療者がまとまり、その地域のチーム医療がスムーズになる経験をしました。大学の教員という中立的な立場だからこそ、比較的自由な活動で地域での医療のつながりに貢献できるのかもしれません。

D・Kさんは文部科学省への出向経験もありますが。

医学教育課の薬学技術参与という立場で1年間勤めました。文部科学省の担当官は薬学の専門家というわけではなく、実際の薬学教育の現場に不慣れなこともありアドバイザー的な役割で勤めました。薬学教育に関する制度、実務実習のあり方、国会での質疑に関する資料づくりなどデスクワークが中心ですが、とても忙しかったです。薬学教育に携わっていないとわからないことがいろいろとありますからね。大学での研究や教育とはまた違う、行政の立場から薬学教育を考えるというすばらしい経験ができました。

どういう人が薬学部の教員に向いていますか。

大学の教員は、比較的自由に研究や教育ができる立場ですから、オリジナリティのある考えを持ち、ゼロから自分のやりたい取り組みができることに意義を感じるポジティブな人が向いていると思います。また自分は年々歳をとりますが学生は一定の年齢なので歳の差は開く一方。学生目線でアクティブに動けないとつらいかも(笑)。すぐに結果が見えなくても、自分の取り組みが最終的には学生たち、患者さん、医療の発展に貢献できるという信念が持てる人でしょうか。

今後はどのような仕事をしていきたいですか。

薬学部の大きな使命の1つは薬剤師の養成です。ひと昔前までは医療の現場は医師主導で動いていて、薬剤師は医師の処方せんをもとに薬を出す業務が主だったと言えます。しかし今は、医師、薬剤師、看護師はもちろん、リハビリテーションや介護、栄養の専門家たちがチームとなり患者さんを支えるチーム医療が当たり前の時代。薬に関することは薬のプロである薬剤師が中心となってチーム医療を推進します。

こうした流れの中、薬剤師は薬という「物」を中心に扱う仕事から、個々の患者さん=「人」と向き合う仕事へと変わりつつあります。薬を患者さんに渡す際の指導はもとより、薬が効いているか、副作用は出ていないかという評価、患者さんの気持ちに寄り添った指導が求められます。薬の知識だけではなく「人」がわかる薬剤師の育成が課題です。

1日の仕事スケジュールD・Kさんの場合

  • 9:00

    出勤(1限目の講義があるときは8:00)、講義、実習、研究室に所属する学生への研究指導など

  • 12:00

    昼休み

  • 13:00

    講義、実習の指導、会議など

  • 15:00

    学生の研究の進み具合を確認し、ディスカッション

  • 夕方以降

    自身の研究、研究分野の情報収集、論文作成、講義や実習の準備、事務作業など

  • 20:00ごろ

    退勤

監修:亀井美和子 (帝京平成大学薬学部教授)