薬が菌やウイルスをやっつける仕組み
薬が作用する仕組み Vol.3

スコッピィ君:細菌とウイルスの違いって知ってる?

目には見えないけれど、私たちの身の回りにはたくさんの種類の細菌が存在します。土や水の中、空気中、そして私たちの皮膚の表面や腸の中にも。

病気を引き起こす、コワイやつ

細菌には、私たちのからだに好ましいことをしてくれるものもあれば、そうではないものもあります。例えば、ヨーグルトに入っている乳酸菌やビフィズス菌のように、お腹の調子を整えてくれる細菌がいます。一方で、病気の原因となる細菌もたくさんいます。食べ物にくっついてからだに入ってきて食中毒を起こしたり、傷口から入ってきて破傷風(はしょうふう)という病気を起こしたり……。

細菌が私たちの体内で自分の仲間を増やし、悪さをしようとするとき、私たちのからだにある、細菌をやっつける細胞が戦ってくれるのですが、うまく退治できないと、さまざまな病気の症状が現れます。

病気を引き起こす、コワイやつ

細菌は抗菌薬で退治

細菌は抗菌薬で退治

いつまでも細菌が暴れていると症状は重くなるばかりですから、薬でやっつけましょう。細菌をやっつける薬を「抗菌薬」といいます。抗菌薬は、細菌と人の細胞の、構造や機能の違いをうまく利用して作られています。

抗菌薬が細菌をやっつける方法は大きく2つに分けられます。1つは、細菌の一番外側にある細胞壁を壊してしまう方法です。人の細胞には細胞壁がないので作用しません。

もう1つは、細菌が仲間を増やすために必要な「たんぱく質」を作ろうとするのを邪魔する方法です。生物が生きていくためにはたんぱく質が必須ですが、細菌と人の細胞では、その作り方が異なることが分かっています。細菌のたんぱく質の作り方だけを、薬で邪魔します。

細菌は抗菌薬で退治

ウイルスには抗ウイルス薬

病気を引き起こすコワイ存在としてもう1つ知っておきたいのがウイルスです。ウイルスは細菌よりもずっと小さく、遺伝子とそれを包むたんぱく質でできています。はしかや水ぼうそう、インフルエンザといった病気はウイルスが原因です。

ウイルスは、私たちの体内にある細胞に自分の遺伝子を入れ、私たちの細胞の力を借りて遺伝子を増やします。ウイルスがいっぱいできたらその細胞から出ていき、また別の細胞にくっついて……という風に増えていきます。ですからウイルスをやっつけるには、ウイルスが細胞にくっつくのを防ぐか、細胞内でウイルスが増えるのを邪魔しなくてはなりません。そういう作用を持つ薬を、「抗ウイルス薬」と呼びます。

ウイルスには抗ウイルス薬

「治った」と思っても、薬は必要

「治った」と思っても、薬は必要

病原体は細菌かウイルスか、また、細菌やウイルスの種類によっても、使うべき薬が異なります。医師はそれを見極め、適切な薬はどれなのかを判断します。そして、「この薬を1日○回、○日間のむように」というように指示してくれます。

ここで注意!薬をのんで症状が軽くなったとしても、指定された期間は薬をのみ続けましょう。目に見えない病原体は、まだあなたのからだの中に残っているかもしれないからです。きちんとやっつけないと病気の再発や重症化につながります。また、他の人に病原体をうつしてしまう危険性も高くなります。

正しく薬を使って、病原体を完全にやっつけましょう。

「治った」と思っても、薬は必要

抗生物質

抗菌薬のうち、微生物から取り出した物質から作られた薬を抗生物質と呼びます。今では化学合成でたくさんの抗菌薬が作られ、抗生物質も化学的に作られるようになりました。

抗生物質
抗菌スペクトル

細菌は種類が多く、性質が異なるため、抗菌薬が効く細菌と効かない細菌がいます。抗菌薬がどの細菌に有効であるかを示したものを「抗菌スペクトル」といいます。だから、細菌が原因の病気では、まず原因菌が何かを調べることが必要です。

抗菌スペクトル
解説

耐性菌、耐性ウイルス

抗菌薬や抗ウイルス薬で病原体を撃退!といきたいところだけど、薬が作用しないようにバージョンアップした、強い細菌やウイルスが登場することも少なくないんだ。それぞれ「薬剤耐性菌」「薬剤耐性ウイルス」って呼ぶよ。

これらに対抗するための新しい薬も開発されるけれど、敵もなかなか手ごわくて、もっと強い細菌やウイルスにバージョンアップしてくるんだ……。

薬剤耐性菌や薬剤耐性ウイルスは、薬ののむ量を減らしたり、薬をのむことを途中でやめてしまったりするとできやすいので、医師から指示された薬ののむ量やのむ期間を必ず守ってね。

耐性菌、耐性ウイルス
コラム

薬で風邪は治らない

「風邪の特効薬が作れたら、ノーベル賞がもらえるかも」と言われているの、ご存知でしょうか。「風邪薬なんて、薬局に行けばたくさん売っているでしょ」と思うかもしれませんが、どの薬も、風邪の症状を抑える薬であり、風邪を根本から治すわけではありません。

そもそも風邪って何かというと、口や鼻から入り込んだ病原体が原因で起きる、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、咳、喉の痛み、発熱、頭痛、全身がだるい……といった症状が現れる病気を指します。原因の8~9割※1がウイルスですが、風邪を引き起こすウイルスにはいろいろな種類があるので、ぴったりと合う抗ウイルス薬を創るのが難しく、特効薬が存在しないのです。

でも、風邪をひいたら必要に応じて症状を抑える薬をのみ、栄養をとって安静にしていれば治りますよね。そう、自然治癒力のおかげです。一方、風邪をひいているときに無理をして動き回っていると、病原体をやっつける細胞の働きが低下します。すると今度は、風邪を重症化する細菌がやってきて、風邪を"こじらせた"状態になるんです。

そんなとき、抗菌薬をのむように指示されたこと、あるかもしれません。ほとんどの風邪はウイルスが原因なので抗菌薬では効果が期待できませんが、高熱が続く、喉がとても痛くて黄色い痰(たん)が出る、咳がつらい……といった症状がある場合は、あとからやってきた細菌のせいかもしれないからです。

※1 医学大辞典 19版 南山堂:387, 2006

薬で風邪は治らない
 
薬で風邪は治らない

監修:加藤哲太(日本くすり教育研究所代表)