

胃や腸で起きること
薬の「のみ合わせ」Vol.1
口から入って胃腸を通り、全身へ……。のみ薬は食品と同じ経路でからだに入るので、互いの吸収や作用に影響を及ぼす場合があります。これを食品と薬の「のみ合わせ」と呼びます。どのようなことが起きるのか、今回は薬が胃腸から吸収されるまで、次回のVol.2では吸収されたあとについて紹介します。
食品に含まれるカルシウムやマグネシウム、鉄などのミネラルは、からだの働きを調節する大切な栄養素ですが、薬にくっついてしまい、互いに吸収されにくくなることがあります。せっかくのんだ薬も、からだが必要とする栄養素も十分に吸収されないなんて、もったいない話です。カルシウムの多い牛乳で薬をのんではいけない理由の1つがこれです。
からだに吸収されずに腸のお掃除をしてくれる食物繊維も、薬に絡みついて吸収を邪魔することがあります。からだに不要なものを体外に出すというプラスの作用が、マイナスに働いてしまうわけですね。
オレンジ、リンゴ、グレープフルーツなどのフルーツジュースに含まれる成分は、腸から体内へと薬を運ぶ運搬役の作用を邪魔することがあります。だからフルーツジュースも、薬をのむときに使ってはいけないのです。
逆に、薬の吸収を良くする食品もあります。薬はたくさん吸収されるほうがいいかというと、そうとも言えません。多すぎず少なすぎず、狙い通りの量が吸収されたとき、一番効果を発揮するように作られていますから。
例えば、油に溶けるような性質を持つ薬を脂肪分の多い肉や魚、牛乳やヨーグルトなどと一緒にとると、薬が脂肪分に溶けるため吸収が良くなります。すると薬の作用が強く出過ぎて、副作用が生じる場合もあるのです。
薬の吸収を悪くするのみ合わせの例
○ カルシウムやマグネシウム
抗菌薬(テトラサイクリン系、ニューキノロン系)、骨粗しょう症薬(ビスホスホネート系)
○ 食物繊維
心臓病薬(ジゴキシン)、抗菌薬(アモキシシリン)
○ フルーツジュース
抗アレルギー薬(フェキソフェナジン)、高血圧症薬(セリプロロール)
薬の吸収が良くなりすぎるのみ合わせの例
○ 脂肪分の多い肉や魚、乳製品
睡眠薬(クアゼパム)、脂質異常症薬(プロブコール)
食品が、胃腸での薬の効果を弱めてしまうこともあります。胃は、食べ物をすみやかに消化するために胃酸を分泌しますが、胃酸が多過ぎると、胸焼けや胃もたれなどの症状が出ます。このようなときは、出過ぎた胃酸の働きを抑える「制酸剤」というタイプの薬が適しています。
しかし、胸焼けや胃もたれの原因が、焼肉やステーキなどの肉類の場合は注意が必要です。肉に含まれる「リン酸」という物質が制酸剤の成分にくっついてしまい、薬の効果を弱めてしまうからです。こういうときは、胃腸の動きを良くするタイプの薬が必要です。
再び牛乳の登場ですが、酸性の胃では溶けず、中性の腸で溶けるようにした「腸溶製剤」というタイプの便秘薬を、胃を中性に傾けてしまう牛乳でのむと、薬が胃で溶けてしまいます。効果が弱まるばかりか、胃を荒らす原因にもなります。
ミネラルや食物繊維を多く含む食品、そして、肉、魚、牛乳など、からだを作るたんぱく源、ビタミンたっぷりのジュース……。どれも健康維持のためにバランス良くとりたいものばかりです。食べたものは食後2時間で消化吸収がほぼ終了しますから、薬への影響が心配な食品は2時間以上の間隔をあけてとるようにしましょう。
食品の影響を受けやすい薬については、「食前(食事の前)または食間(食事と食事の間の空腹時)にのむように」などと指示されますから、それほど神経質になる必要はありません。
でも薬をのむときの飲み物には、注意が必要です。薬はコップ1杯の水かぬるま湯でのむのが原則。牛乳やフルーツジュースでのんではいけない理由はもう、分かりましたね。お茶やコーヒー、紅茶でのむのもいけない理由は次回で!

食前か食後かによって、薬の吸収は大きく変わります。基本的に、胃が空っぽのときにのんだ薬はすぐに吸収されて全身へと運ばれますが、食後なら、ゆっくりと吸収されます。薬をのむタイミングについて細かく指示されるのは、このためでもあります。


薬そっくりに見えるサプリメントも、薬ではなく食品だってことは、薬と健康食品の境界線はどこ? 薬ってなんだろう Vol.2でも紹介した通り。
だけど、普通の食事で食べている肉や魚、野菜、果物などに比べて、ある成分がギュッと詰まったサプリメントもあるよ。そのため、サプリメントと薬を一緒にのむと、より強い副作用が出るかもしれないから心配だね。
サプリメントをのんでいる人は、医師や薬剤師にそのことを伝え、のみ合わせのことを教えてもらって正しく利用しよう!


甘い味がついていて、のむのが楽しみ?!になるような薬ってありますよね。特に小さな子ども用の薬は、のみやすいシロップ状にしたものや、フルーツの風味を加えたものなどがあります。
また、ややのみにくい粉薬の場合、「アイスクリームやヨーグルトに混ぜてのんでもいい」などと指示されることもあります。でも、何にでも混ぜていいというわけではありません。組み合わせによっては薬の効き目を変えたり、かえってのみにくい味になったりするからです。
たとえば、熱が出たときなどにのむ抗菌薬の中には、オレンジジュースやスポーツドリンクのような酸味の強い飲み物でのむと、苦みを強く感じてしまうものがあります。苦みをかくすためのコーティングがはがれてしまうためです。
薬は、コップ1杯の水かぬるま湯でのむのが原則ですが、どうしてものみにくい苦手な薬と感じたら、ほかの飲み物でのんでもいいか、何でのめばいいか、薬剤師に相談してみましょう。


監修:加藤哲太(日本くすり教育研究所代表)