中学生の私、薬は大人用と子ども用、どちらを選ぶべき?
薬を選ぶとき編 Vol.3

薬局やドラッグストアで買える市販薬のほとんどは、服用量が年齢で区切られています。大人用の薬がのめるのは15歳からで、15歳未満の人は「小児用」あるいは「ジュニア」などと書かれた子ども用の薬を選ぶ必要があります。大人も子どもものめる薬の場合は、「成人(15歳以上)3錠」「11歳以上15歳未満2錠」「7歳以上11歳未満1錠」など、書いてある用量を守らなくてはなりません。

とはいえ中学1、2年生でも体格がよく、身長も体重も保護者の方々と同じかそれ以上という人もいるでしょう。「薬だって大人用の薬を選ぶほうがいいのではないか」「大人と同じ量をのんだほうがいいのではないか」といった疑問が浮かぶのでは?

内臓の機能が大人並みになる目安が15歳内臓の機能が大人並みになる目安が15歳

でもやはり、この年齢制限は必ず守ってください。体格がよくても、内臓の働きまで大人並みに機能しているとは限らないからです。口からのんで小腸で吸収された薬は、肝臓を通るときに一部から大半が化学変化(代謝)によって効き目を失い、ちょうどよい量の薬が血液にのって全身をめぐります。そして役目を終えた薬はまた肝臓で代謝され、排出されやすいかたちに変わります。その後、多くは腎臓に運ばれて尿と一緒に排出されます。

この代謝や排出にかかわる肝臓や腎臓の働きが大人並みになる目安の年齢が15歳なのです。たとえば、肝臓での薬の代謝にかかわる代表的な酵素の量を調べた研究結果をみると、5~15歳の酵素量は大人よりも少ないことがわかります(グラフ)。薬の用量を守らないと、肝臓での代謝がうまくいかずに血液中の薬の量が多くなりすぎて、副作用を引き起こしてしまうこともあると考えられます。薬の代謝や排出については、薬を排泄とは。肝臓が活躍。からだを旅する薬のこと Vol.3も参考にしてください。

肝臓で働く代謝酵素量の変化

Stevens JC et al:The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 307(2):573-82, 2003より改変

また薬が大人用と子ども用に分かれているのは、子ども向きではない薬もあるからです。たとえば「アスピリン」や「イブプロフェン」という成分を含む解熱鎮痛薬があります。15歳未満の子どもがのむと重い副作用が出る場合があるので、子ども用の市販薬にはこれらの成分が含まれていません。
子どもは肝臓や腎臓の機能のほか、薬の影響を受けやすい脳も未発達。薬の服用に際しては、大人以上に慎重であるべきなのです。

子どもが使えない外用薬もある子どもが使えない外用薬もある

湿布薬や目薬といった皮膚や粘膜から薬の成分を吸収させる外用薬にも、子どもが使えない市販薬があります。たとえば湿布薬では「フェルビナク」という成分を含むものは15歳未満、「インドメタシン」という成分を含むものは、11歳未満は使えません。目薬では「プラノプロフェン」という成分を含むものは、7歳未満は使えません。

薬によって、使えるようになる年齢が違うのね薬によって、使えるようになる年齢が違うのねいずれも決められた年齢に達していない子どもが使った場合の安全性が確立されていないというのが理由です。年齢の区分は薬の有効成分ごとに異なるので、添付文書をよく確認する必要があります。

重大な副作用が出たときの救済措置が受けられなくなる重大な副作用が出たときの救済措置が受けられなくなる

そうはいっても、15歳の誕生日を境にからだが子どもから大人になるわけではないし……と思うかもしれませんね。でも年齢の区分を含め、添付文書に書いてある用法・用量を守らずに薬を使うと、副作用で重い病気や障害が生じた場合に受けられるはずの救済措置「医薬品副作用被害救済制度」の対象にならないという問題もあります。この制度について、詳しくは下のコラムを参照してください。

今回の「こまった!」 解決メモ

15歳未満のからだの中はまだ子ども。
体格にかかわらず薬の年齢の区分は必ず守って。

- コラム -

もしもの時のための「医薬品副作用被害救済制度」

もしもの時のための

「医薬品副作用被害救済制度」

医薬品が正しく使われたにもかかわらず副作用による健康被害が発生し、入院しなくてはならないくらい重い病気になったり、日常生活に支障がでるほどの障害が残ったりした人のために「医薬品副作用被害救済制度」という公的な救済制度があります。治療にかかった医療費の自己負担分や、通院のために必要な交通費といった医療費以外の負担を補う手当、障害が残ったことで生活に必要になったお金を補うための年金、障害が残った人の養育のための年金、亡くなった人の家族のための年金や見舞金、葬祭料といった給付の種類があります。

薬局やドラッグストアで買える市販薬も、病院や診療所で使われた薬や処方された薬のいずれも救済の対象です(一部対象にならない薬もあります)。救済を受けるためには発生した副作用の治療を行った医師に相談して診断書などを書いてもらい、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に給付の請求を行います。PMDAでは生じた健康被害が薬の副作用によるものか、薬は正しく使われていたかなどを調べ、厚生労働省での諸手続きを経て支給の可否が決められます。

給付請求の件数は年々増えていますが(平成24年度から平成28年度)、そのうち18%は給付の対象になりませんでした。その理由はさまざまですが4分の1は「使用目的または使用方法が適正とは認められない」というものでした。※1

薬は用法・用量を守って正しく使わないと、もしものときの救済が受けられなくなってしまう。そのことも頭の片隅に置いておきましょう。

※1 PMDA:医薬品・医療機器等安全性情報 No.347:3-11, 2017

監修:加藤哲太(日本くすり教育研究所代表)