


薬をのんでいるのに頭痛が治らない
薬を使うとき編 Vol.3
実はそれ、逆効果になっている可能性があります。頭痛薬をのみ続けることで、かえって頭痛が起こりやすくなったり、痛みの持続時間が長くなったりする「薬物乱用頭痛」かも。1カ月の半分以上頭痛に悩まされていて、週に2~3回は頭痛薬をのんでいる状態が3カ月以上続いているなら薬物乱用頭痛が疑われます。
- ・1カ月に15日以上頭痛がする
- ・頭痛薬を3カ月を超えて、月に10日以上のんでいる
- ・頭痛薬をのむと頭痛が悪化する、今までとは違う頭痛がする
参考:日本神経学会・日本頭痛学会監修:慢性頭痛の診療ガイドライン2013、日本頭痛協会:頭痛講座(総論編)
以前は薬をのめば症状が軽くなったのになぜ?と思うかもしれません。どうして薬物乱用頭痛になってしまうのでしょうか。
脳には痛みの感じやすさをコントロールする機能がありますが、頭痛薬を使い続けることでこの機能がマヒしてしまいます。ちょっとのことで痛いと感じるようになり、また頭痛薬が効かないという不安がストレスになって頭痛を引き起こし、さらに頭痛薬を使ってしまうという悪循環に陥るのが原因ではないかと考えられます。
薬物乱用頭痛に悩まされる人は人口の約1~2%と推定されます。※1「片頭痛」あるいは「緊張型頭痛」というタイプの頭痛がある人に発症します。薬物乱用頭痛のことを理解するために、原因となるこの2つの頭痛のことも知っておきましょう。
片頭痛は、頭の片側がズキズキと脈打つように痛むのが特徴です。片頭痛という名前がついているものの、症状が頭の両側に出る人もいて、特に小児ではひたいの両側あたりが痛む場合も多いようです。
光や音、においの刺激で症状が悪化することや、吐き気がして寝込んでしまうこともあります。片頭痛の原因ははっきりとわかっているわけではありませんが、ストレスなどにより顔の感覚を脳に伝える神経が刺激を受ける影響で、血管が広がって痛みにつながるという説が支持されています。
緊張型頭痛は頭を締めつけられるような痛みが特徴です。小説「西遊記」の主人公、孫悟空が頭につけている輪っかがしまってくるような感じとか。ストレスなどによって頭の周りや首のうしろ、肩、背中などの筋肉が緊張するのが原因とされます。片頭痛よりも痛みは比較的軽度で、吐き気がするようなこともなく普段の生活はなんとか続けられます。

全国の小中学生3,285 人が回答した調査によると、約半数が頭痛の経験者。こまかく見ると、小学生の3.5%、中学生の5.0%が片頭痛、小学生の5.4%、中学生の11.2%が緊張型頭痛の経験者でした。※2「よくあることだから」と、痛くなったら常備している市販の頭痛薬をのむのが習慣になっている人は、少なくないかもしれません。
薬物乱用頭痛は、医師の診察のもとで処方された頭痛薬でも市販の頭痛薬でも生じますが、日本では市販の頭痛薬が原因となる場合が多いようです。薬物乱用頭痛の原因の85.1%が市販の頭痛薬という報告もあります。※3安易に使い続けることがないように気をつけたいものです。

薬物乱用頭痛をなくすには、原因となった頭痛薬の使用をやめるのが第一です。原因となる頭痛薬の使用をやめてから2カ月以内に症状がなくなるというのも薬物乱用頭痛の特徴です。とはいえ、薬をのまなかったらまた頭が痛くなってしまうのではないかという不安な気持ちにもなりますよね。「薬物乱用頭痛かも」と思ったらまず、かかりつけ医に相談しましょう。必要に応じて頭痛薬の使用をやめたあとに起こる頭痛を予防する薬などを処方してもらえます。友人関係や勉強の悩みなどによるストレスが原因になっているようなら、心の専門医の受診をすすめられることもあります。
しかし、そもそも薬だけで頭痛を治そうとせず、頭痛を引き起こす要因となる生活習慣の改善が大切。生活習慣の改善だけで頭痛薬がいらなくなる場合も多いからです。具体的には、以下のようなことに気をつけましょう。
- ・規則正しく十分な睡眠をとる
- ・休日でも早起きして朝食をとる
- ・炎天下では帽子をかぶる、サングラスをかける
- ・人ごみや満員電車を避ける
- ・ゲーム機やテレビの使用時間を制限する
- ・適度な運動、ストレッチ、マッサージ
参考:脳と発達:44(2):119-124, 2012
今回の「こまった!」 解決メモ
頭痛薬が効かなくなったら
薬物乱用頭痛の可能性も。
かかりつけ医に相談しよう。
生活習慣の見直しも忘れずに。
※1 日本神経学会・日本頭痛学会監修:慢性頭痛の診療ガイドライン2013
※2 Brain & Development 39(9):791–8, 2017
※3 Cephalalgia 27(9):1020-3, 2007
知っておきたい薬物乱用のこと
知っておきたい薬物乱用のこと
薬物乱用頭痛は、違法な薬物を使う「薬物乱用」との混同を避けるために正確には「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」と呼びます。本編で紹介した通り、使っていい薬だけれど頻繁に使ったために起きてしまった頭痛のことです。
ここでは、今大きな社会問題になっている“いわゆる”薬物乱用、すなわち「薬物を社会のルールからはずれた目的や方法で摂取すること」を取り上げます。具体的には2つのパターンがあります。

ここでは、今大きな社会問題になっている“いわゆる”薬物乱用、すなわち「薬物を社会のルールからはずれた目的や方法で摂取すること」を取り上げます。具体的には2つのパターンがあります。
まず、麻薬や大麻、覚せい剤、シンナー、MDMA(化学薬品から合成された錠剤型の麻薬)、危険ドラッグといった法律で使用が禁止された薬物を使うこと。薬物乱用頭痛とは違い、使用回数は関係ありません。1回でも使ったら薬物乱用です。もう1つは、睡眠薬や抗うつ薬、咳止め薬(一部)のような医療目的で広く使われている薬だけれど、一度にたくさんまとめてのんだり、気分を高めるために使用したりするのも薬物乱用です。
「気持ちよくなるよ」「楽になるよ」とすすめられ、軽い気持ちで手を出したら最後、もうそれなしではいられなくなるという中毒性が高いのも薬物乱用のこわいところ。心もからだもダメになり、周囲の人たちにも大きな迷惑をかけてしまいます。でもそれって中学生にはあまり関係がない話では?と思う人もいるかもしれませんが、中学生全体の0.5%、200人に1人は薬物乱用の経験者と推定されるとか。※4薬物乱用は決して他人事ではありません。
※4 薬事日報社:危険ドラッグ問題の表と裏:22, 2018
監修:加藤哲太(日本くすり教育研究所代表)