自由に買える薬、買えない薬
薬ってなんだろう Vol.3
薬は、人の命に直接かかわるものです。正しく使えば病気やケガを治す手助けをしてくれますが、薬の選択やその使い方、使う量を間違えば、十分な効果が得られないばかりか、危険な副作用を引き起こすこともあります。
だから薬は、気軽に使ってはいけないものですし、そもそも、自己判断で使ってはいけない薬は、自由に買えない仕組みになっています。では私たちは、どのような薬を、どのようにして手に入れているのでしょうか。それは、医師の診断のもとで出される「処方薬」か、薬局やドラッグストアで自由に買える「市販薬」かによって大きく異なります。
医師の判断が必要な薬
医師は、患者さんのからだを診察し、病気やけがを治すには薬が必要かどうか判断します。薬が必要なときは、患者さんの体質や年齢などを考えて「この薬を、このくらいの量とればいい」と判断します。その情報を書いた「処方せん」と呼ぶ紙、見たことあるのでは? それを薬剤師がいる専門の薬局や病院の窓口で渡すと、薬が処方してもらえます。処方せんが必要な薬なので、「処方薬」と呼びます。「処方せん医薬品」あるいは「医療用医薬品」と呼ぶこともあります。
処方薬は通常、市販薬に比べて効き目が強く、副作用の心配も大きい薬です。どの薬をどのくらいの量、どのくらいの期間とるべきかについては、医師がよく考えて決めています。ですから、買える薬の種類や量を勝手に変更することはできません。仮に「たくさんお金を払うから」と薬局でお願いしても無理。また、「何度も薬局に来るのは面倒だから、たくさん処方してほしい」と頼んでも、処方せんに書いてある量しかもらえません。
処方薬(医療用医薬品) | 市販薬(一般用医薬品) | |
---|---|---|
入手法 | 医師に処方せんをもらい、専門の薬局や病院の窓口で受け取る | 薬剤師や登録販売者(注)に相談し、自分で選ぶ |
使用方法 | 医師や薬剤師の指導・助言に従って服用 | 薬剤師や登録販売者に相談し、自己判断で服用 |
効き目・副作用 | 比較的作用が強く、副作用にも注意が必要 | 比較的作用が弱いが、副作用も比較的少ない |
(注)市販薬を販売する資格試験に合格した人。
薬剤師に相談して買う薬
それでは市販薬はどうでしょうか。ドラッグストアへ行けば、洗剤やトイレットペーパーと同じように薬が買えるみたいだけれど……と思ったかもしれません。確かに市販薬の中には、自分で選んで買える薬もあります。しかし薬剤師の説明を受けてからでないと、買えない薬もあります。
市販薬は、症状が軽めの段階で使うことを目的としています。処方薬に比べると効き目も副作用も穏やかですが、どのような薬にも副作用の危険性があります。市販薬は、副作用の危険性が高い順に要指導医薬品、一般用医薬品(第1類、第2類、第3類)というグループに分かれています。グループごとに、どのような資格を持つ人が、どのような手順で売らなくてはならないか、お店のどこに置かなくてはならないか……といった決まりがあります。
要指導医薬品と第1類の薬は、薬剤師の説明を聞いてからでないと売ってもらえません。「急いでいるので、説明はいいです」と断りたくても、店側には、書面を使っての情報提供が義務付けられているからです。だから、買う人が直接薬を手に取れないように、薬剤師のいるカウンターの後ろの棚や、カウンターのカギ付きショーケースの中に置いてあります。
第2類の薬は、薬剤師か、市販薬を販売する資格試験に合格した「登録販売者」に、なるべく説明をしてもらってから買いましょう、という薬です。店側からの情報提供は「努力義務」となっています。第2類の中でも特に注意が必要とされる指定第2類医薬品は、薬剤師等がいるカウンターから7メートルの範囲内にある棚に置かなくてはならないという、置き場所の決まりもあります。
第3類は、説明してもらわなくても買える薬です。置いてある場所にも、決まりはありません。しかし何類の薬であれ、購入者が相談を希望すれば、店側はそれに応じる義務があります。
分類 | 要指導医薬品 | 第1類医薬品 | 第2類医薬品 | 第3類医薬品 |
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副作用の危険性 | 高 | 高 | 中 | 低 |
代表的な薬 | 抗アレルギー薬、 解熱鎮痛薬 |
胃腸薬、解熱鎮痛薬、育毛薬、禁煙補助薬 | 解熱鎮痛薬、かぜ薬、漢方薬 | ビタミン薬、整腸薬 |
対応者 | 薬剤師 | 薬剤師 | 薬剤師または登録販売者 | |
情報提供 | 義務 | 義務 | 努力義務 | 不要 |
市販薬のネット販売が解禁
市販薬はインターネットでも買えるようになりました。「インターネット上では薬の説明がしっかりとできないのではないか」と、反対する声も根強くありましたが、2013年1月、最高裁判所の判決ですべての市販薬をインターネット上で売っていい、という判断が出ました。それまでも、第3類の薬はインターネットで買えましたが、第1類、第2類の薬も買えるようになったのです。
でも、購入者には、きちんと薬の効き目や副作用、使い方などを理解してもらわなくてはなりません。インターネットで市販薬を販売する店は、購入前の画面で薬の説明を入れる、一度に多量の薬を買えないようにする、メールや電話で薬剤師が購入者の相談を受ける……といった取り組みを行っています。
市販薬にも重大な副作用が
市販薬は、「大衆薬」「一般用医薬品」などと呼ぶこともあります。カウンター越しに医薬品を手渡されるという意味の英語、Over The Counterの頭文字をとり、「OTC医薬品」と呼ぶこともあります。市販、大衆、一般……といった言葉の響きから、なんとなく身近に感じられ、気軽に使うことがあったかもしれません。しかし、市販薬でも重い副作用を引き起こすことがあります。
市販薬の副作用は、2015年度から2019年度の5年間の合計で1764件、毎年350件前後が報告されています。中には肝障害や間質性肺疾患といった重度の副作用もあり、38人が亡くなっています。※1
処方薬も市販薬も、医師や薬剤師によく相談し、用法・用量、注意点を守り、正しく使いましょう。そうすれば、薬は私たちの強い味方になってくれます。
※1 医薬品副作用データベース(JADER)検索結果(2015年度~2019年度の一般用医薬品薬効分類別副作用症例数)
(参考:一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会:これまでの議論のまとめ:平成25年6月)
薬に関係するあらゆることは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」、通称「薬機法」という法律で決められているよ。処方薬や市販薬を売買するときの、いろいろなルールもね。
薬機法では、薬の有効性や安全性を保つために、原料や作り方、ラベルの表示、広告で言っていいこと……なんかも、細かく決められているんだ。
薬機法と呼ばれるようになったのは2014年の11月 からで、それまでは「薬事法」って呼んでいたんだけど、そのもとになったのは、1874年(明治7年)の「医制」と1889年(明治22年)の「薬律」というもの。以後、時代の変化に応じてその内容も変わり、薬事法の形に整ったのが1960年(昭和35年)なんだって。
市販薬の分類や売り方を決めるときなど、法律の改正は必要に応じて行われるよ。
(参考文献:厚生省薬務局編:逐条解説薬事法 ぎょうせい:6-39, 2005)
病院の薬が薬局の薬に変わる?!
もともとは医師の判断のもとで使われる処方薬だったけれど、今は市販薬として薬局で買えるようになった薬があります。処方薬として使われてきた実績をもとに、市販薬にしても比較的安全に使えるとの判断から、市販薬(OTC薬)に切り替えた(スイッチ)、ということで、これを「スイッチOTC薬」と呼びます。
薬のパッケージに「スイッチOTC薬」などと書いてあるわけではありませんが、市販薬のうち、副作用のリスクが最も高い第1類の薬は、そのほとんどが処方薬から市販薬に"スイッチ"してきたものです。副作用が起こる危険性は、ほかの市販薬よりも高いと考えられますから、より慎重に使わなくてはなりません。
スイッチOTC薬には、胃腸薬、アレルギー用薬、禁煙補助薬などがあります。2013年には、生活習慣病の分野にも、スイッチOTC薬が登場しました。