症状がおさまったら薬は中止してもいい? 薬を使うとき編 Vol.2

症状が軽くなってきたら薬の使用をやめたくなる気持ち。誰にでもありますよね。でもちょっと待って。医師の診察のもとで処方された薬の使用を自分の判断でやめると、いろいろとよくないことが生じる場合があります。その代表例は、病気の原因となる細菌やウイルスをやっつける抗菌薬や抗ウイルス薬の中止によるものです。

薬が効かなくなる「薬剤耐性」が心配

抗菌薬や抗ウイルス薬の使用を途中でやめてしまうと、退治しきれなかった細菌やウイルスのせいでまた具合が悪くなったり、ほかの人に病気をうつしてしまったりする可能性があります。

そのうえ恐ろしいことに、薬が効かない「薬剤耐性菌」や「薬剤耐性ウイルス」が増える原因にもなります。治療しきれなかった細菌やウイルスがなんとか自分の仲間を増やそうとして、みずからの構造の一部を薬が効かないように変化させて増殖するのです。このようにして生まれた薬剤耐性菌や薬剤耐性ウイルスが周囲の人たちに感染していくと……効く薬がなくて苦しむ人が増える、という大きな社会問題にもつながります。

ところが抗菌薬や抗ウイルス薬を「使い切る」ということの大切さを知らない人が多いようです。10代から60代の男女721人を対象に行った抗菌薬の利用に関する調査によると、約半数の人が処方された抗菌薬をのみ切っていませんでした。

ところが抗菌薬や抗ウイルス薬を「使い切る」ということの大切さを知らない人が多いようです。10代から60代の男女721人を対象に行った抗菌薬の利用に関する調査によると、約半数の人が処方された抗菌薬をのみ切っていませんでした。

出典:国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター:抗菌薬意識調査レポート
2018:2018年10月30日

つらい症状がなくなったとしても、細菌やウイルスの退治が終わったわけではありません。医師に指示された用法・用量を守り、決められた期間使い続ける必要があります。

薬を中止した反動で症状が悪化する「リバウンド現象」

抗菌薬や抗ウイルス薬以外にも、症状がおさまったからといって勝手にやめてはいけない薬は多々あります。薬のおかげで症状が抑えられていても病気が根本からよくなったわけではなく、薬の使用をやめたとたんに症状がぶり返すことがあるからです。

中学生のみなさんにはあまりなじみがないかもしれませんが、たとえば高血圧の薬。血圧が下がったからといって、薬の使用を急にやめてしまった反動で血圧が上がり、脳出血を起こすことがあります。

出典:日本製薬工業協会「くすりの情報Q&A55」より改変

このほか、胃の壁が傷ついて痛む胃かいようの薬の使用をやめたら薬で抑えていた胃酸の分泌がさかんになった刺激で胃かいようが再発する、アトピー性皮膚炎の治療に用いるステロイド軟膏の使用をやめたら皮膚の症状が悪化する……といったリバウンド現象があります。

薬はいつまで使い続けたらいいのか。その見極めは難しいものです。医師は患者の様子をよく観察し、症状がよくなったからといって急に薬の使用を中止するのではなく、徐々に量を減らしたり、弱い薬に変更したりしてリバウンド現象を防いでいます。だから薬は医師の指示通りの期間、用法・用量を守って使うようにしましょう。

症状がおさまったらやめていい薬もある?

一般的に市販薬は効き目がおだやかなため、リバウンド現象を心配する必要はほとんどありませんが、薬局・薬店で薬を購入するときは、いつまでのみ続ければいいかを薬剤師に相談しておくと安心です。

一方、使い続けなくてはならない期間というのがなく、症状がおさまったら使用をやめていい薬もあります。それは、今ある症状をやわらげて自然治癒力を助けるタイプの薬「とん服薬」です。具体的には、解熱鎮痛薬、下痢止め薬、便秘薬、睡眠薬、狭心症の発作を抑える薬などがあります。

症状がおさまったらやめていい薬か、やめてはいけない薬かを、常に意識して正しく薬を利用しましょう。

今回の「こまった!」 解決メモ

症状がなくなっても
使い続けなくてはならない薬がある。
自分の判断で薬の使用をやめないようにしよう。
気になる症状などがあり
薬の使用をやめたいときは、
医師・薬剤師に相談しよう。

- コラム -

風邪やインフルエンザに抗菌薬は効く?効かない?

風邪やインフルエンザに

抗菌薬は効く?効かない?

ほとんどの風邪とインフルエンザの原因は、細菌ではなくウイルスです。細菌とウイルスでは、大きさも構造も増える仕組みも違いますから、細菌を退治するように作られた抗菌薬はウイルスが原因の病気には効きません。

ところが、抗菌薬は風邪をはじめとする感染症全般に効果があると思っている人は、少なくないようです。医療関係者以外の3,390人が回答したアンケート調査では、抗菌薬はウイルスをやっつけると思っている人が約半数、風邪やインフルエンザに抗菌薬は効果的と答えた人は約4割という結果に。

出典:厚生労働科学研究費補助金平成 28 年度分担研究報告書:医療機関等における薬剤耐性菌の感染制御に関する研究:2017年5月18日

風邪には特効薬がなく、発熱や咳、喉の痛み、鼻水といった症状を抑える薬を必要に応じて使い、治るまで安静にしているのが基本。しかし、風邪で弱ったからだに忍び込んだ細菌によって肺炎などの細菌感染症を引き起こすことがあります。そのため、風邪に続く細菌感染症を防ぐために抗菌薬が使われてきたという歴史があり、「風邪をひいたら抗菌薬を処方してもらわなくては」という誤った認識が広がってしまったようです。

全国の診療所を対象に、抗菌薬を必要としない風邪の患者に抗菌薬を処方するかどうかについて調査した結果では、252の回答のうち「説明しても患者が納得しなければ処方する」という回答が約半数の127でした。調査を行った研究者らは、患者との関係や患者の満足度を考え、本来必要のない抗菌薬を処方することがあるようだと指摘しています。※1

むやみに抗菌薬を使うのは、副作用が心配なうえに薬剤耐性菌を増やす原因にもなります。
必要のない抗菌薬の使用は避けたいものですね。

※1 感染症学雑誌 93:289-97:2019

監修:加藤哲太(日本くすり教育研究所代表)