vol.2 すべての⼈が、栄養のある⼗分な⾷事を得るには?【目標2】


新型コロナウイルス流行で広がるハンガー・パンデミック

SDGs部員のAさん、Bさんと先生が、教室で給食の後片付けをしているよ。

A君、好き嫌いなく食べないとだめだよ。

ギクッ。

そうよ、世の中には食べたくても食べられない人がたくさんいるんだから。

世界では約11人に1人、6億9000万人もの人が飢餓状態にあるといわれているんだ。※1 世界の乳幼児の約4人に1人、1億5500万人が慢性的な栄養不良なんだよ。※2

そんなに! どこの国や地域で飢餓が深刻なのかな?

飢餓と聞くと、アフリカのイメージが強いかも知れないけど、アフガニスタンやインドといった南アジアもアフリカと同じくらい飢餓が深刻なんだよ。紛争に巻き込まれて家や仕事を失うことが主な原因といわれている。猛暑や干ばつ、洪水といった気候変動による異常気象の影響も大きく、途上国では農業の知識や技術の不足、環境汚染、輸送環境や貯蔵設備が整っていないことも問題だね。

気候変動による異常気象といえば、アフリカではサバクトビバッタが大発生して、畑の作物を食い荒らしているっていうニュースを見たよ。サイクロンによる大雨の影響で、エサとなる植物が増えたことが原因なんだって。甚大な農業被害をもたらしているみたいだし、何か対策はできないのかなあ。

対策として、環境保全を考慮した病害虫の防除体制が検討されているという記事を読んだよ。
それだけではなく、世界全体の気候変動をこれ以上進めないために、パリ協定*のもとで温室効果ガスの排出を抑える取り組みが多くの国や地域で進んでいるみたい。

農業分野でもいろんな取り組みが行われているよ。環境に負荷をかけない持続可能な農業の指導や、収穫量を上げる効率的な生産技術の開発、異常気象に強い品種の改良、自然環境に左右されない植物工場での栽培、自然災害の予測や対策とかね。
こうした取り組みによって、実は一時期、世界の飢餓人口は減りつつあったんだけど、2015年頃からまた増え始めているんだ。そこに新型コロナウイルスの流行がさらに追い打ちをかけている。失業者が増えたり、物流が滞って食べ物の価格が上がったりしたことで、都市部を中心に「ハンガー・パンデミック(飢餓の世界的大流行)」が起きているんだ。国連WFP(世界食糧計画)は、世界の飢餓をなくすことを目標に、88カ国で毎年約1億人に食糧支援をしてきたんだけど、今年は過去最大となる1億3800万人まで支援の規模を拡大した。※3 それでもまだ足りていないのが現状なんだ。

2020年に国連WFPがノーベル平和賞を受賞したことには、そんな背景もあったのね。

※1 ハンガー・フリー・ワールド 飢餓とは
https://www.hungerfree.net/hunger/whtshunger

※2 ユニセフ 各地域における慢性栄養不良の子どもの割合
https://www.unicef.or.jp/special/18sum/

※3 国連WFP 2020年6月29日ニュースリリース
https://ja.wfp.org/news/world-food-programme-assist-largest-number-hungry-people-ever-coronavirus-devastates-poor

* 2015年、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定。途上国を含めたすべての参加国に対し温室効果ガス排出削減・抑制目標の設定を求めている。

日本でも深刻! 子どもの貧困と栄養不足

食べ物であふれているように見える日本にも、実は飢餓は存在するんだよ。

えっ、日本人の暮らしは世界の中でもかなり豊かな方なんじゃないの?

住む家があって仕事もしているけれども、家族の収入金額が日本の全世帯の収入金額の中間値の半分未満である状態を「相対的貧困」というんだ。日本の相対的貧困の割合は全体の約15.4%、17歳以下の子どもの貧困率は13.5%※1で、この割合はOECD加盟国の平均よりも高いんだよ。※2
相対的貧困の家庭は、一見不自由なく社会生活を送っているように見えても、生活を維持するためにギリギリの生活を強いられていて、食費を削っていることも多いから、栄養不足に陥りやすいんだ。朝食を抜いたり、カップ麺や菓子パンで食事を済ませたりしている子どもも多いんだよ。

そんな食事じゃすぐにお腹が空いちゃうね。勉強に集中できないし、部活で思いっきり体を動かすこともできないだろうな。

僕なんて3食ガッツリ食べて、おやつや夜食を食べても、まだお腹が空くよ。成長期はすごくたくさん栄養を必要とするらしい。

そうだね。成長期に栄養が不足すると発育や学習に遅れが出たり、免疫が落ちて病気にかかりやすくなったりすることも懸念される。だから、貧困家庭の子どもたちの健康状態が心配されているんだ。

給食はしっかり栄養をとれるチャンスなんだね。新型コロナウイルスの影響で休校になった期間中や長期休みの間はつらかっただろうな。

自治体によっては、休校期間中も希望者に食材や弁当を配ってサポートを続けたところがあったみたいだね。地域のボランティアが子どもたちのために食事を提供する「子ども食堂」も全国で増えているけど、やはりコロナの影響で一時閉鎖してしまったり、弁当の配布に切り替えたりする動きがあったらしい。

「フードバンク」っていうのも聞いたことがあるけど……

フードバンクは、包装に傷がついたり印字ミスがあったりして流通に出すことができない商品を企業から寄付してもらい、必要としている人に無償で配る取り組みだよ。

中身は問題ないのに捨てちゃうのはもったいないもんね。

まだ食べられる食品を捨ててしまう「食品ロス」は今、世界中で大きな問題になっていて、日本でも年間612万トンもの食べ物が廃棄されている。それは日本国民全員が毎日お茶碗約1杯分を捨てている量に相当するんだ。※3

そんなに⁉ でも、私の家でも買っておいたのを忘れて食材の消費期限が過ぎてしまうことや、食べ残しを捨てちゃうことがよくあるな。毎日お腹を空かせて苦しんでいる人がいるのに、それってやっぱりおかしいよね。

※1 厚生労働省 2019年 国民生活基礎調査の概況「II 各種世帯の所得等の状況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/03.pdf

※2 OECD 「経済審査報告書 日本 2017年」概要
https://www.oecd.org/economy/surveys/Japan-2017-OECD-economic-survey-overview-japanese.pdf

※3 消費者庁 「食品ロス削減関係参考資料(2020年11月30日)」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/efforts/assets/efforts_201130_0001.pdf

SDGsの目標2と私たちにできること

飢餓は途上国だけの問題じゃないということがわかったかな。
SDGsの目標2でも「飢餓をゼロに」というゴールを掲げて、世界中の誰もが栄養のある十分な食事を得られる社会を目指しているんだよ。

  • 飢餓をゼロに
  • SDGsの目標2

    「飢餓を終わらせ、食料の安定確保と栄養状態の
    改善を実現し、持続可能な農業を促進する」

    「SDGsとターゲット新訳」製作委員会 「SDGsとターゲット新訳」(目標2 飢餓をゼロに)

「SDGsとターゲット新訳」製作委員会 「SDGsとターゲット新訳」(目標2 飢餓をゼロに)

ターゲット

2.1
2030年までに、飢餓をなくし、すべての人々、特に貧困層や乳幼児を含む状況の変化の影響を受けやすい人々が、安全で栄養のある十分な食料を一年を通して得られるようにする。
2.2
2030年までに、あらゆる形態の栄養不良を解消し、成長期の女子、妊婦・授乳婦、高齢者の栄養ニーズに対処する。2025年までに5歳未満の子どもの発育阻害や消耗性疾患について国際的に合意した目標を達成する。
2.3
2030年までに、土地、その他の生産資源や投入財、知識、金融サービス、市場、高付加価値化や農業以外の就業の機会に確実・平等にアクセスできるようにすることなどにより、小規模食料生産者、特に女性や先住民、家族経営の農家・牧畜家・漁家の生産性と所得を倍増させる。
2.4
2030年までに、持続可能な食料生産システムを確立し、レジリエントな農業を実践する。そのような農業は、生産性の向上や生産量の増大、生態系の維持につながり、気候変動や異常気象、干ばつ、洪水やその他の災害への適応能力を向上させ、着実に土地と土壌の質を改善する。
2.5
2020年までに、国、地域、国際レベルで適正に管理・多様化された種子・植物バンクなどを通じて、種子、栽培植物、家畜やその近縁野生種の遺伝的多様性を維持し、国際的合意にもとづき、遺伝資源やそれに関連する伝統的な知識の利用と、利用から生じる利益の公正・公平な配分を促進する。
2.a
開発途上国、特に後発開発途上国の農業生産能力を高めるため、国際協力の強化などを通じて、農村インフラ、農業研究・普及サービス、技術開発、植物・家畜の遺伝子バンクへの投資を拡大する。
2.b
ドーハ開発ラウンド*1の決議に従い、あらゆる形態の農産物輸出補助金と、同等の効果がある輸出措置を並行して撤廃することなどを通じて、世界の農産物市場における貿易制限やひずみを是正・防止する。
2.c
食料価格の極端な変動に歯止めをかけるため、食品市場やデリバティブ*2市場が適正に機能するように対策を取り、食料備蓄などの市場情報がタイムリーに入手できるようにする。

https://xsdg.jp/pdf/SDGs169TARGETS_200717.pdf/#page=3をもとに作成
*1 2001年11月のドーハ閣僚会議で開始が決定された、世界貿易機関(WTO)発足後初となるラウンドのこと。
*2 株式、債券、為替などの元になる金融商品(原資産)から派生して誕生した金融商品のこと。

世界だけではなく、日本にも食糧や飢餓の課題があるって知らなかった。目標2を達成するために、私に何かできることはあるかしら?

そのことに気がつけただけでも、大きな収穫だよね。貧困や飢餓の問題を解決するための取り組みを行っている企業や団体はたくさんあるから、まずはそうしたところを知ることから始めてみてはどうかな。
利用するだけで自動的に支援につながる商品・サービスもあるし、学生が気軽に参加できる支援のためのイベントも開催されているよ。

そういえば、ドリンクを買うと自動で支援活動に寄付される「ハンガーゼロ自販機*3」を見かけたことがある! 今度見つけたら、積極的に利用してみようかな。

*3 自動販売機の売上の一部(1本当たり10円)が、飢餓と貧困に苦しむアフリカの人々を助ける「飢餓のない世界“ハンガー・ゼロ(Hunger Zero)”」を目指す活動に用いられる。

発見! SDGsチャレンジャー 世界の食糧問題について考えるプレゼンテーション大会を企画創志学園高等学校

10月16日「世界食料デー」は、国連が定めた世界の食糧問題を考える日です。世界各地で国際会議やイベントが行われる中、2020年10月25日、岡山県で県内の高校生によるプレゼンテーション大会が開催されました。

主催したのは創志学園高等学校2年生の齊藤来実さんを実行委員長とする、16名の生徒たち。1年生の時、授業を通じて飢餓の問題に関心をもった齊藤さんは、この問題をさらに深く掘り下げたい、また多くの人から意見を集めて、皆で解決に向けて考えていきたいと思い、今回のイベントを企画しました。

「飢餓をゼロにするための取り組みについて」というテーマの下、オンラインで開かれたこの大会には、県内の13の学校・団体と神戸からのゲスト校を含む計14チームが参加しました。
フェアトレードについて取り上げたチーム、食べることの尊さを訴えたチーム、子ども食堂を通じて自分たちにできることを考えたチームなど、発表内容は多岐にわたりました。一つとして同じ意見がなく、飢餓の解決に向けていろんな取り組み方ができることがよくわかったと、齊藤さんは当日を振り返ります。
「来年以降もこのイベントが継続していくことで、岡山だけでなく全国の高校生に飢餓の問題を考えてもらえたらうれしいです」

※掲載情報は2021年3月現在のものです。

SDGs目標2 「飢餓をゼロに」に関する住友ファーマの取り組み 開発途上国の子どもたちに給食を届ける「TFT」の活動に参加

  • 住友ファーマはTABLE FOR TWO(以下、TFT)の活動に賛同し、2012年10月から参加しています。TFTは、世界規模で起きている食の不均衡を解消し、開発途上国と先進国双方の人々の健康を同時に改善することを目指し、活動している団体です。

    当社では、大阪本社、東京本社、総合研究所、鈴鹿工場の各社員食堂でTFTメニューとして提供される「ヘルシーメニュー(肥満や生活習慣病予防のためにカロリーを抑えた定食や食品)」を食べることにより、1食につき20円の寄付金が特定非営利活動法人TFT Internationalを通じて、開発途上国の子どもたちの学校給食の費用として寄付されます。
    この20円は、開発途上国の給食1食分の金額です。つまり、先進国で1食とるごとに開発途上国に1食が贈られるという仕組みになっています。
    2020年度はCOVID-19の影響で、当社でも在宅勤務が推奨され、社員食堂の利用者が減少し、TFTメニューを中止せざるを得ない状況に至っているところもあります。こうした状況でも支援を継続するために、2021年4月からTFTへマッチング(会社と役員・従業員からの寄付を合算する)寄付を行うことになりました。多くの社員が身近に感じられる国際貢献について、これからも検討していきます。

  • 大阪本社 社員食堂のTFTメニュー
    ※メニュー見本のため、ご飯は盛り付けていません。

    TFT事務局よりいただいた感謝状

監修:蟹江憲史(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)