

vol.3 すべての⼈が、体と心の健康を手に入れるには?【目標3】

オンラインミーティングにもだいぶ慣れてきたよね。直接会えないのはさみしいけど、便利なツールがあってよかったな。
私のお父さんも1年以上テレワークが続いているよ。ずっと座りっぱなしで一歩も外に出ない日があるから、すっかり運動不足みたい。
うちも! まだまだ油断できない状況だけど、ワクチンの接種が進んでいる国では、感染拡大前の暮らしを取り戻しつつあるみたいだね。
人類はこれまでもいろんな感染症の脅威にさらされてきたけど、ワクチンの開発や普及によって、危機を乗り越えてきたからね。
新型コロナウイルスの流行をきっかけに、自分や家族の健康について考えることが増えたかも。
感染症にも注意が必要だけど、「非感染性疾患」といわれる感染症以外の病気で亡くなる人も年々増えているんだよ。世界の死因の約7割を占めていて、なかでも心筋梗塞や心不全などの心血管疾患や、がん、喘息などの呼吸器疾患、糖尿病が多いんだ。※1 遺伝や環境も要因ではあるけれど、タバコやお酒、運動不足や偏った食事といった、生活習慣の影響が大きいといわれている。
タバコにお酒に運動不足……うちのお父さんも心配だな。
これまで、非感染性疾患は先進国特有の課題だと考えられてきたけど、急激な都市化やライフスタイルのグローバル化によって、途上国でも増えているんだよ。
都市化が進むと、オフィスワークや便利な交通手段が普及して運動不足になったり、排気ガスの影響で喘息などの健康被害が増えたりするのは想像できるけど、グローバル化はどんな関係があるんだろう?
ライフスタイルのグローバル化か……食べ物で考えると、ハンバーガーやスナック類は世界中で食べられているね。
そうだね。今や世界中に普及しているファストフードやスナック類、インスタント食品などは安くて手軽だから、若い世代を中心にどの国でも人気があるけど、高カロリーだし栄養バランスが偏りがちだよね。君たちも食べ過ぎには気を付けないと。
うーん、でも僕やうちの家族はまだそういう病気にかかるような年齢じゃないし、大丈夫じゃないかなぁ。
心筋梗塞やがん、糖尿病と聞くと、年配の人の病気と思うかもしれないけど、30~60代で早くに亡くなる人も増えているんだよ。非感染性疾患による世界の死者4100万人のうち、1500万人以上が30~69歳で早期死亡している。そして、そのうちの85%は低中所得国で起こっていることなんだ。※1
非感染性疾患は先進国・途上国を問わず、あらゆる世代で問題になっているんだね。
※1 WHO 非感染性疾患
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/noncommunicable-diseases
体だけじゃなく心の健康も大切だよね。でもここ数年、心の病に苦しむ人は増えているってニュースで言ってたな。
心の病、つまり精神疾患にもいろいろあるんだよね。親戚が病院に通っていて、調べたことがあるの。つらく悲しい気持ちが続く「うつ病」などの「気分障害」や、日常生活に支障をきたすほど不安や心配の気持ちが強くなってしまう「不安障害」、幻覚や幻聴、妄想が現われる「統合失調症」が特に多いみたい。他にも、拒食や過食といった「摂食障害」や、アルコールや薬物など特定のものをやめられなくなる「依存症」も精神疾患に含まれるんだって。
精神疾患は、5人に1人が生涯に一度は経験するといわれているくらい身近な病気 ※1 だし、だれでもかかる可能性があるものなんだ。適切な治療を受けて快方に向かう人もいれば、悲しいことに、精神的に追いつめられて自殺を選んでしまう人もいる。
自殺かぁ……。なんとなく、ストレスが多そうな先進国の大都市で起こるイメージがあるかな。
そうとも限らないよ。2016年時点で、世界の自殺の約8割は低中所得国で発生している。 ※2 自殺は国の所得にかかわらず、世界中で起きている問題なんだ。そして、実は日本の自殺による死亡率は2015年時点で10万人あたり18.5人と、G7(主要先進7か国)の中では一番高い。※3 もっとも、近年は低下傾向が続いていたんだけど、今回のコロナ禍で、さらに自殺者の人数が増加したといわれているんだ。
コロナ禍で仕事を失った女性や孤立した子どもの自殺が増えているというニュースを見たよ。去年1年間に起きた18歳以下の子どもの自殺は今までで一番多かったみたい。※4
同世代の子たちが自ら死を選んでしまうなんて、ショックだな。
※1 厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/first/first01.html
※2 WHO 自殺
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/suicide
※3 厚生労働省 自殺の現状(2018)
https://www.mhlw.go.jp/content/r1h-1-10.pdf
※4 文部科学省 「コロナ禍における児童生徒の自殺等に関する現状について」
https://www.mext.go.jp/content/20210216-mxt_jidou01-000012837_003.pdf
こうした課題に対して、SDGsでは目標3「すべての人に健康と福祉を」というゴールを設定しているんだ。2030年までに、予防と治療を通じて非感染性疾患による早期死亡率を3分の1減らし、心の健康を守ることも目標にしている。
「あらゆる年齢のすべての人々の
健康的な
生活を確実にし、福祉を推進する」「SDGsとターゲット新訳」製作委員会 「SDGsとターゲット新訳」(目標3 すべての人に健康と福祉を)
「SDGsとターゲット新訳」製作委員会 「SDGsとターゲット新訳」(目標3 すべての人に健康と福祉を)
■ ターゲット
- 3.1
- 2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人あたり70人未満にまで下げる。
- 3.2
- 2030年までに、すべての国々が、新生児の死亡率を出生1000人あたり12人以下に、5歳未満児の死亡率を出生1000人あたり25人以下に下げることを目指し、新生児と5歳未満児の防ぐことができる死亡をなくす。
- 3.3
- 2030年までに、エイズ、結核、マラリア、顧みられない熱帯病 ※1 といった感染症を根絶し、肝炎、水系感染症、その他の感染症に立ち向かう。
- 3.4
- 2030年までに、非感染性疾患による早期死亡率を予防や治療により3分の1減らし、心の健康と福祉を推進する。
- 3.5
- 麻薬・薬物乱用や有害なアルコール摂取の防止や治療を強化する。
- 3.6
- 2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者の数を半分に減らす。
- 3.7
- 2030年までに、家族計画や情報・教育を含む性と生殖に関する保健サービスをすべての人々が確実に利用できるようにし、性と生殖に関する健康(リプロダクティブ・ヘルス)を国家戦略・計画に確実に組み入れる。
- 3.8
- すべての人々が、経済的リスクに対する保護、質が高く不可欠な保健サービスや、安全・効果的で質が高く安価な必須医薬品やワクチンを利用できるようになることを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)※2 を達成する。
- 3.9
- 2030年までに、有害化学物質や大気・水質・土壌の汚染による死亡や疾病の数を大幅に減らす。
- 3.a
- すべての国々で適切に、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の実施を強化する。
- 3.b
- おもに開発途上国に影響を及ぼす感染性や非感染性疾患のワクチンや医薬品の研究開発を支援する。また、「TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)と公衆の健康に関するドーハ宣言」に従い、安価な必須医薬品やワクチンが利用できるようにする。同宣言は、公衆衛生を保護し、特にすべての人々が医薬品を利用できるようにするために「TRIPS協定」の柔軟性に関する規定を最大限に行使する開発途上国の権利を認めるものである。
- 3.c
- 開発途上国、特に後発開発途上国や小島嶼開発途上国で、保健財政や、保健人材の採用、能力開発、訓練、定着を大幅に拡大する。
- 3.d
- すべての国々、特に開発途上国で、国内および世界で発生する健康リスクの早期警告やリスク軽減・管理のための能力を強化する。
https://xsdg.jp/pdf/SDGs169TARGETS_200717.pdf/#page=4をもとに作成
*1 顧みられない熱帯病:おもに熱帯地域で蔓延する寄生虫や細菌感染症のこと。
*2 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC):すべての人々が、基礎的な保健サービスを必要なときに
負担可能な費用で受けられること。
非感染性疾患は生活習慣を改善することで予防できるし、早期から治療すれば治すこともできるんだよね。
多くの人が健康的な暮らしを送るためには、公的機関による教育や啓発活動、定期健診の実施やワクチンの推奨などの施策も大切だね。一度病気になると、今までのように働けなくなって、医療費のために生活が苦しくなることもある。非感染性疾患の予防や早期治療を進めることは、国としての経済成長にもつながると考えられているんだ。世界にはアルコールの広告を制限したり、喫煙の禁止などを法律で整備したりしている国もあるんだよ。
健康でいるためには毎日の心がけが大切だけど、バランスのとれた食事や適度な運動って、当たり前のようでいてできていない人は意外と多いんじゃないかな。私もお父さんに、もっと体を動かして、健康診断も必ず毎年受けるよう言ってみようっと。
僕は精神疾患って身近な病気だと思っていなかったけど、誰でもかかりうるものなんだね。正しい知識を持っていれば、自分自身の心の異変に気付けるし、周りの人もサポートできるかもしれないな。
そうだね。支援が必要な人には地方自治体や公的機関によるサポートも不可欠だから、利用できる制度や施設を知っておくだけでも、いざというときの助けになるはずだよ。
精神疾患が疑われる人の多くは、無意識に少しずつサインを出しているみたいなの。そのサインがどんなものかを知っていると、早めに周りの人が気づいて、病院に相談することもできるよね。
君たちも友達関係や家族関係、進路のことで悩むことがあるだろうけど、悩みを一人で抱え込まないでほしいな。身近な人に話しづらければ、専門機関に電話をしてみてもいい。誰かに話すだけで心が軽くなることが、きっとあるはずだから。好きな音楽を聴いたり、映画を観たり、体を動かしたりと、自分に合った気分転換の仕方や、ストレスと上手に付き合っていく方法も見つけられるといいね。
日本人の2人に1人がかかる※1 といわれている、がん。年齢が上がるほどがんにかかる確率は高まりますが、19歳以下でがんと診断される数は、年間約3000例もあります※2。現在大学1年生の中村航大さんも、その1人でした。小学2年生の時に脳腫瘍を患い、中学2年生で再発。化学療法や放射線治療を受けながら入院生活を送りました。そんな自らの経験を糧に、中村さんが中学3年生の時に立ち上げたのが、がん哲学外来 メディカルカフェ「どあらっこ」です。
「がん哲学外来 メディカルカフェ」は、がん患者やがん経験者、その家族が集い、様々な思いや悩みを共有できる場で、全国約180カ所で開催されています。その提唱者である順天堂大学名誉教授・樋野興夫さんから直々に勧められたことが活動を始めるきっかけとなりました。
「小児がんは事例が少なく、治療法も定まっていません。自分の病気についてよくわからないままつらい治療を続けている人も多くいます」と話す中村さん。がんについて正しく理解し、同世代の子ども同士で気軽に話せる場を作りたいという思いで、クリニックを借りてカフェや勉強会を開催したり、小学校で出張授業を行ったりしています。「がんという病気に対して前向きなイメージを持ってもらえたら」。がんを特別視しないポジティブな姿勢と人懐こいキャラクターで、参加者に笑顔の輪を広げています。
※1 国立がん研究センター がん情報サービス 最新がん統計
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
※2 国立がん研究センター がん情報サービス 小児・AYA世代のがん罹患
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/child_aya.html

がん哲学外来 メディカルカフェ「どあらっこ」
公式HP:https://doarakko2017.wixsite.com/main
お申し込み・問い合わせ:kodai.n2002@outlook.jp
※掲載情報は2021年8月現在のものです。
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現在、日本でも、メンタルヘルス(心の健康)は重要な課題のひとつです。統合失調症やうつ病などの精神疾患は珍しい病気ではなく、誰もがかかる可能性があります。住友ファーマはそのような精神疾患に対して、医薬品を提供するだけでなく、疾患への理解を深めていただくための啓発や情報発信も行っています。統合失調症と双極性障害に関する情報サイト「こころ・シェア」は、患者さんだけではなくご家族の皆さんにも各疾患をわかりやすく学んでいただけるウェブサイトです。当事者の方の経験や声を共有することで、困りごとの解決や安心・共感につなげていただけることを目指しています。
また、2019年4月に事業を開始した当社の特例子会社「ココワ―ク」では、精神疾患の患者さんの就労や社会復帰の支援などを行っています。事業内容は、フリルレタスやルッコラ、スイスチャードなどの葉物野菜の水耕栽培および販売です。当社では特例子会社「ココワ―ク」の取り組みを推進し、精神疾患領域の社会的課題の解決に向けて取り組んでいます。
統合失調症と双極性障害に関する情報サイト
「こころ・シェア」
https://kokoro-share.jp/
また、2019年4月に事業を開始した当社の特例子会社「ココワ―ク」では、精神疾患の患者さんの就労や社会復帰の支援などを行っています。事業内容は、フリルレタスやルッコラ、スイスチャードなどの葉物野菜の水耕栽培および販売です。当社では特例子会社「ココワ―ク」の取り組みを推進し、精神疾患領域の社会的課題の解決に向けて取り組んでいます。

「ココワ―ク」の皆さん
監修:蟹江憲史(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)