vol.6 国内外の貧困を終わらせるには?
【目標1】


さまざまな社会課題と繋がっている途上国の貧困

SDGs部のAさんと先生が、なんだかしょんぼりしているよ。

あ~あ、いつも食べてるアイスが値上がりしちゃったよ。

先生が休みの日に買う弁当もだよ。異常気象で穀物の不作が続いているし、原油の高騰やコロナ禍、ロシア・ウクライナ情勢の影響もあって、食品の値上げが止まらないね。

お母さんもスーパーでため息をついてたよ。

これは日本だけじゃなくて、世界的に起きていることなんだ。

もともと貧しい国の人たちには、さらに苦しい状況だね。

貧困層は家計に占める食費の割合が大きいからね。コロナ流行前の時点で、すでに世界の子どもの約6人に1人にあたる3億5600万人の子どもたちが極度の貧困状態に置かれているんだ。※1その状況がさらに悪化してしまうということだね。

Vol.2でも話したけど、必要最小限の水や食べ物を得られない子どもたちが世界にはたくさんいるんだよね。

病気になっても適切な医療を受けられない子や、学校に行けない子もいるね。

子どもたちの中には、貧困の影響で大人と同じような過酷な労働を強いられたり、無理やり結婚させられたりする子もいるみたい。

アフリカや南アジアは特に貧困の人が多いんでしょ?

そう、世界の極度の貧困層の約8割がその地域に集中しているんだ。どうしてだと思う?

う~ん……アフリカは紛争や内戦が多い地域だよね。巻き込まれたら仕事も住む場所も失っちゃう。

アフリカや南アジアは干ばつも深刻だよね。なのに極端な大雨で洪水が起きたりもしてる。農業で暮らしている人たちが多い地域なのに、安定して作物が取れなければ生活できないよ。

前回Vol.5でも話したけど、干ばつとか洪水みたいな自然災害や農業被害は、温暖化が進むと、今後ますます増えていきそうだよね。

異常気象による災害で貧困に陥る人も年間2600万人にのぼるんだよ。気候変動への対策を怠れば、2030年には6800万人~1億3200万人に増えると言われている。※2

それはなんとかしないと……。

南アジアは身分制度やジェンダー格差も根強い地域なんだ。経済は急成長してもその格差によって
十分な教育を受けられず、貧困から抜け出せないことも問題になっているんだよ。

貧困って、いろんな問題と繋がっているんだね。

※1  日本ユニセフ協会 「子ども6人に1人が極度の貧困で暮らす ユニセフと世界銀行による分析」
https://www.unicef.or.jp/news/2020/0223.html
極度の貧困……国際基準で、1日1.90米ドル未満で生活している状況

※2 世界銀行(2016年時点のデータ)
https://www.worldbank.org/ja/news/press-release/2016/11/14/natural-disasters-force-26-million-people-into-poverty-and-cost-520bn-in-losses-every-year-new-world-bank-analysis-finds

7人に1人の子どもが陥る日本の相対的貧困

貧困は途上国だけの話じゃないんだよ。必要最低限の水や食料を得られず、生きていくことすら困難な「絶対的貧困」に対して、先進国では「相対的貧困」が問題になっている。

「相対的貧困」って、その国の標準的な暮らしぶりと比べて貧しい状況のことだっけ?

そう。日本では約15%の人が該当すると言われているよ。※1住む家もあって、仕事もしているけれど相対的貧困に該当する人もいるんだ。

子どもの7人に1人が貧困だって聞いたよ。※2

貧困は非正規雇用で働いている人に多いんだ。特に女性は非正規雇用の割合が高くて、母子家庭の約半分が相対的貧困というデータもある。※2 ※3コロナ禍で職を失ったり収入が減ったりして、さらに生活が苦しくなった家庭もたくさんあるんだよ。

毎日学校に通えていても、3食しっかり食べられなかったり、背が伸びても新しい服を買ってもらえなかったりするんだね。

栄養が足りないと成長にも影響するし、健康も維持できないよね。

病院で診てもらうのにもお金がかかるから、虫歯やケガや体調不良をそのままにしてしまうこともありそうだね。

塾や習い事に行けなかったり、進学を諦めたりする人もいるんじゃないかな。

そうすると、職業選択の幅も狭まるよね。安定した仕事に就けないと、いつまでも貧困から抜け出せないな。

その通り。学力格差は将来の所得格差に繋がりやすいんだ。そうやって貧困は親から子へと連鎖して、格差が広がったまま固定化してしまうこともあるんだ。

そんなの、生まれた時から自分の将来が決められているみたいで悲しすぎるよ。

※1  厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/14.pdf

※2  内閣府「国における子供の貧困対策の取組について」
https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/forum/h29/pdf/fukuoka/naikakufu.pdf

※3 国税庁「平成29年分民間給与実態統計調査結果について」
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2018/minkan/index.htm

*非正規雇用:臨時社員や派遣社員、契約社員、パートタイマーやアルバイトといった雇用形態の労働者。

SDGsの目標1と私たちにできること

貧困って、個人や家族だけの問題じゃないんだね。自然災害とか紛争とか男女格差とか、それぞれの国や社会が抱えているいろんな問題のしわ寄せのような気がする。

SDGsの目標1「貧困をなくそう」でも、社会の仕組みを変えたり、災害対策や支援体制を整えたりすることで貧困を減らしていこうと訴えているんだ。国や社会全体で取り組むべき課題なんだね。

  • 1 貧困をなくそう
  • SDGsの目標 1

    あらゆる場所で、
    あらゆる形態の貧困を終わらせる

ターゲット

1.1
2030年までに、現在のところ1日1.25ドル未満で生活する人々と定められている、極度の貧困※1をあらゆる場所で終わらせる。
1.2
2030年までに、各国で定められたあらゆる面で貧困状態にある全年齢の男女・子どもの割合を少なくとも半減させる。
1.3
すべての人々に対し、最低限の生活水準の達成を含む適切な社会保護制度や対策を各国で実施し、2030年までに貧困層や弱い立場にある人々に対し十分な保護を達成する。
1.4
2030年までに、すべての男女、特に貧困層や弱い立場にある人々が、経済的資源に対する平等の権利がもてるようにするとともに、基礎的サービス、土地やその他の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適正な新技術※2、マイクロファイナンスを含む金融サービスが利用できるようにする。
1.5
2030年までに、貧困層や状況の変化の影響を受けやすい人々のレジリエンス※3 を高め、極端な気候現象やその他の経済、社会、環境的な打撃や災難に見舞われたり被害を受けたりする危険度を小さくする。
1.a
あらゆる面での貧困を終わらせるための計画や政策の実施を目指して、開発途上国、特に後発開発途上国に対して適切で予測可能な手段を提供するため、開発協力の強化などを通じ、さまざまな供給源から相当量の資源を確実に動員する。
1.b
貧困をなくす取り組みへの投資拡大を支援するため、貧困層やジェンダーを十分勘案した開発戦略にもとづく適正な政策枠組みを、国、地域、国際レベルでつくりだす。

https://xsdg.jp/pdf/SDGs169TARGETS_200717.pdf/#page=2をもとに作成
※1 極度の貧困の定義は、 2015 年 10 月に 1 日 1.90 ドル未満に修正されている。
※2 適正技術:技術が適用される国・地域の経済的・社会的・文化的な環境や条件、ニーズに合致した技術のこと。
※3 レジリエンス:回復力、立ち直る力、復元力、耐性、しなやかな強さなどを意味する。

私たちにできることって、何があるのかな?

文房具や服を途上国に寄付する活動には一度参加したことがあるよ。

いい取り組みだね。君たちは「フェアトレード」については知っているかな? 

認証ラベルがついたチョコレートを見たことがあるよ。

直訳すると「公平・公正な貿易」という意味だね。
実は、先進国で安く物を販売するために、途上国では労働者を不当に安い賃金で雇ったり、劣悪な条件で働かせたりしていることがあるんだ。製造過程で汚染された水や廃棄物の処理を怠ったり、大量の農薬や化学肥料を使ったりすることで土壌が汚染され、環境破壊が進んでいる地域もあるんだよ。

先進国の消費者のために、途上国の人たちの生活や環境が悪くなるのは、「公平」とは言えないね。

そうだね。「フェアトレード」は、途上国の生産者の暮らしを向上させるために、商品を適正な価格で、継続的に売買する取り組みのことなんだよ。

フェアトレードラベルのついた商品を買うことは、途上国の貧困を減らす支援になるんだね。

僕も今度そのラベルを探してみよう。

日本の中の貧困に対しては、どんなことができそうかな?

そういえば家の近くに、無料で食事を提供してくれる「子ども食堂」があって、集まった子どもたちにボランティアの高校生や大学生が勉強を教えているって聞いたよ。

塾に行けない子どもたちにとっては貴重な場所だね。他には、そうだな……。

まずは貧困について知ることも大切だと思うよ。

確かに! 私は貧困ってどこか他人事だと思っていたけど、相対的貧困のことを知って、もっと身近な問題として考えなくちゃって思った。それに、今は生活に困っていなくても、事故や震災で突然親を亡くしてしまうことだってある。いつ自分が貧困になってもおかしくないんだよね。

僕も、当たり前だと思っていたことが、実は当たり前じゃないんだって気づいたよ。

貧困についてちゃんと理解すれば、いじめや偏見も減らしていけるかもしれないね。困っている人が身近にいるかもしれないということを意識することも大切だね。

(参考)
フェアトレード・ジャパン
https://www.fairtrade-jp.org/

発見! SDGsチャレンジャー “ナナメの関係”だからこそ、できることがある子どもたちがリラックスできる第3の居場所を提供 My Own Place 中村まな美さん(学生代表)、武生梨沙さん(広報担当)

現在、5大学約20名のメンバーが参加する学生団体「My Own Place(通称MOP)」は、神奈川県藤沢市にある東勝寺を拠点に、子どもの居場所づくりを行っています。「貧困家庭の子どもを支援したい」という想いで、SNS等で仲間を募り、2016年に設立。「成長過程の子どもに愛を届けたい」という活動理念のもと、東勝寺の住職や檀家、勉強会で出会った藤沢市役所の職員などの協力を得て、貧困家庭のみならず、不登校の子どもや休日の居場所を求める子どもたちへの支援を続けてきました。「湘南台MOP HOME寺子屋」では、高校生以下の子どもに食事を無料提供するほか、家庭環境を理由に進学を諦めてほしくないという想いのもと、学習指導・奨学金の利用方法を伝える活動も行っています。

居場所を開放しているのは毎月第2・第4土曜日の午後。集まった小中学生は、メンバーの大学生とゲームや外遊びをしたり、勉強をしたり、それぞれ自由な時間を過ごします。そして夕方になると一緒に食事を作り、皆で食卓を囲みます。

中には、他愛ないおしゃべりの合間にふと、抱え込んだ悩みを打ち明ける子も。「親でも先生でも友達でもない、ナナメの関係だからこそ話しやすいのかもしれません」と中村さん。気がかりな様子や発言があれば、終了後にメンバー間で共有しますが、「置かれている状況に過度に問題意識を抱き、特別視するのは違うような気がしています。思いをしっかり受け止めつつ、その子自身の個性に向き合っていきたい」と言います。

武生さんは、子どもたちの成長に驚きややりがいを感じているそうです。また、子どもたちと接する中で、自分の視野や価値観の広がりも実感していると話します。「集まってくる子どもたちがいる限り、共に過ごし、育ち合えるこの場所が続いていけるよう、運営をしっかり後輩に引き継いでいきたいと思います」

  • みんなで人狼ゲーム♪

    みんなで人狼ゲーム。
    誰が人狼か探り合っているところです。

  • お勉強中

    大学生が子どもたちにアドバイスをしています。

  • 食事の時間

    大学生はできるだけ子どもの隣か正面に
    いるようにしています。

SDGs目標1 「貧困をなくそう」に関する住友ファーマの取り組み 子ども食堂に新鮮な野菜を届けて地域の子どもたちの成長を支援

  • 住友ファーマは、生活困窮世帯における子どもたちの健全な成長に役立てていただきたいという想いで、社会貢献活動の一環として、精神疾患の患者さんの就労や社会復帰を支援する当社の特例子会社「株式会社ココワーク(以下、ココワーク)」で育てた野菜を、地域の子ども食堂等(豊中市、吹田市)へ提供する取り組みを行っています。
    子ども食堂は子どもの孤食を防ぎ、地域での居場所を作ることなどを目的に開催されていますが、限られた予算の中で食事を提供するため、食材の確保に苦労している子ども食堂が多いという実情があります。さまざまな理由により、野菜を購入する金銭的な余裕がないご家庭に対し、ココワークの新鮮な野菜を通じて子どもたちの健全な成長を支援するとともに、野菜が苦手な子どもたちには新鮮な野菜を食べてもらい、野菜のおいしさも伝えたいと考えました。

    また、当社から提供したココワークの野菜は子ども食堂のみならず、支援が必要な子どものいるご家庭へ直接お弁当を届ける、豊中市のこども見守り宅食モデル事業のお弁当にも使われています。宅食をきっかけに、不登校だった子どもが学校に行けるようになったり、福祉サービスを利用するようになったりとさまざまなつながりも生まれ、ココワークの野菜が、そのつながりを生む手段としても有効な「食」の一助となっています。

  • 家庭へ直接お弁当を届ける、豊中市のこども見守り宅食モデル事業のお弁当にも使われています。宅食をきっかけに、不登校だった子どもが学校に行けるようになったり、福祉サービスを利用するようになったりとさまざまなつながりも生まれ、ココワークの野菜が、そのつながりを生む手段としても有効な「食」の一助となっています。

    当社は今後も地域の子どもたちのための取り組みを支援していきたいと考えています。

    食事の時間

    ココワークの野菜を使用したお弁当

  • ココワークの野菜は、無農薬の水耕栽培。
    調理せずに食べても苦みが少なくおいしいと好評です。

  • こども食堂へ野菜を提供(豊中市)

監修:蟹江憲史(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)