vol.7 勉強するのは何のため?
【目標4】


教育を受けられないとどうなる?

Aさんが部室でテスト勉強をしているよ。でも、なんだかやる気が出ないみたい。

あぁ~もう勉強したくない!テストなんてこの世からなくなればいいのに……

私も昨日家で同じようなことを言っていたら、おじいちゃんに叱られちゃった。昔は中学を卒業したら、働いたり家の手伝いをしたりしなきゃいけない子が多かったんだって。おじいちゃんも本当は高校に行きたかったみたい。

学校に行って勉強ができるというのは、とても恵まれていることなんだよ。日本は中学まで義務教育で、今では高校にもほぼ100%の生徒が進学しているけれど※1、これは世界的に見れば決して当たり前じゃない。世界では2018年の時点で、12人に1人(小学校学齢期[6~11歳]の子どもたちの8%、5900万人)の子は小学校すら通えていないし、中学校にも6人に1人(中学校学齢期[12~14歳]の子どもたちの16%、6200万人)、高校には3人に1人(高等学校学齢期[15~17歳]の子どもたちの35%、1億3800万人)の子どもが通えていないんだ。※2

そうなんだ……。小学校すら通えていなければ、基本的な読み書きや計算もできないよね。生活するのにも困りそうだね。

世界全体では、2013年の時点で、15歳以上の7人に1人にあたる7億5700万人が読み書きができないといわれている。※3読み書きができないと、ただ不便なだけじゃなく、命や暮らしが危険にさらされることもあるんだよ。

命の危険!? 地雷が埋まっているような危険な場所の警告が理解できないとか……。

契約文書が読めなくて、悪い人にだまされたりもしそうだね。

考えてみよう 字が読めないと、他にどんな問題が起こるかな?

例えば、文字が読めない人が病気になってしまったら……?

市販薬を使いたい!でも、文字が読めないと正しい薬を選べない。

バスに乗って病院に行きたい!でも、交通機関の表示が読めない。

他には、どんな困ったことが起こりそうかな?

参考:JICA「字が読めないって、想像したことありますか?」
https://www.jica.go.jp/tokyo/enterprise/kenshu/article/2012/report53.html

世界の国々で、学校に通えないのは、やっぱり貧しいからかな?

うん、学費や教材費が払えない子もいるし、働いている両親の代わりに兄弟の世話や水汲みをしている子も多い。子ども自身が大人と同じように働いていることもあるよ。

教育を受けられないと、将来就ける仕事も、専門性がなくても誰でもできる単純労働*に限られちゃうよね。単純労働は雇用が不安定で、賃金が低いことも多いみたいだから、生活はなかなか改善できないだろうな。

そうだね。それに、教育を受けられない子どもが多い地域では、医療従事者や学校の先生、政治家のように国や地域を支える人材も育ちにくいし、農業などの産業技術も進歩しない。地域全体が貧困から抜け出せなくなってしまうんだ。

負の連鎖だね……。

紛争や戦争が起きている地域では勉強どころじゃないだろうし、安全に通える範囲にそもそも学校がない場合もありそうだね。

確かに。あと、性別は関係あるのかな? 日本でも昔は女子の進学率が低かったみたい。

場所によってはジェンダー格差は改善しつつあるけど、多くの地域で今も改善されていない。特に学校に通えないのは女子の方がまだまだ多い※2トイレや生理用品が不十分で、通学を諦める女子もいるし、特にアフリカや南アジアでは、「家事は女性の仕事」「女性に教育は必要ない」という価値観が根強くあって、学校に通うべき年齢なのに親の都合で無理やり結婚させられた上、妊娠・出産によって学校に通えなくなる女子もたくさんいるんだよ。

性別に関係なく、みんなやりたいことや将来の夢があるはずなのにね。

※1 文部科学省「高等学校教育の現状について」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/20201027-mxt_kouhou02-1.pdf

※2 ユニセフ 「教育」
https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act02.html
New Methodology Shows 258 Million Children, Adolescents and Youth Are Out of School (UNESCO)
https://uis.unesco.org/sites/default/files/documents/new-methodology-shows-258-million-children-adolescents-and-youth-are-out-school.pdf

※3 国際連合広報センター 「質の高い教育をみんなに」
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/sustainable_development_goals/quality_education/

*単純労働:専門的な知識や技術が必要とされず、短期間の訓練で誰でも行える労働のこと。

SDGsの目標4と私たちにできること

教育はいろんな社会課題を解決する上で、とても重要な役割を担っているんだ。だからSDGsでも、住んでいる場所や家庭環境、性別、年齢、障がいの有無に関係なく、すべての人が教育を受けられることを目標に掲げているんだよ。

  • 4 質の高い教育をあなたに
  • SDGsの目標 4

    すべての人々に、
    だれもが受けられる
    公平で質の高い教育を提供し、
    生涯学習の機会を促進する

ターゲット

4.1
2030年までに、すべての少女と少年が、適切で効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育・中等教育を修了できるようにする。
4.2
2030年までに、すべての少女と少年が、初等教育を受ける準備が整うよう、乳幼児向けの質の高い発達支援やケア、就学前教育を受けられるようにする。
4.3
2030年までに、すべての女性と男性が、手頃な価格で質の高い技術教育や職業教育、そして大学を含む高等教育を平等に受けられるようにする。
4.4
2030年までに、就職や働きがいのある人間らしい仕事、起業に必要な、技術的・職業的スキルなどの技能をもつ若者と成人の数を大幅に増やす。
4.5
2030年までに、教育におけるジェンダー格差をなくし、障害者、先住民、状況の変化の影響を受けやすい子どもなど、社会的弱者があらゆるレベルの教育や職業訓練を平等に受けられるようにする。
4.6
2030年までに、すべての若者と大多数の成人が、男女ともに、読み書き能力と基本的な計算能力を身につけられるようにする。
4.7
2030年までに、すべての学習者が、とりわけ持続可能な開発のための教育と、持続可能なライフスタイル、人権、ジェンダー平等、平和と非暴力文化の推進、グローバル・シチズンシップ(=地球市民の精神)、文化多様性の尊重、持続可能な開発に文化が貢献することの価値認識、などの教育を通して、持続可能な開発を促進するために必要な知識とスキルを確実に習得できるようにする。
4.a
子どもや障害のある人々、ジェンダーに配慮の行き届いた教育施設を建設・改良し、すべての人々にとって安全で、暴力がなく、だれもが利用できる、効果的な学習環境を提供する。
4.b
2020年までに、先進国やその他の開発途上国で、職業訓練、情報通信技術(ICT)、技術・工学・科学プログラムなどを含む高等教育を受けるための、開発途上国、特に後発開発途上国や小島嶼開発途上国、アフリカ諸国を対象とした奨学金の件数を全世界で大幅に増やす。
4.c
2030年までに、開発途上国、特に後発開発途上国や小島嶼開発途上国における教員養成のための国際協力などを通じて、資格をもつ教員の数を大幅に増やす。

https://xsdg.jp/pdf/SDGs169TARGETS_200717.pdf/#page=5をもとに作成

乳幼児のケアから、読み書きや計算のような基礎的な教育、職業訓練、先生たちの育成まで幅広く触れられているね。

教育って、子どものためだけじゃないんだね。

一人ひとりの学びが、社会の未来を変えていく?

日本では中学まで義務教育で、3歳からの幼児教育・保育の無償化も実施されているから、クリアできている項目が多いような気がする。

でも、達成できていない目標もまだあるよね。Vol.6でも話したけど最近は、相対的貧困による学力格差が問題になっているって聞いたよ。経済的な余裕がなくて塾や習い事に通えなかったり、大学への進学を諦めたり。

コロナ禍で、アルバイト先が休業したり親が失業したりして、学費が払えなくなった大学生もたくさんいるっていうよね。

東日本大震災の後も、同じような状況だったみたい。家庭環境や自然災害のせいで、勉強したいのにできないなんて悲しいね。

きちんと勉強して専門性の高い仕事に就ければ、収入が安定して、適切な医療を受けられるし、栄養バランスのとれた食事を十分にとることもできる。学ぶことは、健康な生活のためにも必要なんだよ。※1

調べてみよう 貧困や自然災害以外にも、学びたい人が学べない事情があるよ。

例えば、家族に障がいや病気があったら……?

障がいや病気のある家族の看病、身の回りの世話をしなければならない

自分が家事をしなければいけない

家族に代わり、幼いきょうだいの面倒をみなければいけない

家計を支えるために仕事をしなければいけない

→勉強どころではないかもしれない……。

ヒント:ヤ○グ○○ラー

参考:厚生労働省「子どもが子どもでいられる街に。」
https://www.mhlw.go.jp/young-carer/

実は日本は、先進国の中でも特に高等教育の自己負担の割合が高い国なんだ。返済の必要がない給付型の奨学金もあるけど、世帯収入や成績などの要件があって、もらえる人は限られている。世界には、高校や大学に誰でも無償で通える国もあるんだよ。人を育てることは社会全体の利益に繋がるから、学費を税金で負担するのは当たり前、という考え方だね。

勉強することが社会のためになるなんて、考えたことなかったな。

こうやって君たちがSDGsについて知ることも、社会全体にとって価値のあることなんだよ。知ることで視野が広がって、世の中の見え方や、意識や行動がちょっとずつ変わっていくよね。そういう一人ひとりの学びや気づきの積み重ねが、地域や国や地球の未来をより良い方向へ変えていくんだ。

社会が良くなれば、住んでいる私たちも暮らしやすくなってハッピーだよね。教育はポジティブの循環を生むことにつながるんだね。

うんうん!おぉ~なんだかやる気が湧いて来た!よし、今夜は徹夜で勉強するぞ~!

これは早めに燃え尽きそうな予感(笑)。

※1 日医総研ワーキングペーパー「貧困・社会格差と健康格差への政策的考察」No.389 2017年9月
https://www.jmari.med.or.jp/download/WP389.pdf

発見! SDGsチャレンジャー カンボジアの子どもたちに学びの場を!書き損じハガキの寄付で教育支援 海星学院高等学校

  • 日本ユネスコ協会連盟は、1989年から「世界寺子屋運動」に取り組んでいます。※1貧困・紛争・性別などの理由で、教育を受けられない人々のために、「学ぶ場=寺子屋」を提供し、生きる力を育てます。「教育を受ける」ことで、貧困の連鎖を好転させ、彼らが自分の力で収入を得て、自立していくことを目指しています。※2

    活動を支えているのは、日本国内からの寄付です。書き損じハガキを回収・仕分けし、郵便局で切手に交換したものを協力企業に買い取ってもらい現金化する「書きそんじハガキ・キャンペーン」も実施しています。ハガキ11枚の寄付で、カンボジアの子ども1人が1カ月学ぶことができます。

    海星学院高等学校は、ユネスコスクールに選ばれた2011年以来、生徒会を中心に日本ユネスコ協会連盟「世界寺子屋運動」に書き損じハガキを送ることで協力しています。「世界寺子屋運動」では、年齢、宗教、性別にかかわらず、すべての人が公平に学べる場として、これまでアジアを中心に500軒以上の寺子屋(Community Learning Center)を建て、135万人に学びの機会を提供してきました。※2 2年生が授業内で作成した書き損じハガキの回収を呼びかけるポスターをバスに設置したり、ポスターと共に回収ボックスをショッピングモールや市民会館など市内各所に設置したりしています。回収ボックスに集まった書き損じハガキは、校内のボランティア委員と一緒に回収、仕分け、宛名消しなどをした上でユネスコに送っています。2021年は新たにラジオや新聞などでも市民に協力を呼びかけ、2021年だけで4千枚弱、10年間で約5万7千枚の書き損じハガキを寄付してきました。

    ショッピングモールに回収ボックスを設置

  • 集まったハガキをみんなで整理、仕分け

    生徒会役員を務める2年生の和田真采さんは、「全校生徒や市民が一丸となって活動できていることにやりがいを感じる」と言います。同じく生徒会役員を務める2年生の田中里和さんは、生徒会での活動をきっかけに世界の貧困問題や教育問題に興味を持ったといい、この夏、カンボジアのオンラインスタディツアーに参加。実際に寺子屋で子どもたちが生き生きと学んでいる様子に触れ、「さらに多くの子どもが通えるようになってほしい」と思ったそうです。さらに認知度を上げるために、ハガキが集まりやすい場所への追加のポスター設置、オンラインスタディツアーでの学びを市民に向けて発表する場を作るなど、新しい取り組みも検討しています。教育の力でカンボジアの子どもたちの明日が輝くことを願いながら、地道に活動を続けています。

    オンラインスタディツアーの様子。
    カンボジアの寺子屋の授業にオンラインで参加

    ※1 公益社団法人 日本ユネスコ協会連盟
    「世界寺子屋運動」

    https://www.unesco.or.jp/activities/terakoya/

    ※2 「書きそんじハガキ・キャンペーン実施中!」
    https://www.unesco.or.jp/terakoya/kakisonji/

発見! 次世代育成支援活動~未来を担う子どもたちのために~

  • 住友ファーマは、社員が講師となり当社独自のプログラムで実施する出張授業を2012年から継続しています。科学技術の進歩に伴い、教育においても重要性を増している「生命・倫理」を生徒たちが考える内容です。

    当社が目指している「すべての人々の健やかさ」の実現には、医薬品をはじめとする医療の充実だけでなく、病気や障がいに対する社会の思いやりが大切です。社会の思いやりは、すべての人々が健康や生命について知識を持ち、深く自分ごととして考えること、また自分以外の人を尊重することで育まれると考えています。

    2020年10月からは「ゲノム解析」や「遺伝」をテーマとしたプログラム『科学技術と人の幸せ~

  • 2020年10月からは「ゲノム解析」や「遺伝」をテーマとしたプログラム『科学技術と人の幸せ~Your Choice 未来を知る~』を、高校生を対象に実施しています。このプログラムでは、ディスカッションやプレゼンテーションを通して自分以外の人の意見や自分とは異なる考えを知り、多様なものの見方や考え方があることを理解したうえで、正解のないテーマに対して自分なりの結論を導き出す力を育成することを目的としています。

    この出張授業が未来を担う子どもたちにとって、広い視野をもって多様な考えを受け止め、さまざまな立場の人を思いやれるようになったり、他者に自らの考えや思いを伝え、自らの道を切り拓けるようになるきっかけになればと願っています。こうした取り組みは、以下のSDGs目標4.7のとおり、持続可能な社会を実現していく子どもたちの育成の一助になると考えています。

4.7
2030年までに、すべての学習者が、とりわけ持続可能な開発のための教育と、持続可能なライフスタイル、人権、ジェンダー平等、平和と非暴力文化の推進、グローバル・シチズンシップ(=地球市民の精神)、文化多様性の尊重、持続可能な開発に文化が貢献することの価値認識、などの教育を通して、持続可能な開発を促進するために必要な知識とスキルを確実に習得できるようにする。
  • 考える題材となる架空のストーリーは高校生が主人公

  • 科学技術の進歩によって直面する選択について考えます

授業はディスカッション等のワークが中心

この出張授業について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
キャリア協育アクション推進コンソーシアム 
SDGs・社会とつながる企業発協育プログラム発信プロジェクト
https://www.career-program.ne.jp/action3/program/010.html)

監修:蟹江憲史(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)