vol.8 ジェンダー格差を解消するには?
【目標5】


ジェンダー格差って何だろう?

SDGs部のみんなが、もうすぐ始まる生徒会選挙の話をしているよ。

もうすぐ生徒会選挙が始まるね。来年は誰が会長になるんだろう?

実はね、私ちょっと立候補してみようかと思ってて……。

そうなの?!すごい!

でも、これまで女性の会長っていなかったんだよね。

確かに、聞いたことないな。そういえば政治家も社長も、リーダーになる人は圧倒的に男性が多いよね。それって日本だけなのかな?

社会の中で男性の方が優位な状況は、世界共通なんだ。「ジェンダー」って聞いたことあるかな?体の作りの違いを表す「生物学的性別」に対して、ジェンダーは「社会的性別」と言われているんだけど、その格差が今、問題になっているんだよ。

役割とか立場が性別によってなんとなく決められちゃう、みたいなことかな。

そうだね。ジェンダー格差は社会のあらゆるところに存在している。地域差はあるけど、世界における平均収入は女性の方が男性に比べて24%も低いというデータがあるし、女性国会議員の数は2015年の時点で全体の2割程度にとどまっているんだよ。※1

2014年に史上最年少の17歳でノーベル平和賞を受賞したパキスタン出身のマララ・ユスフザイさんは、女子が教育を受ける権利を訴えていたよね。教育にも男女格差があるってことだね。

うん。そもそも憲法や法律で男女平等を保障していない国もあるんだ。それもあって女性は暴力の対象になりやすく、人身売買や児童婚がいまだに行われている地域もある。

※1 UN WOMEN 日本事務所
https://japan.unwomen.org/ja/news-and-events/in-focus/sdgs/sdg5

SDGsの目標5と私たちにできること

女性というだけで、いろんな権利や自由が奪われるなんて、ひどい話。

女性がしっかりと学び、それぞれの個性や能力を発揮することは、社会や経済の発展にも欠かせないと言われているんだ。だからSDGsでも「ジェンダー平等を達成し、すべての女性・少女のエンパワーメント※を行う」ことを目標5に掲げているんだよ。

  • 5 ジェンダー平等を実現しよう
  • SDGsの目標 5

    ジェンダー平等を達成し、
    すべての女性・少女のエンパワーメントを行う

ターゲット

5.1
あらゆる場所で、すべての女性・少女に対するあらゆる形態の差別をなくす。
5.2
人身売買や性的・その他の搾取を含め、公的・私的な場で、すべての女性・少女に対するあらゆる形態の暴力をなくす。
5.3
児童婚、早期結婚、強制結婚、女性性器切除など、あらゆる有害な慣行をなくす。
5.4
公共サービス、インフラ、社会保障政策の提供や、各国の状況に応じた世帯・家族内での責任分担を通じて、無報酬の育児・介護や家事労働を認識し評価する。
5.5
政治、経済、公共の場でのあらゆるレベルの意思決定において、完全で効果的な女性の参画と平等なリーダーシップの機会を確保する。
5.6
国際人口開発会議(ICPD)の行動計画と、北京行動綱領およびその検証会議の成果文書への合意にもとづき、性と生殖に関する健康と権利をだれもが手に入れられるようにする。
5.a
女性が経済的資源に対する平等の権利を得るとともに、土地・その他の財産、金融サービス、相続財産、天然資源を所有・管理できるよう、各国法にもとづき改革を行う。
5.b
女性のエンパワーメントを促進するため、実現技術、特に情報通信技術(ICT)の活用を強化する。
5.c
ジェンダー平等の促進と、すべての女性・少女のあらゆるレベルにおけるエンパワーメントのため、適正な政策や拘束力のある法律を導入し強化する。

https://xsdg.jp/pdf/SDGs169TARGETS_200717.pdfをもとに作成

※エンパワーメント:一人ひとりが、自らの意思で決定をし、状況を変革していく力を身につけること。

SDGsの効果もあって、先進国を中心にジェンダー平等の動きは着実に進んでいるんだよ。

日本社会に潜むジェンダー格差

みんなは日本で生活していて、ジェンダー格差を感じることはある?

なんだかんだ言って、家事や子育ては女性が中心な気がする。うちのお父さんもゴミ出しくらいしかしてないし。

考えてみよう! あなたの家では、どんな家事を、誰がやっているかな?

毎日の食事を作るのは誰?

トイレ掃除をするのは誰?

ゴミ出しをするのは誰?

洗濯をするのは誰?

その他、どんな家事があって、誰がやっているのか、リストアップしてみよう。

学校だと、理系クラスは男子の割合がかなり高いことが多いよね。

そうだね。実は、「ジェンダーギャップ指数」という社会に潜む様々なジェンダー格差をトータルで表す指標があるんだけど、日本は2022年の順位が世界146カ国中116位で、先進国の中では最低レベルなんだ。※1

えぇ~?! ショックだなあ!

ジェンダー平等は、教育や健康の分野は進んでいるけれど、政治や経済の分野が遅れているんだよ。いくつかのデータを一緒に見てみよう。

Inter-Parliamentary Union「Women in Politics: 2021」をもとに作成
https://www.ipu.org/women-in-politics-2021

日本の女性国会議員の数が他の先進国に比べて圧倒的に少ないね。

国家公務員の女性管理職の割合も、日本は先進国の中で圧倒的に少ない※2 し、上場企業の女性役員の割合も増えているけど、まだまだ1割程度にとどまっているんだ。

厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/dl/06.pdf

お給料も男女でかなり差があるね。

A さんとB さんが感じていることを裏付ける、こんなデータもあるんだよ。

OECD「Balancing paid work, unpaid work and leisure」(2020)をもとに作成
https://www.oecd.org/gender/balancing-paid-work-unpaid-work-and-leisure.htm

無償労働っていうのは、家事や子育てや介護のように賃金の発生しない労働のこと。日本では女性の方が男性の5.5 倍も無償労働に時間を割いているんだ。OECD 全体の平均と比べても、無償労働が女性に偏っていて、男性は無償労働にあまり時間を使っていないことがわかるね。

男女共同参画白書 令和4年版 4-7図 専門分野別研究者数をもとに作成
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyo04-07.html

研究者も男性が多いんだね。理学や工学分野は特に女性の割合が低い。

こうして見ると、日本って思った以上にジェンダー格差が大きい国なんだね。

18 歳以上の日本国籍を有する5,000人を対象に調査した結果では、男女平等だと感じている人はわずか21%で、男性の方が優遇されていると考えている人は、全体の74.1%にのぼるというデータもあるんだよ。※3

はぁ……これから進学や就職をすると、格差を実感する機会がもっと増えるのかもしれないな。

※1 男女共同参画に関する国際的な指数 ¦ 内閣府男女共同参画局
https://www.gender.go.jp/international/int_syogaikoku/int_shihyo/index.html

※2 OECD「Government at a Glance 2021」
https://www.oecd.org/gov/government-at-a-glance-22214399.htm

※3 内閣府政府広報室「男女共同参画社会に関する世論調査」の概要(調査対象5,000人のうち回答者内訳:男性1238人、女性1407人)
https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-danjo/gairyaku.pdf

思い込みを疑ってみよう

ジェンダー格差って、どうしてなくならないんだろう?

みんなは「男らしい」とか、「女子のくせに」とか、言ったり言われたりしたことないかな?これは、「無意識の思い込み(アンコンシャスバイアス)」が影響しているんだ。特に性別に関する思い込みを「ジェンダーバイアス」って言うんだよ。

「男子はこうあるべきだ」とか「女子はこういうのが好き」みたいな決めつけや思い込みは、確かにいっぱいあるよね。「女子力」って言葉は、まさにそれ。

「リケジョ(理系女子)」も、「女子なのに理系」っていう意外さを含んだ言い方だよね。「草食系男子」って言葉も、「男はみんな積極的」って決めつけが裏にある気がする。

「イクメン」も、男性は育児をしないことが前提になっているのかもね。

最近は日本でも男性の育児休業取得を増やしていく動きがあって、それはとても大事なことだと思うんだ。でも一方で、育児休業を取得できずに育児をしながら仕事をしてきた人たちもいる。これからは、社会全体の公平性という観点からそういう人たちにも目を向けて、同じような権利を実現できるよう考えてみることも必要になっていくかもしれないね。ジェンダーの話は、人権の話でもあるからね。

考えてみよう! あなたの家では、どんな家事を、誰がやっているかな?

1 あなたの身の回りに「ジェンダーバイアス」はないかな?

体育祭の応援団長になるのは、男子と女子どちらが多いだろう?

子どもが発熱した時、病院についていくのはお父さんとお母さんどちらが多いだろう?

人形遊び、あやとり、編み物などが好きな男子を見て、どう感じるだろう?

2 もし、あなたが小学校の校長先生だったら、どうする?

Q1 A先生(女性)には1歳の子供がいます。
2泊3日の修学旅行の引率をお願いしますか?

A1 Yes / No / 迷う

Q2 B先生(男性)には1歳の子供がいます。
2泊3日の修学旅行の引率をお願いしますか?

A2 Yes / No / 迷う

→ A先生とB先生のケースで答えが違ったとしたら、それはなぜだろう?
ジェンダーバイアスがあるのでは……?

そういえば、この前、親戚の家に男の子が生まれてね。車のデザインが入った青い服をお祝いにあげたんだけど、それも「男の子は乗り物が好き」とか「男の子には青や緑」っていう固定観念があったのかも。そういうジェンダーバイアスの中で育つと、その子の個性や価値観にも影響してしまいそうだよね。

周囲のジェンダーバイアスが強かったり、自分自身が思い込みに縛られていると、好きなことを我慢したり、やりたいことを諦めたりする場面も出てくるかもしれない。たとえば、男の子で本当はピンク色が大好きなのに、服もランドセルも黒や青しか買ってもらえない、とかね。

それはありそう。あと、子どもが好きで保育士を目指す女子は結構いるけど、男子だとためらう人もいるみたい。

「男なのに保育士?!」みたいな何気ない一言で、思いを踏みにじっちゃうこともありそうだな。

親戚の集まりでも、食事の準備や片付けをするのが女性ばかりだと、見ている子どもは、それが女性の役割だって思い込んじゃうよね。そうすると、結婚しても当たり前のように女性ばかりが家事をすることになる。

そうだね。そもそも「女性」「男性」って、二つに分けること自体、どうなんだろう?

確かに!世の中には、体の性と心の性が違う人もいて、心の性だって完全に男女ではっきり分かれるわけじゃないんだよね。男性、女性に分けている時点で思い込みが入っているんだ。

性って、本当はもっと多様なんだよね。ジェンダーバイアスによって、LGBTQ の人たちを知らずに傷つけてしまうこともありそう。

性の多様性について理解を深めることは、とても大切だね。LGBTQ の人たちへの配慮に繋がるし、いろんなジェンダーバイアスに気づくきっかけにもなると思うよ。

ジェンダーバイアスを取り払うには、思い込みを疑うことが大切なんじゃないかな。すごく難しいことだけど。

うん。家族や他の友達と話をしてみると、自分の当たり前がただの思い込みだって気づけるかもしれないね。

思い込みだと気づけるようになるためには、教育も大事だね。子どもの教育だけじゃないよ。今までジェンダー平等についてあまり意識してこなかった大人もいるから、大人も改めて学ぶ必要があると思うんだ。

みんながジェンダーについてきちんと学んで理解し、ジェンダーバイアスを意識できるようになれば、周りの人の好きなことや得意なことをもっと尊重したり、応援したりすることもできそうだね。

発見! SDGsチャレンジャー 日常に潜むジェンダーバイアスに気づこう!ジェンダーカルタを使って楽しく啓発 昭和女子大学附属昭和高等学校

  • 私たちの価値観に深く根付き、行動や言葉に影響を与えているジェンダーバイアス。昭和女子大学附属昭和高等学校では、6 年ほど前から、ジェンダーに関心を持つ生徒たちがジェンダーの研究を行うようになり、ジェンダー平等の啓発に取り組んできました。

    ジェンダー先進国であるフィンランドへの視察や、日本の児童館・こども園での調査を経てわかったのは、日本は性やジェンダーに関する教育の機会が不足しており、幼児期ですでに多くの子どもがジェンダーバイアスを持っているということでした。ジェンダー平等を実現するには幼少期からの教育が重要と考えた当時のメンバーは、幼い子どもたちが楽しみながら学べるよう、全校生徒から読み札を募集して、ジェンダーカルタを制作。2020年度には絵札をデータ化して量産、校内や近隣の児童館でワークショップを開催したり、保育園や幼稚園に配布したりと、代替わりをしながらも様々な取り組みを続けてきました。

    校内で「ジェンダーカルタ会」を開催!
  • これからの活動について3人で話し合い

    現在のメンバーは、ジェンダーカルタをさらに広める活動を中心に、カルタ以外にも多様な啓発活動を行っています。昨年からこの活動に参加している2 年生の網倉佐紀さんは、「先輩たちの研究発表を聞いて初めて、ジェンダーを意識するようになった」と言います。また、「活動をしていると、日常生活のいたるところにジェンダーバイアスがあることに気づきます」と毒島由利香さん。活動の一環として、昼食時に各クラスでジェンダークイズの動画を流した際は、聞いていたクラスメイトたちも驚いていたようです。

    現在は(2022年10月の取材時点)、文化祭の期間限定で校内トイレのピクトグラムを変更し、アンケートなどを通じて生徒の意識の変化を調べようと準備しています。「女子トイレは赤色でスカート、男子トイレは青色でズボン。当たり前になっているけれど、これもジェンダーバイアスの一つです。無意識の偏見に気づくきっかけになればうれしいですね」と谷口日奈子さん。ジェンダーバイアスは女性の生き方にも関わってくると3人は考えています。「女性だからという理由で、活躍の場や可能性を狭めてしまうことがないよう、多くの人にジェンダーバイアスについて知り、考えてもらいたいと思います」

SDGs目標5 「ジェンダー平等を実現しよう」に関する住友ファーマの取り組み 男性社員の育児休業取得率100%を目指して~ジェンダーバイアスを意識しよう~

住友ファーマは、ジェンダー等の属性にかかわらず
多様な人材が活躍し、成果を創出できる状態を目標としています。
そのために、まず男女共に働きやすい職場環境づくりを目指しています。

  • 現在、取り組んでいることは、男性の育児休業取得の推進です。これまで、当社の育児休業取得は女性に偏っていました。もしかしたら、女性ばかりが家庭と仕事の両立を迫られて苦労したり、あるいは子どもか仕事かどちらかを選ばざるをえなかったことがあったかもしれません。各家庭(パートナー間)や職場で「女性は育児(家庭)優先、男性は仕事優先」といったジェンダーバイアスがあり、それが男女の取得率の違いとして表れていた可能性があります。そこで、2021年1月に「男性社員の育児休業取得率100%」という目標を掲げました。この目標を掲げることで、子どもが生まれる男性社員に「育児」に向き合ってもらうとともに、周囲の従業員にも「男女関係なく育児に関わることが重要である」と気づいてもらいたいと考えました。そのため、育児休業の対象となる男性社員だけでなく、全従業員向けに、「男性の育児休業取得のポイント」や「男性の育児休業取得状況」について情報発信しています。

  • また、男性社員向けの育児休業取得セミナーも開催しています。実際に育児休業を取得した男性社員の体験談や復帰後の変化、これから育児休業を取得する男性社員へのアドバイスやメッセージ、男性社員の上司の想いなどを共有することで、育児休業取得を意識していなかった従業員も、育児休業を自分ごととして考えるきっかけになっています。

育児休業の体験談を共有 :
男性社員阪口さんの例

家事・育児のスキルを身につけることが今後の家族のためになると考え、第1子が産まれた時に4ヶ月間の育児休業を取りました/来年2月には第2子が産まれる予定。半年~1年間の育児休業を取得するつもりです!
育児休業取得の前後で変わったことは?

優先順位を付ける、早めに準備をする、周囲を頼る、得意分野の仕事を引き受けるなど、仕事の効率を重視するようになった

周囲に様々な立場の人がいることを理解し、「相手に関心をもつ」ことをベースにコミュニケーションをとるようになった

どのような環境でも活躍できる人材になれるように、自己研鑽に力を入れるようになった

男性社員の育児休業取得率は、2021年1月には17.1%でしたが、2022年3月には88.2%まで上昇しています。この取り組みをきっかけに、従業員が性別にかかわらず、職場でも家庭でもメンバーの一員としての役割をしっかりと果たせる環境づくりを推進していきます。

社内で掲示している育児休業取得促進のポスター

社内で掲示している育児休業取得促進のポスター

監修:蟹江憲史(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)