製剤技術ー苦みマスキング技術
製剤技術【苦味マスキング技術】
くすりの「ニガ~い!」を攻略するテクノロジー。
薬を飲むことをやめてしまう原因の1つに「薬の苦味」の問題があります。この問題を解決するために、苦い薬を苦いと感じさせないよう、苦味をマスクする「苦味マスキング技術」が使われています。君が次に薬を飲んだとき、「あれ? 苦くない」と感じたら、この苦味マスキング技術が使われているかもしれません。
1苦い味には「マスク」をしよう。
―苦味マスキング技術のこれまで
やぁ、スコッピィだよ! 君は「良薬は口に苦し」ということわざを知っているかな? 昔から薬は苦いものとして知られてきたんだよ。でも、患者さんにとって苦い薬を飲むというプレッシャーは、薬を使って病気を治そう!という前向きな気持ちに水を差してしまうことがあるんだ。それではさっそく、苦味マスキング技術でどのような工夫をしてきたのか、注目してみよう。
苦い薬を苦いと感じさせないよう、苦味をマスクする「苦味マスキング技術」。製剤技術の分野では、この技術を利用して、飲みやすさを追求する研究が進められています。
薬の苦味をマスクする代表例としては、薬をカプセルに入れた「カプセル剤」、錠剤を薄いフィルムでおおった「フィルムコーティング錠」、糖類や甘味料などで薬を包んで錠剤にした「糖衣錠(とういじょう)」などが知られています。
2溶け出しても苦みをマスクする…どうやって?
―苦味マスキング技術のいま
薬の有効成分には、苦味を持つものが多いんだ。だから、コーティングした錠剤であっても口の中で溶け出すと苦味を感じてしまう。そこで、薬の原料に甘味料やフレーバーなどを加えることで、できるだけ苦味を感じさせないようにしている薬もあるんだよ。ただ、この方法では苦味を十分にマスクすることはできないんだ・・・
現在では、製剤技術の研究開発が進み、薬が口の中で溶け出しても苦味をマスクすることができるケースも見られるようになっています。薬の有効成分を極めて細かい粒子にし、この粒子にスプレーを吹きつけてコーティングを行うことで、苦味をマスクする技術です。
こうした技術を活用した、苦味を感じにくい薬が増えていけば、患者さんはご自身の治療にもっと積極的になられていくことでしょう。しかし、そのような薬は、内服薬全体からするとごくわずか。これからも研究開発が進められていくべき分野だといえます。
3「苦みマスキング」から新たな可能性へ。
―苦味マスキング技術のこれから
苦味マスキング技術をもっと色々な種類の薬に応用していくことが患者さんや医療関係者から求められているんだ。未来に向け、そうした製造方法の研究が「産官学連携」、つまり民間企業、自治体や政府、そして、大学などの教育機関・研究機関が協力することで、進められているんだよ。
苦味マスキングに関する新しいアイデアを考えている研究者もいます。たとえば、ごはんやお菓子のように口にしておいしい薬。また、無味無臭、無色透明な水のように、苦味はもちろん、薬の存在すら感じさせないような薬を、苦味マスキング技術で実現するというアイデアです。
同時に、薬が薬らしくなくなると、誤って口にしてしまうという事故の発生など「リスク」のことも考えていかなければなりません。しかし、薬の苦味をマスキングする新しいアイデアや技術は、今まで以上に病気とたたかう方々の暮らしの助けになることでしょう。
住友ファーマのSUITAB*(スータブ)技術
口で溶けても手では溶けない、しかも、苦みをおさえた薬の登場。
薬を口に含んだ瞬間、すーっと溶ける「口腔内崩壊錠(こうくうないほうかいじょう)」は、飲み込む力が低下している患者さんでも飲みやすい錠剤として活躍しています。しかし、口腔内崩壊錠は、口溶けが良いものの、手でつかむとボロボロとくずれたり、人によっては味をとても強く感じたりするという欠点がありました。
そこで、住友ファーマは患者さんの「飲みやすさ」を追求し、手でつかんでもボロボロになりにくいだけでなく、十分な硬さを保つことで、ほかの薬と一緒に分包することができる口腔内崩壊錠の技術「SUITAB®(スータブ)」を確立しました。この技術を利用して、日本ではじめて水と一緒でも水がなくても飲める高血圧症治療薬の口腔内崩壊錠が誕生しました。
しかし、この薬は苦味を「和らげる」ことはできませんでしたので、「SUITAB®」に、苦味マスキング技術を加え、苦味を軽減させた口腔内崩壊錠「SUITAB-NEX®(スータブ-ネックス)」という技術を確立しました。この技術を用いた口腔内崩壊錠は、飲み込む力が低下している患者さんが飲める薬であることはもちろん、口の中で溶け出しても苦味がマスクされているので、多くの方々が抵抗なく飲むことができるのです。
また、この「SUITAB-NEX®」の技術をさらに応用した、「SUITAB-MAX®(スータブ-マックス)」という技術を用いた口腔内崩壊錠も誕生しています。この技術を、パーキンソン病の患者さんや血液透析を受けている患者さんで見られる症状を改善する薬に応用しました。それまでは、その成分の性質から錠剤にすることすら困難だったのですが、この技術を使うことで、口腔内崩壊錠として成功させることができたのです。薬を安定させるための添加物を最小限にするなどの工夫で、錠剤に適度な大きさと硬さ、そして口腔内崩壊錠としての機能を合わせ持たせることで、手のふるえや、飲み込む力の低下といった症状を持つパーキンソン病の患者さんに配慮した錠剤です。また、水と一緒でも水がなくても飲めることから、水分の制限を受けている血液透析を受けている患者さんにとっても、飲みやすい錠剤です。
これらの製剤技術は、患者さんの薬の飲みにくさの解決と共に、生活の質の向上にも役立っています。
まとめ
「薬の苦味」という課題一つとっても、たくさんの解決方法があり、今でもなお、新しい解決方法を見つけようという努力が続けられているんだよ。君が大人になったときには、「薬は飲みやすい」というのが当たり前の時代になっているかもしれないね。
実験室をのぞいてみましょう。
ー錠剤編
今回は、患者さんにとって、飲みやすい薬を創り出すための「実験室」をのぞいてみることにしよう。
薬の有効成分には、酸素に弱いもの、光に弱いもの、熱に弱いものなどがあり、錠剤に加工するのが難しいことがあります。また、口腔内崩壊錠の場合では、口の中で早く溶けることや、苦くないこと。そして、少しくらいの衝撃では欠けたりしない硬さに加工することも大切です。さらには、患者さんが指でつかんでくずれたり、指にひっついたりしないことなど、患者さんが飲みやすい薬を創り出すためには、たくさんの課題があります。
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