印刷(PDF/186KB)はこちらから 2024年11月29日 研究開発

米国における「他家iPS 細胞由来網膜シート(立体網膜)を用いた網膜色素変性治療」に関するフェーズ1/2 試験開始のお知らせ

住友ファーマ株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:木村 徹)は、他家iPS細胞由来網膜シート(立体網膜、開発コード:DSP-3077)を用いた網膜色素変性治療(以下「本治療」)に関するフェーズ1/2試験(以下「本治験」)のIND申請(Investigational New Drug Application)を2024年10月25日に米国食品医薬品局(FDA)に対して行い、このほどFDAによる30日調査が完了し、本治験を開始する準備が整いましたことを、お知らせします。なお、本治験では、非凍結の立体組織を用います。

現在、本治験の開始に向け、米国マサチューセッツ州ボストンのマサチューセッツ眼科耳鼻科病院(Massachusetts Eye and Ear: MEE)と協議を進めており、当社は2025年度での患者さんへの移植開始を目指しています。当社は、すでに網膜色素変性を対象に最適な眼科評価項目の探索を目的とした自然観察研究をMEEにて開始しており(NCT06517940)、得られたデータを本治験および今後の臨床開発に活用する予定です。

本治験に先立ち、2020年に神戸市立神戸アイセンター病院(以下「アイセンター病院」)にて開始された世界初の臨床研究「網膜色素変性に対する同種iPS細胞由来網膜シート移植に関する臨床研究」において、当社が製造し提供した他家iPS細胞由来網膜シートが2名の患者さんに移植されています。移植後2年間の網膜シートの生着および安全性が確認されていることが、アイセンター病院より公表※1されており、治験計画立案の参考にしましたが、本治験はこの臨床研究とは別途実施するものです。

本治療で用いる技術は、国立研究開発法人理化学研究所(以下「理研」)の笹井芳樹博士の研究グループが見出した多能性幹細胞から立体構造をもつ神経組織を効率良く分化させる方法である自己組織化培養法(SFEBq 法)を基にしています。住友化学株式会社(以下「住友化学」)と理研との2010年から2014年までの共同研究※2にて本製法の改良を進め、その成果の実用化を目指して当社が住友化学より引き継ぐ形で、2013年より理研との共同研究※3を実施し、製法を確立しました。現在、理研との共同研究は終了し、当社単独で本技術のさらなる改良、さらに適応拡大を目指した基盤研究も進めています。

当社は、網膜色素変性の患者さんへの新しい治療選択肢の一日でも早い提供につながるよう、本治験を進めていきます。

【本治験の概要】

被験製品 DSP-3077 他家iPS細胞由来網膜シート
開発段階 フェーズ1/2
対象疾患 網膜色素変性
治験デザイン(目標症例数) 非遮蔽、単群、用量漸増試験 (12例)
主要評価項目 安全性および忍容性
副次評価項目 生着、免疫反応、有効性ほか
治験実施者 Sumitomo Pharma America, Inc.(当社の米国子会社)

ご参考

網膜色素変性

網膜色素変性は、網膜を構成する細胞のうち、光受容体である視細胞や、その機能維持・保護をする網膜色素上皮細胞を原発とする、主に遺伝性の疾患群です。一般的には、光覚に関わる杆体視細胞が先行して変性し、続いて視力・色覚に関わる錐体視細胞が変性します。原因遺伝子の種類も多様で症状の個人差が大きいですが、長期間の進行の後には、高度な視機能低下をきたすことが多いです。網膜色素変性は、日本の失明原因の第2位を占める社会的にも重篤な疾患であり、新しい治療法の確立が望まれています。

iPS細胞(人工多能性幹細胞)

2006年に京都大学の山中伸弥教授の研究グループは、皮膚などに分化した体細胞に遺伝子を組み込むことで、世界で初めてiPS細胞の作製に成功しました。iPS細胞は、胎盤以外のあらゆる生体組織に分化できる分化多能性と、無限に増殖する自己複製能を有する、人工的に作られた幹細胞です。

iPS細胞由来網膜シート

iPS細胞を自己組織化培養法(SFEBq法)により分化誘導させた立体網膜(retinal organoid)から、三次元構造をもつ網膜組織をシート状に加工して作製した網膜シート。網膜シートは、視細胞前駆細胞を豊富に含んでいます。

以上

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