薬を飲む。薬の入口とその種類
からだを旅する薬のこと Vol.1

薬を「どこからからだに入っていくか」で分類すると、大きく「内用薬」「注射薬」「外用薬」の3つに分けられます。

内用薬は、口からのみ込み、胃や小腸で溶けて吸収される薬です。「内服薬」「経口薬」「のみ薬」などとも呼びます。薬の形(剤形)で分けると、カプセル剤、錠剤、散剤・顆粒剤(粉薬)、液剤・シロップ剤といった種類があります。

注射薬は、からだに刺した針から、血液や組織に直接入れる薬です。目的に応じて、皮膚の中や皮膚の下、血管(静脈)、筋肉などに薬を入れます。からだが弱り、栄養が取れないときに行う点滴も注射薬の一種です。

内用薬と注射薬以外の薬は、からだの表面から薬を入れる外用薬です。皮膚や粘膜から薬を吸収させます。湿布や軟膏、目薬、消毒薬はもちろんのこと、口に入れるから内用薬の仲間?と思ってしまいそうな、トローチやうがい薬も外用薬です。これらは口の中や喉の粘膜に作用させる薬だからです。

図:薬の入り口とその種類参考:厚生労働省:第十六次改正日本薬局方:9-21,2011(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/JP16.pdf外部リンク

剤形には意味がある

薬の効果が、効かせたい場所で適切な強さと長さで得られ、なおかつ副作用を起こりにくくするために、内用薬の剤形は「いつ、どこで溶けるのがいいか」を考えて作られています。

図:錠剤やカプセルには、こんなシカケが!参考:くすりの適正使用協議会:くすり教育担当者のための教材サイト(http://www.rad-are.com/):中学生版 薬の正しい使い方

たとえば、胃を荒らしてしまう成分や、胃で溶けると効果が落ちてしまうような成分を含む錠剤は、胃では溶けずに腸で溶けるようにしてあります。カプセル剤の場合、すぐ溶ける薬の粒とゆっくり溶ける薬の粒を一緒に入れておき、一定の効果が長く続くようにしたものもあります。

なお、苦みのある成分を含む錠剤は糖で外側をおおう、粉薬なら大きめの粒にまとめた顆粒にして苦みを感じにくくする……といった工夫は、のみやすくするための工夫です(参考記事:くすりの挑戦 製剤技術 苦みマスキング技術)。

図:錠剤やカプセルには、こんなシカケが!参考:くすりの適正使用協議会:くすり教育担当者のための教材サイト(http://www.rad-are.com/外部リンク):中学生版 薬の正しい使い方

タイミングや、使い方で吸収は変わる

内用薬の多くは、胃で溶けて小腸で吸収されますが、空腹のときに薬をのむと、薬は胃から小腸へと速やかに移行します。一方、食後に薬をのむと、胃の中で薬と食べ物が一緒になるため、薬が小腸へ届くまでに時間がかかります。

薬によっては、早く腸へ届けたいから空腹時にのむべきものもあれば、ゆっくり届けたいから食後にのむべきものもあります。また、空腹時にのむと、胃の粘膜を荒らすなど胃腸の不調を招いてしまうという理由から食後にのむべき薬、食べ物が薬の吸収や効果に影響しやすいから空腹時にのむべき薬も。理由はさまざまですが、「いつのむか」は薬の吸収や効果、副作用にもかかわってきます。

注射薬の多くは医師や看護師に注射してもらうものですが、自己注射が必要な人もいます。例えば一部の糖尿病患者。インスリンというホルモン薬をお腹や腕などに注射しますが、打つ場所によって吸収の速さが違います。 外用薬も、例えば、筋肉痛があるときに使う軟膏などの皮膚につける薬では、お風呂上りに吸収されやすくなるようなものもあります。 どの薬も、適切にからだに吸収させるには、とるタイミングや使い方が重要なのです。

ドラッグデリバリーシステム

薬の吸収スピードや吸収量、からだの中で効果を発揮する時間の長さ、狙い通りの場所に届くこと、これらをコントロールする技術を「ドラッグデリバリーシステム」って呼ぶよ。

同じカプセルの中に、すぐ溶ける薬の粒とゆっくり溶ける薬の粒を入れて、効果が長持ちするようにしたのも、この技術を使っているんだね。

ほかにも例えば、1回注射したら、数カ月かけてジワジワとからだに浸透していくように作られた薬もあるよ。それから、がん細胞をやっつける薬が、がんになっていない細胞にまでダメージを与えるのを防ぐために、薬がちゃんとがん細胞に届くようにしたり、がん細胞のところに留まって効くようにしたり……なんて工夫も。

ドラッグデリバリーシステムについては、くすりの挑戦 製剤技術 ドラッグデリバリーシステムで詳しく紹介しているから、読んでみてね!

コラム

牛乳と薬の吸収

食後にのまなくてはならない薬だけど、食欲がないから、せめて牛乳でものんでおいたほうがいい? いいえ、それはやめておきましょう。

熱が出たときなどに使う抗生物質や抗菌薬には、牛乳と一緒になると吸収されにくくなってしまうものがあります。牛乳に豊富に含まれるカルシウムが薬の成分とくっついてしまい、小腸を通過できなくなってしまうからです。

一方、脂に溶けやすい性質を持つ薬の場合、薬が牛乳に含まれる脂肪分に溶けて吸収されやすくなります。想定よりも多い量の薬がからだの中に入ってしまうことになり、副作用が心配です。

また、胃で溶けずに腸で溶けるようにした薬は、酸性の胃で溶けずに中性の腸で溶けるようにしてあります。ところが牛乳を飲むと一時的に胃の中が中性に傾き、腸で溶けるはずの薬が胃で溶け出してしまいます。薬が腸へ到達しないばかりか、胃を荒らしてしまうかもしれません。

牛乳以外にも、薬の吸収や効き目に影響を与える飲み物があります。のみ薬は、水かぬるま湯で、指定通りのタイミングでのみましょう。

なお、なんらかの理由で食事ができなかったけれど食後の薬をのまなくてはならない場合は、消化吸収されやすいクラッカーやクッキーの1枚でも食べてからにしましょう。食後に近い状態となり、胃を保護します。

図:牛乳が薬の吸収を悪くした例 出典:Neuvonen PJ et al.:Clinical Pharmacology and Therapeutics 50(5-1):498-502, 1991