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vol.12 持続可能な経済発展に必要な「インフラ」とは?【目標9】

インフラは当たり前!?

放課後、部室で雑談していたら、近くで落雷が発生したよ。

あ、停電だ。薄暗いし、エアコンも止まっちゃった。

ノートをコピーしようと思ったのに、プリンターも使えないや。

いつ復旧するのかな? うちの学校のトイレは停電すると使えなくなるって前に聞いたよ。どうしよう。

電気って当たり前すぎて、使えなくなると本当に困るよね。

そうだ! ちょうどいい機会だから、インフラについて考えてみよう。

インフラ?

電気や水道、ガスのように、日々の生活を支えている設備や施設のことだよ。たしか、Infrastructure(インフラストラクチャ―)の略だったよね。

じゃあ、他には道路や鉄道、インターネットや、病院、学校とかもインフラだね。私たちが毎日、安心安全に快適な暮らしが送れるのはインフラのおかげってことか。

そうだね。インフラは産業の発展にも欠かせないんだよ。でも海外では、インフラの整備が十分に進んでいない国もあって、SDGsでその必要性が訴えられているんだ。電気が使えない人はアフリカのサハラ以南を中心に、世界に6億7500万人もいるんだよ。※1

そんなに⁉ 日本の夏もかなり暑いけど、赤道に近い国はもっと暑いはずだよね。それなのにエアコンも扇風機も使えないなんて、倒れちゃうよ。

電気がないってことは、日が暮れたら暗くて生活するのも大変だよね。勉強どころじゃないな。

電気が使えないと、部屋を暖めたり料理をしたりするにも薪や炭を使うから、煙などによる健康被害も女性や子どもを中心にたくさん出ているみたいだね。また、安全に管理された飲料水を利用できない人も22億人もいるんだよ。※1

蛇口をひねれば水が出てきて、それを飲むことができるっていうことも、当たり前じゃないんだね。

※1 国際連合広報センター「持続可能な開発目標(SDGs)報告 2023:特別版」
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_report/

さらなる格差につながる「デジタル・ディバイド」とは?

じゃあ、ここで問題! インターネットを利用していない人は世界人口の何%くらいだと思う?

えっ、どのくらいだろう……20%くらいかな?

正解は34%。※1 携帯電話の電波が届かない場所で生活している人も、農村部を中心に13%くらいいるんだよ。※2

仮に通信インフラが整備されていても、端末を買ったり、通信費を払ったりするお金がなければ、携帯もパソコンも使えないもんね。

僕たちは、情報収集やオンライン学習をしたり、コミュニケーションをとったり、お金を払ったり、生活のあらゆる面でインターネットに頼っているけど、それが全部できないのか……。

今の時代、就職情報もオンラインで公開されていることが多いから、インターネットにアクセスできないと仕事の選択肢や可能性が狭まっちゃうよね。

災害や紛争のような非常事態の時も、インターネットが使えるか使えないかで大違いだと思う。どこで水がもらえるか、どこに行けば安全か、家族が無事か、インターネットに繋がっていればいろんな情報が得られるからね。

インターネットを使える人と使えない人で、いろんな面で格差が生まれてしまう。それを「デジタル・ディバイド(情報格差)」と言うんだ。みんなが想像した通り、デジタル・ディバイドによって、教育格差や経済格差もさらに広がってしまうんだよ。

調べてみよう!途上国支援を行う国連機関は、それぞれどんな役割を果たしているのかな?

  • 1もし今の生活でインターネットが使えなくなったら、
    どんな時に困るかな?
  • 2インターネットが使えない地域で、今後使えるようになったら、
    どんなふうに生活が変わるかな?

教育、医療、雇用について考えてみよう!

途上国では鉄道や道路の整備が進んでいない地域もあるんだよね?

うん、たとえば2012年の段階で、日本の道路舗装率は約80%だったのに対して、南アフリカ共和国はわずか17%だった。※3 舗装されていても、劣化している道路や線路が多くて、その修理も追い付いていないのが現実なんだ。

それだと事故のリスクも増えるし、輸送にかかる時間や費用が無駄にかかっちゃうな。

インフラってないと困るけど、整備するには相当のお金や時間がかかるでしょ。貧しかったり、長期間、内戦や紛争が続いていたりする地域ではなかなか進められないよね。

安く簡易的に作ればいいというものでもないからね。質が高く、持続可能で、レジリエントなインフラ開発が求められているんだ。

「質が高い」って、丈夫で安全ってこと?

うん。あとは、維持管理も含めて妥当な金額であるとか、資材や人手、資金の調達に不正がないとか、ちゃんと返済できるかどうかも重要だね。

「持続可能」は、今だけじゃなく将来にわたって使えるってことだよね。いくらインフラが整備できても、そのせいで環境破壊が進んだら持続可能にならないから、環境にやさしいインフラじゃないといけない。これもめちゃくちゃ大事!

「レジリエント」ってなんだろう?

レジリエント(resilient)は、回復力や耐久力があるってこと。「何があっても壊れないインフラ」じゃなくて、「事故や災害が起こってもしなやかに復元や代替ができるインフラ」であることが大切なんだ。SDGsの目標9にも出てくるから確認しておこう。

レジリエントなインフラ整備は、災害の多い日本にも必要だね!

  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • SDGsの目標 9

    レジリエントなインフラを構築し、
    だれもが参画できる持続可能な産業化を
    促進し、イノベーションを推進する

ターゲット

9.1
経済発展と人間の幸福をサポートするため、すべての人々が容易かつ公平に利用できることに重点を置きながら、地域内および国境を越えたインフラを含む、質が高く信頼性があり持続可能でレジリエントなインフラを開発する。
9.2
だれもが参画できる持続可能な産業化を促進し、2030年までに、各国の状況に応じて雇用やGDPに占める産業セクターの割合を大幅に増やす。後発開発途上国ではその割合を倍にする。
9.3
より多くの小規模製造業やその他の企業が、特に開発途上国で、利用しやすい融資などの金融サービスを受けることができ、バリューチェーンや市場に組み込まれるようにする。
9.4
2030年までに、インフラを改良し持続可能な産業につくり変える。そのために、すべての国々が自国の能力に応じた取り組みを行いながら、資源利用効率の向上とクリーンで環境に配慮した技術・産業プロセスの導入を拡大する。
9.5
2030年までに、開発途上国をはじめとするすべての国々で科学研究を強化し、産業セクターの技術能力を向上させる。そのために、イノベーションを促進し、100万人あたりの研究開発従事者の数を大幅に増やし、官民による研究開発費を増加する。
9.a
アフリカ諸国、後発開発途上国、内陸開発途上国、小島嶼開発途上国への金融・テクノロジー・技術の支援強化を通じて、開発途上国における持続可能でレジリエントなインフラ開発を促進する。
9.b
開発途上国の国内における技術開発、研究、イノベーションを、特に産業の多様化を促し商品の価値を高めるための政策環境を保障することなどによって支援する。
9.c
情報通信技術(ICT)へのアクセスを大幅に増やし、2020年までに、後発開発途上国でだれもが当たり前のようにインターネットを使えるようにする。
https://xsdg.jp/pdf/SDGs169TARGETS_200717.pdf をもとに作成
※バリューチェーン:企業活動における業務の流れを、調達、製造、販売、保守などと機能単位に分割してとらえ、各機能単位が生み出す価値を分析して最大化することを目指す考え方。

※1 International Telecommunication Union “Measuring digital development: Facts and Figures 2022”Foreword
https://www.itu.int/itu-d/reports/statistics/2022/11/24/ff22-foreword/
※2 International Telecommunication Union “Measuring digital development: Facts and Figures 2022” Mobile network coverage
https://www.itu.int/itu-d/reports/statistics/2022/11/24/ff22-mobile-network-coverage/
※3 総務省統計局「世界の統計2012」
https://www.mlit.go.jp/common/001381832.pdf

老朽化が進む日本のインフラ

日本のインフラの多くは高度経済成長期(1955~1973年頃)に作られていて、耐久年数と言われる50年を迎えるものが、この10~20年で一気に増えているんだよ。

2021年だったかな、和歌山県で水管橋(水道管を通す橋)が崩落する事故があったよね。

まさに老朽化が原因で、約6万世帯が6日間も断水になっていたみたいだね。2012年には山梨県の笹子トンネルで、天井板が約140メートルにわたって崩落して、9人の方が亡くなった。事故後の調査で、老朽化したボルトが抜け落ちていたことがわかったんだ。きちんと点検していれば、防げたかもしれないね。

古くなった水道管の破裂も全国で起きているみたいだよ。

この数年、短時間にものすごい量の雨が降ることが多くなっているから、橋とか擁壁(土砂が崩れるのを防ぐための壁)が崩れるリスクはさらに上がっている気がする。怖いな。

その通りだね。国としても対策に予算を割いてはいるけど、人口減少による自治体の財政難もあって、点検や補修は十分に進んでいないのが現状なんだ。

老朽化が進んでいるインフラはトンネルや水道以外にもあるよ。例えばどんなものがあるかな?そして、こうしたインフラが古くなったり災害で壊れたりして使えなくなったら、私たちの暮らしにどんな影響が出るだろう?資料を見ながら考えてみよう。

私たちにできること

財政難などいろんな理由があるからって放っておいていいわけないよね。

うん、そこで最新技術を使って維持管理のコストを減らす努力を、民間企業と行政が協力して行っているんだ。たとえば、アクセスしにくい箇所をドローンで撮影したり、AIを使って画像点検をしたり、高度なセンサーを使って車が通る時に橋や道路に伝わる振動やひずみを監視・計測したりね。

確かにそれなら、少ない人数でたくさんの場所を見守ることができるよね。それに、たとえば1年に1回の点検だったところも、もっと頻繁に、場合によっては24時間監視できるようになる。異常が起きてから対処するまでのスピードも上がりそうだね。

いろんな課題を解決するのに、新しい技術やアイデアは欠かせないんだな。

社会を変えるような革新的な技術やアイデアのことを「イノベーション(Innovation)」と言うんだよ。

イノベーションか……他にどんなものがあるんだろう?

オンライン診療とか?離島や過疎地に住む人、病院に行きづらい人が、オンラインで受診できるようになってるよね?

そうだね。情報通信技術を使った遠隔医療は、医師や病院の少ない途上国の支援としても行われているんだよ。

そういえば、ドローンを使った宅配も海外で始まっているよね。それもイノベーションじゃない?

うん。ドローンは険しい山や、土砂で寸断された道も越えていけるから、陸路が整備されていない途上国の農村地帯や災害現場でも使われている。輸血用の血液やワクチンといった医療物資を届けるのに活躍しているんだ。1回に運べる量には限界があるけど、待ったなしの状況でもスピーディーに対応できるよね。他にも、水に頼らない衛生的なトイレを開発して、下水道が整備されていない地域で普及を進めている企業もあるんだ。

イノベーションによって救われる命がたくさんあるんだね。

イノベーションをいろんな分野で起こしていくためには、研究開発や人材育成にもっと投資していくことが大切かもしれないね。さらに、企業や組織の垣根を越えて協力して、より効率的にイノベーションを進めるためには、Vol.11で言ったように、SDGsの目標17にあげられているパートナーシップも大事だよ。

私たちにできること

あ、電気がついた!よかった~!

インフラって本当にありがたいね。でも、災害時にはそれがストップすることもあるって想像しておくことはすごく大事。当たり前だと思っているからこそ、使えない時にどうしたらいいかを考えておかないと。

インフラが止まっても何とか過ごせるように、できる備えをしておきたいね。モバイルバッテリーとか小型のソーラーパネルがあれば、とりあえずスマホの充電はできそうだな。

水や携帯トイレも必須だね。

個人が備えを充実させていることで、本当に困っている人のところに支援が届きやすくなるんだよ。その結果、社会全体のインフラの復旧スピードが上がると言われている。

インフラって、みんなで守っているんだね。

災害からの復興を支援する募金にも、インフラの復旧に使われるものもあるみたい。今度見かけたら協力しよう。

私はイノベーションにすごく興味が湧いたよ。自分たちが開発した技術で世の中を良くしていけるって、素敵なことだよね!

発見! SDGsチャレンジャー(目標9) ローテクだからこそ役に立つ!現地の事情に配慮した地引網式ゴミ回収ネットを開発 長岡工業高等専門学校 小林勇貴さん、坂井翔太朗さん、関口未来莉さん(3年生)

  • イノベーションは必ずしもハイテクであるとは限りません。JICA(国際協力機構)がアフリカの提携先と設定した課題に対し、全国の高等専門学校の学生チームが解決策を提案する「JICA-高専オープンイノベーションチャレンジ」。この取組は、内閣府ほか複数の省庁等が主催する「第5回 日本オープンイノベーション大賞」において、最高賞である内閣総理大臣賞を受賞しています。そして、2022年度の「JICA-高専オープンイノベーションチャレンジ」では、マダガスカルの洪水対策というテーマにおいて、長岡工業高等専門学校の小林勇貴さん、坂井翔太朗さん、関口未来莉さんが出したアイデアが、約7チームの中から見事選抜されました。

    事前資料を読み込み、現地の人からもオンラインで綿密なヒアリングを行って開発したのは、川や湖にたまって氾濫を引き起こす大量のゴミや水草を取り除くための、地引網式ネットです。3人が重視したのは、電力がなく、技術者が少ないという現地ならではの事情でした。そこで、“かき集める”ことを得意とし、昔から日本で広く使われてきた地引網に着目。電気を使わず、現地で簡単に手に入る材料を使い、誰でも簡単に作れて補修ができるシンプルな装置を考案しました。知り合いの漁師に相談したり、学校のプールで試作品を実験したり

    事前資料を読み込み、現地の人からもオンラインで綿密なヒアリングを行って開発したのは、川や湖にたまって氾濫を引き起こす大量のゴミや水草を取り除くための、地引網式ネットです。3人が重視したのは、電力がなく、技術者が少ないという現地ならではの事情でした。そこで、“かき集める”ことを得意とし、昔から日本で広く使われてきた地引網に着目。電気を使わず、現地で簡単に手に入る材料を使い、誰でも簡単に作れて補修ができるシンプルな装置を考案しました。知り合いの漁師に相談したり、学校のプールで試作品を実験したりして、形やサイズ、おもりや浮きの位置などを調整。2023年の1月にはマダガスカルを訪れ、実証実験にも立ち会いました。

  • して、形やサイズ、おもりや浮きの位置などを調整。2023年の1月にはマダガスカルを訪れ、実証実験にも立ち会いました。

    「ローテクですが、専門的な技術が必要なく、コストも抑えられて長く使えるので、現地で広がっていったらうれしいですね」と関口さん。小林さんも「自分たちのアイデアが課題の解決に役立ち、現地の方たちと喜びを分かち合えたのがうれしかったです」と達成感を滲ませました。「もっと専門知識や英語で伝える力を身につけたいですし、視野を広げていろんなアイデアを出せるようになりたいです」と坂井さん。3人とも、今回の経験を通じて、さらなる国際貢献の取組に参加したいという意欲が湧いたようです。現地の実情に寄り添う気持ちと、身近なものからヒントを得る発想力は、さらに多くの人を助ける力になることでしょう。

SDGs目標9「産業と技術革新の基盤を作ろう」に関する住友ファーマの取組 ~オープンイノベーション活動※を通じた新薬創出に向けて~

  • 住友ファーマは、オープンイノベーション活動の一つとして、大学やスタートアップ企業などの研究者を対象に、新しい研究テーマや当社が行っている研究を加速するためのアイデアを募集するプログラム「PRISM」(Partnership to Realize Innovative Seeds and Medicines)を行っています。当社のホームページ内に本活動に関するウェブサイト「PRISM」を開設し、2015年度から募集しています。

  • https://www.sumitomo-pharma.co.jp/prism/

  • 例えば、2023年度は研究ニーズ掲示Ⅱ型の応募を行っています。(2023年12月末時点)

    当社は、2014年12月にオープンイノベーション開発室(現:オープンイノベーション推進部)を設置しました。社会に必要とされる新薬の継続的な創出に向けて、国内外の研究機関や企業から新薬の候補になる物質や最先端の創薬技術などの提携や共同研究を強化・推進しています。

  • 未来のくすりを創るプログラムである「PRISM」を通じて、当社は大学やスタートアップ企業などの研究者のみなさんとの連携を進め、自社の創薬の基盤の強化を行っています。これにより、社会に役立つ革新的な新規医薬品を継続的に創出し、アンメット・メディカル・ニーズ(いまだ有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズ)に応えることに引き続き取り組んでいきます。

※企業が外部と積極的に連携や交流をすることで、自社内にこれまでなかった技術やアイデアを活用し、
効率的に革新的な価値(イノベーション)を創り出す手法のこと

監修:蟹江憲史(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)